ちびずマムのマイペースな育児・料理・翻訳日記

2007年生まれの1号くんと2010年生まれの2号くんに振り回されつつ、自分の夢もなんとか追っていきたい、ちびたちのマム

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

2017年11月21日 | 読んだ本(日本語)
カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『わたしを離さないで』

はい、あのノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの本です。

映画化されたので、ストーリーもわかってたのですが、
ハッピーエンド大好きなくせに、なんで読んだんだ、私!
バカバカバカ!


それはさておき……
最初から丁寧語で物語が始まり、本によってはそれをまだるっこしいと感じることもあるのですが、
要所要所に「ん?」「あれ?」というのがあって、だからこそ続きが気になってどんどん
読んでしまいます。

できれば、ストーリーを知らずに読みたかった。そうすれば、ヘールシャムという寄宿学校(のようなところ?)で
育てられている“生徒”たちがは、実はただの生徒ではないとわかって、なぜ、というその
謎めいたところも楽しめると思います。

まあ、ざっくりいうと、そこの“生徒”たちは他人に臓器を“提供”するために生まれ育てられた
のです。語り手のキャシーが、ずっと一緒に育ってきたルースとトミーのことを思い出しながら語ります。

その一見、どこにでもある子どもらしい諍い、恋模様、風景は、待ち構えている結末を思うと、
本当に悲しいです。臓器提供という“使命”に猶予をもらえるのではないか、と最終的には
愛し合うようになったキャシーとトミーが希望を持つのですが、それもただの誤解であるとわかり、
物語は淡々と語られていきます。

こんなのってないよ~。悲しい~。


クローンとして生まれ育ち、臓器提供がすめば使命が終わって命も終わる、というその
使命(宿命?)を背負ったクローンも、豊かな感情を持った同じ人間なのだと思うと、なんだか
普通のアンハッピーエンドの小説を読んだ後の感じとは違うなんともいえない複雑な読後感でした。

そしてそのクローンたちの育つ環境を改善しようという運動がスキャンダルでダメになり、
臓器がどこから出てくるのかを見ないようにするという世間の風潮など、なんだか
現代の問題について、臭いものに蓋をする的なところが似ているなと思ったりも。