安部公房『デンドロカカリヤ』新潮文庫(2010-42)★★★★
変身についてのお話はないものか探しているときに、学生たちが探してくれた本のなかに、人間が植物に変身する安部公房の話があった(有難う!)。飛びついて読んでみた。冒頭の一段落。
道を歩きながら石を蹴っとばしてごらん。何を考えているの?さあ言ってごらん。何処にいるの?季節は教えてあげてもいい。春だよ。路端の、石がころげて行った先の、黒くしめった土くれ。みどりいろ。何が……、何が生えてくるのだろう?いや、君の心にだよ。何か植物みたいなものが、君の心にも生えてきてるのじゃないの?
春先になってなんとなくウキウキしているのだろうか。石を蹴っ飛ばして、その先にある緑色した土くれに何が生えてくるのか想像してみよう言われて、急に、その想像は反転されて、君の心に、植物が生えてきているのではないかと言われる。日常の感覚が、ある些細な出来事をきっかけにあらぬ方向へと転げ落ちていく予感なようなものが語られている。
ぼくらはみんな、不安の向うに一本の植物をもっている、伝染病かもしれないね。植物になったという人の話が、近頃めっきり増えたようだよ。
コモン君はふと心のなかで何か植物みたいなものが生えてくるように思った。ひどく悩ましい生理的な墜落感。不快だったが心持良くもあった。と、今度は本格的な地割れらしい。地球が鳴り出した。(地球もやっぱりこの重みに耐えかねたのだろうか?)ぐらぐらっとしたと思ったとたん・・・・、まったく変なのさ、コモン君は急に地球の引力を知覚したんだよ。奇妙じゃないか、引力を感じたんだよ。ぎゅっと地面に引き止められた。まるで地球にはりついたよう・・・・、じゃない、事実はりついたんだ。ふと俯向いて、愕然とした。足が見事に地面にのめり込んでいる。なんと植物になっているんだ!ぐにゃぐにゃした細い、緑褐色の、木とも草ともつかぬ変形。
コモン君の顔は、裏返しになっていたのだ。コモン君は、むしりとるように顔をはぎとると、表返した瞬間、すべてはもとに戻っていた。それから一年後、コモン君は、K嬢からの手紙を受け取る。意気揚々と喫茶店カンラン向かうコモン君。そこでもまた、コモン君は、植物となる。
やがて、一年前の体験とそっくり、意識の断層、高い壁がそそり立っていた。ぼんやりした顔が映ってみえた。よく見ると裏返しの顔だった、おまけに全身ほとんど植物になっているのさ。、草とも機ともつかぬ奇妙な植物、指先は葉になっていて、形は菊の葉に似ていた。あまえ見ばえはしない。しかし見順れぬ植物、こわばって、もうよく動かなくなった体を必死になって、やっと顔をつかみ、引きはがし、なんとか表をむけると、瞬間、すべては元どおりになっている。
裏返った顔を表にすると、植物から人間へ元どおりになる。コモン君は気がつく。「ゲーテの原・植物を想出したんだよ。変形の奥底に浮かび上がる非存在」。安部公房は、植物にも変身しうる人間存在の不安定さを提示している。