「家」 @ 鎌倉七里ガ浜 + 時々八ヶ岳

湘南七里ガ浜(七里ヶ浜とも)から発信。自分の生活をダラダラと書きとめるブログ。食べ物、飲み物、犬の話題が多い。

建築をめぐる3つの職業(3)

2008-09-28 07:37:30 | 建築外観・構造


最後に大工。阿保昭則著『大工が教えるほんとうの家づくり』(文藝春秋)である。最近では住宅について、素人にもわかりやすいように書かれた本が次々と出版されているが、この本は「久々に良い本を読んだなぁ」と思えるものだった。高い技術を持った大工が、その技術についていろいろ教えてくれる本である。そこに書かれている内容が、経験に裏打ちされていることを実感出来るのだ。

阿保氏はハウス・メーカーや設計士を批判する。大工として建築現場から見れば、メーカーや設計士など「いろいろとおかしなことを言いやがって」と思えてしまうのだろう。

経験を積んだ大工(あるいは小さな工務店)がいれば良い家を建てることは可能で、設計士など不要であると阿保氏は考えているようだ。実は私も同感だ。構造計算は建築士の資格がないと出来ない仕事だが、普通の家の間取りなら、施主や大工が常識で考えればかなりの程度完成出来る。一方、設計士が良い間取りを考えてくれるとは限らない。良い間取りは経験と考察の総合力で出来上るものだ。設計士には身勝手な主張をする人も多く、彼らが考えた間取りが良いとは限らない。

私が設計士に身勝手な人が多いと感じるのは、間取り以上に住宅の外観に関してである。設計士は住宅が「普通」ではつまらないと思うらしい。個々の住宅のどこかに、彼あるいは彼女の独特なデザイン性を発揮ないと、設計士自身がつまらないのである。しかしそれははた迷惑というものである。住宅街の1住人としては、自分の家も含め、自分が住む通りの家並みの連続性というものを大事にせねばならないと思う。自分の家の外観も周囲の景観の一部であるからだ。

デザインに凝ることはかなり危険である。細部に凝るほど、複雑なデザインにするほど、あれこれ色を使うほど、一歩下がって住宅を全体的に見た時に、統一感とバランス感のあるデザインになる確率は下がってしまう。デザインはシンプルなほど、失敗した!と後で後悔する羽目に陥る確率は下がるのである。さらに周囲の家々とのバランスの問題もある。設計士が施主に説明する時によく使う、自分の家の小さな紙の模型を見せてもらっても、周囲の家とのバランスなどわかりはしない。

今や私の住む住宅街にも、山荘のある別荘地にも、日本の伝統的なデザインを踏襲する家など存在しない。しかし阿保氏は、様式がばらばらな家であっても、よく考えられてしっかり建てられた家々が並ぶ通りは美しく見えると言う。きちんと普通に建てることが重要なのであろう。
コメント (4)
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