花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

国立西洋美術館「カラヴァッジョ展」感想(5)

2016-03-09 00:48:40 | 展覧会

今回の「カラヴァッジョ展」の副題には思わずニヤリとしてしまった。「CARAVAGGIO and his Time:Friends,Rivals,and Enemies」、すなわち「カラヴァッジョと彼の時代:友人たち、ライバルたち、そして敵たち」なのだから(^^;

展示作品と史料から炙り出されるのは、カラヴァッジョの突出した才能(性格も!)と同時代の画家たちとの確執であり、当時の画壇に革新的な技法で風穴を開けた天才カラヴァッジョの与えた影響である。でも、バリオーネ裁判史料の解説で、カラヴァッジョも言及評価したアンニバレ・カラッチの名が無視されていたのは何故?? 図録でも「カラッチ一族」で括られていたし??? 

さて、閑話休題(あだしごとはさておき)、感想文を続けよう。

【酒場】 スペイン人であるジュゼッペ(ホセ)・デ・リベーラ(José de Ribera, 1591 - 1652年)はローマやナポリでカラヴァッジョの影響を大きく受けたカラヴァッジェスキのひとりである。強い明暗のコントラストと、よりリアルな写実を追求することにより、生々しくも深い人間描写を見せてくれる。私的にも好きな画家である。

ジョゼッペ・デ・リベーラ《聖ペテロの否認》(1615-16年頃)コルシーニ美術館 

酒場と思しきテーブルで兵士たちが賭け事に興じている。女が兵士に聖ペテロを指さしながら「キリストの弟子だ」と密告するが、ペテロは「知らない」と否認する。有名な「聖ペテロの否認」の場面だ。リベーラはその筆力で生々しい現場の雰囲気を活写している。兵士たちの個性描写も上手い。特に、個性的な禿げ頭の兵士や、手前中央の兵士の甲冑の光沢など、質の高い作品だと思った。

だが、聖ペテロの手のジェスチャーはカラヴァッジョ《聖ペテロの否認》の手だし、テーブルに集う兵士たち、そしてペテロを指差す禿頭の兵士は、カラヴァッジョ《聖マタイの召命》からの引用である。カラヴァッジョの与えたインパクトの大きさがわかるというものだ。

カラヴァッジョ《聖ペテロの否認》(1609年頃)メトロポリタン美術館

(画像が見難くてすみません!)

カラヴァッジョ《聖マタイの召命》(1599 - 1600年)サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会 

実は、リベーラ作品を観ながら、ロスのカウンティ美術館「Bodies and Shadows:Caravaggio and his Legacy」展で観たトゥルニエ作品を想起した。興味深いことに、フランスのカラヴァッジェスキである(バレンタイン・ブーローニュの弟子でもある)ニコラス・トゥルニエ(Nicolas Tournier , 1590 –1639年)も、リベーラ作品とよく似た構図の《聖ペテロの否認》を描いているのだ。

ニコラス・トゥルニエ《聖ペテロの否認》(1625年)ハイ美術館(アトランタ)

このトゥルニエ作品、もしかしてリベーラからの影響なのだろうか???