花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

「オルセー美術館展」のドガ

2007-02-26 03:00:53 | 展覧会
東京都美術館で「オルセー美術館展」を観た。

パリのオルセー美術館に行ってからもう随分年月がたってしまったので、今回の展覧会はかなり楽しみにしていた。同じ作品でも時を経ると違った側面も見えるし、写真作品など初めて観る作品(忘れていただけ?)も多く、とても新鮮な気持ちで観ることができた。

展示は5章からなるテーマに分かれていた。各テーマは...
Ⅰ親密な時間 Ⅱ特別な場所 Ⅲはるか彼方へ Ⅳ芸術家の生活 Ⅴ幻想の世界へ

さて、第Ⅰ章「親密な時間」で印象的だったのはエドガー・ドガ(1834~1917)の描いた肖像画だった。まるで名古屋ボストン美術館展で観たばかりの作品と呼応しているかのようだったのだ(・・;)


ドガ《Terese De Gas》(1863頃)

ドガの油彩画《テレーズ・ドガ》は画家の妹の結婚前の姿を描いたものだ。普通ならおすまししたり、晴れやかな表情で描かれるところだが、絵の中のテレーズは大きな目を見開いて何かもの言い気に兄を(こちらを)見ている。まさかマリッッジ・ブルーとか?(笑)。この絵を観ていると、記念写真というよりも一瞬を写したピンナップ写真のようで、やはり兄が妹を描くという親密さの現われだろうか?

テレーズの左手にはルビーの婚約指輪。ボンネットのピンクのサテン・リボンと黒レースのショールが印象的だ。面白いのは、丁寧に描かれたテレーズの顔やリボンの陰影がなんだかアングルを想起させることで、それに比べて何故かラフな筆致を見せていたのは右手部分だった。窓の下の壁の茶色と反復色を狙った苦肉の策?

実は私的に思ったのは、これは左手のルビーの指輪を強調するためではないか?と。ほら、CARAVAGGIOも強調したい部分だけスポットライトを当てて描き、後は闇の中に沈ませているし...。ドガも割と写実的な筆致とラフな筆致を組み合わせて構図のリズムをとっているように思える。あ、もちろん、これは美術ド素人の勝手な憶測で、本当のところはどうなのかぜひ知りたいところなのだ(^^;;

また、安定した三角形ポーズにもアングルの影響を窺わせるが、背景の縦線と四角い窓というのは西洋古典絵画伝統の二重空間♪ 解説によればこの窓の外の風景は嫁入り先のナポリだとか。そう、フォルトゥニーの描くポルティチ・ビーチと重なるラフな筆致による陽差しと乾いた土の色なのだよね。



アングル《Mademoiselle Caroline Riviere》(1805)

ドガの絵と言うと人物の動きを捕らえた踊り子のイメージが強いが、こうして古典的な構図の肖像画を見ると、ドガが観て歩いたイタリア古典絵画やアングルの影響を受けていることにとても合点がいく。しかし、一瞬の表情ともいうべき眼差しや色彩感はやはり印象派として語られるドガなのだと思う。

この数年後、テレーズは妊娠し、そして子供を失う。名古屋ボストン美術館で観た《エドモンドとテレーズ・モルビリ夫妻》は子を失った後の夫妻の微妙な雰囲気まで伝わってくる肖像画だった。次回はこの「ボストン美術館」のドガについて書きたい。(予告編倒れだったり?(^^;;;)

ギメ東洋美術館所蔵「浮世絵名品展」

2007-02-18 22:08:22 | 展覧会
先日も思ったのだが、原宿の欅並木は仙台の定禅寺通りに似ている。歩きながら一瞬宮城県民ホールに向かっているような気がした。葉を落とし黒々とした樹木のシルエットもどこか懐かしい。ちょっと里心が刺激されたかも(^^ゞ

ということで、太田記念美術館に「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」2回目、後期展示替を観に行った。
1回目の感想はokiさんのブログにちょこっと書いたので省略(^^;;;

前回は北斎の龍虎の出会いを楽しんだが、今回は華やかな浮世絵の摺りの見事さに目が惹かれた。特に魅了されたのは鳥居清長の十體画風俗から《狆をひく姫君》だった!



おっとりとした顔立ちの姫の纏う内掛けは菊花模様の散る珊瑚色の緞子、中に着た淡色の着物の草模様。打掛はよく見るとベタな色ではなく、衣装の質感を表現しようとして緞子の織模様の濃淡を浮き上がらせている。それだけではない、背景の屏風にも淡い桜色の雲が浮き上がって見える。まるで屏風絵に描かれた胡粉の盛り上がりを写したかのようなエンボス摺りの素晴らしさ!

浮世絵は描いた浮世絵師だけではなく、版木を作る彫師や摺り師の技術によるところも大きいことをしみじみと感じてしまった。そもそも、顔や髪、衣装の繊細な線なんてどうやって彫るのだろう?? 浮世絵知らずのド素人はあらためて江戸時代の版画技術の高さに驚いてしまったのだった(^^;;;

1月に観た展覧会

2007-02-09 00:48:05 | 展覧会
昨年度の私的展覧会ベスト10を選びながら、観た展覧会を記録しておく必要性を感じてしまった。ということで、自分用の覚え書きとして1ヶ月に観たものをまとめてUPすることにした。☆★の数は美術ド素人が観た「私的面白度」ということで、どうぞ大目に見ていただきたい。

■■ 1月に観た展覧会 ■■

・「光と影 ― はじめに、ひかりが、あった」(東京都写真美術館)  ☆☆☆★  

・「球体写真二元論 ― 細江英公の世界」(東京都写真美術館)  ☆☆☆

・「光と色・想い出を運ぶ人 有元利夫展」( 横浜 そごう美術館)  ☆☆☆★

・「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」(太田記念美術館)  ☆☆☆★

・「新春の寿ぎ」展(三井記念美術館)  ☆☆☆☆

・「川崎小虎と東山魁夷展」(日本橋三越)  ☆☆☆

・「イタリアデザイン界のマエストリ達」(Shiodome Italia)  ☆☆☆

・「エットレ・ソットサス 定理に基づいたデザイン」(Shiodome Italia)  ☆☆★

・「再現/1960 ミラノ」(Shiodome Italia)  ☆☆☆

・「プリンセスの輝き ティアラ展~華麗なるジュエリーの世界~」 (Bunkamura)  ☆☆☆

・「ヨーロッパ肖像画とまなざし」展(名古屋ボストン美術館)  ☆☆☆☆

徳川美術館 常設展 & 「名物裂」展  ☆☆☆☆

・「オルセー美術館展」(東京都美術館)  ☆☆☆☆





「ヨーロッパ肖像画とまなざし」展

2007-02-07 00:14:58 | 展覧会
1月の最終土曜日、名古屋に日帰り旅行をした。名古屋ボストン美術館「ヨーロッパ肖像画とまなざし」展と徳川美術館「名物裂」展を観るためだ。

雑誌で名古屋にティツィアーノの肖像画が来ることを知り、行こうかどうか迷っていたところ、なんとゲストの桂田さんの「展覧会メモ」を拝読してしまった。もちろんティツィアーノの肖像画について触れておられる。むむ…古典絵画好きの虫がどうにも騒いで収まらない(笑)。ということで、結局、名古屋に行ってしまった(^^ゞ

今回の「ヨーロッパ肖像画とまなざし」展は16世紀から20世紀まで、ヨーロッパ肖像画500年の変遷を一堂に紹介するものだった。注文主のために描く個人の記録としての肖像画から、人間の内面まで踏み込んだ美術品としての肖像画への変遷でもあった。

さて、お目当ての《本を持つ男の肖像》はやはりティツィアーノ(1488~1576)らしい威厳のある端正な肖像画で、会場でも一際堂々とした存在感を放っていた。黒の高級そうな衣装に身を包み、観者を斜め上から見下ろすようなモデルの眼差しは、ちょっと眼光鋭く高慢な感じを受ける。それを強調するのが男の姿勢で、本と剣を持つがっしりとした大きな手が腰あたりに位置し、なんだか威張っているように見えるのだ(^^;;。闊達な筆致から滲んでくるこの男の持つ冷ややかな感じは、男を照射する光の冷たさと、きっとモデルの人間性の内面まで暴いてしまうティツィアーノの筆力なのだと思う。



サイトのピッティ美術館のところでも書いたが、法王ユリウス2世を描いたラファエロ作品とティツィアーノ作品を比べると、断然ティツィアーノ作品の方が法王の持つ一筋縄ではいかない狡猾さを写し出していていた。カポディモンテ美術館のパウルス3世からも複雑な猜疑心が窺えて、ティツィアーノの肖像画の凄みを感じたものだ。今回の《本を持つ男の肖像》もまさに展覧会のテーマである「肖像画とまなざし」を象徴する作品だったと思う。

ところで、意外だったのはソフォニスバ・アンギッソーラ(1532~1625)のイニシャル紋章を持ったミニチュア自画像があったことで、解説によると画家としての自分の技量を売り込むためのものだとのこと。なるほど、細密画は技術的に難しいだろうなぁ。でも、PR用とは言え画家自身がなかなかの美人で、作品としてもきりりとしたまなざしで愛らしい。クレモナの名門貴族出身でありながら、売り込み成功によるものか、スペイン王室(フィリペ2世)の宮廷画家も勤めていたはずだ。



アンギッソーラ作品は2004年のNYメトロポリタン美術館「Realityの画家たち展」でも、《ザリガニに噛まれる少年(弟)》や《チェスをする姉妹たちの肖像》でCARAVAGGIOに先行するロンバルディアの自然主義的作品として位置づけられていた。ザリガニに噛まれて泣く少年はCARAVAGGIO《トカゲに噛まれる少年》への影響について語られることが多い。
ちなみに、前にも触れたが、ヴァン・ダイクもイタリア留学時にアンギッソーラ(当時90歳!)を表敬訪問している。

ということで、もちろんアントニー・ヴァン・ダイク(1599~1641)も登場(笑)。《ペーテル・シモンズ》の肖像は端正でも穏やかな佇まいを見せている。その眼差しにはなにやら好奇心が感じられ、口元もちょっとおすましっぽい(^^;。イギリスで描いた格調高い貴族風とも違った味があり、図録によるとモデルのシモンズは画家だとのこと。斜め横向きの構図はティツィアーノ作品とやや似ているが、そのこなれた筆致は柔らかい。また、背景に大きな円柱を配していることで広い奥行きを感じさせるが、なんだか大仰すぎるような気もした(^^;;



ヴァン・ダイクの肖像画は描かれたモデルも喜びそうなソフィスティケートされた雰囲気を持っているのだが、見るとすぐわかるような類型化が見られる。以前「華やぐ女性たち エルミタージュ美術館展」でも触れたが、意外に似たような構図があったりして不思議に思っていた。ところが『西洋美術研究No.12』「宮廷と美術」特集で中村俊春氏の《ヴァン・ダイクとチャールズ1世の宮廷》を読んだら漸く疑問が解決した。どうやらヴァン・ダイク工房では肖像画の量産体制が整っていたようなのだ。師匠のルーベンスと同じように、弟子による流れ作業もありというところだろうか?(^^;;;

ヴァン・ダイク作品は油彩画の他にエッチングの《自画像》も展示されていた。肩越しに振り向く自画像…。「ウィーン美術アカデミー名作展」の15歳の《自画像》と構図が一緒だ。エッチングの画家は30歳前後のようで、15歳のころと比べると随分おじさんに見える(笑)。それでも自負心の強さはその眼差しから十分に伝わって来るのだ。もしかして、デューラーの1500年の《自画像》と同じような気持ちで描いたのだろうか?

ヴァン・ダイクの銅版画と言えば、以前、ルーベンスの肖像を描いた作品を観たことがある。なんだか仰々しい大画家風で苦笑してしまったのだが、今回の肩から上だけというさり気ないポーズと構図(そして余白)の方が、一瞬の眼差しを強く印象付ける好作品だと思った。このポーズだが、図録ではヴァン・ダイクが考案したように書いてあるけれど、結構ルネサンス絵画にも見られるし、そーかなぁ?と思ってしまった(^^ゞ

以上、<16世紀の肖像画>と<17世紀の肖像画>からピックアップしての感想だったが、実は<19世紀の肖像画>も興味深いものがあったのだ。ということで、次回は東京都美術館「オルセー美術館展」と合わせて感想を書きたい。二つの展覧会とも肖像画を扱っており、重なる部分もあって、どちらも観られてラッキーだったのだ(^^)v