花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

「大竹伸朗 全景」展

2006-12-24 18:41:35 | 展覧会
ゲストのokiさんから頂いたチケットで東京都現代美術館「大竹伸朗 全景」を観てきた。
現代美術に疎い私も「ミスター・ピーナッツ」ぐらいは何かで眼にしていたが、実際はどんなアーティストなのか殆ど知らなかった(恥)




「80年代初頭に新しいペインティングの旗手として鮮烈なデビューを飾って以来、目に映る世界をすべて題材として、質・量ともに比類ない絵画を生み出し続けるとともに、立体、写真、本、印刷物、音など、衝動のおもむくままにあらゆる手段を取り込んで、多彩な活動を展開してきた」とのこと。

今回の展覧会は「全景」というテーマでもわかるように大竹の小学校時代の作文や漫画から最近作に至る大回顧展である。大竹少年の作文からは日光東照宮の彫刻に感動したことが伝わってきたし、高校時代には版画作品までものにしている。美大時代には北海道で写真を撮ったり、海外放浪(?)で欧州やアジア・アフリカまで足を伸ばし、膨大な(!)コラージュ作品を創作したりしている。「全景」展示作品はジャンルも多肢に渡り、量的にもかなりの数にのぼる。帰国してからも感性の赴くまま多彩な創作活動をしてきたことが作品群からじわじわと伺えた。

特に興味深かったのは初期コラージュ作品群等から強烈に感じ取れる混沌としたエスニック(多分にキッチュ)感である。過剰なまでのエネルギーに満ちていて、近年の「ダブ平&ニューシャネル」ステージの造形にも観ることができる。思うに、もしかしてその原点こそ小学校時代の日光東照宮にあるのではないだろうか?東照宮を装飾し埋め尽くす彫刻は決して侘び寂びではない過剰でエネルギッシュなものだ。私的にはとてもエスニックな建築物に思えるのだが…。

大竹の創作エネルギーの凄さに圧倒されるものの、そのベクトルが自分の嗜好の向きと異なることも確かで、大竹のごちゃごちゃとした過剰さがすんなりと心に響いてこなかったのがちょっと残念だった。それでも、「旅の記憶」のようなスケッチ風の繊細な作風は素敵だったし、子供のために作った絵本は微笑ましい。ある意味で大竹自身の振幅の大きさとも言えるのかもしれない。

今回の展覧会では全体的に「美」を感じることができず、やや困惑してしまったのだが、せめて唸ってしまうような秀逸な写実的油彩画が1枚でも展示されていたら全てを肯定できるところなのだが…。現代アーティストの起点にそれを望むのは無いものねだりなのだろうか?
まぁ、アートというものはそれぞれの感性で受け取り方も違うし、美術ド素人ということで暴言はご容赦を…(^^;;;

樂美術館「光悦と樂道入」 展

2006-12-14 02:34:14 | 展覧会
東京国立博物館「若冲と江戸絵画(プライス・コレクション)展」では展示後半に、照明の点滅により屏風を映し出す陽光の移ろうさまを再現する試みが見られた。夜の帳に蝋燭の明かりで映し出される風情も想像でき、ハレやケ、当時の日常のなかで屏風を置く暮らしを彷彿させる。照明の向きや強弱のなかで注意深く観ていると、金地や銀地は装飾だけではなく光の効果を高めるためであり、胡粉の白は薄闇に浮き上がる幽玄な趣を持つことにも気がつく。昔人の備えていた光への繊細な感覚を現代人の私はうっかり忘れるところであった。そのことを改めて教えてくれたのが樂美術館「光悦と樂道入 ― 二つの樂茶碗 二人の交友」展だった。





先にも書いたように私は長次郎の黒に強く惹かれている。光も闇も宇宙もすべて呑み込んでしまうかのような寂びた黒…。以前、長次郎の黒樂茶碗と道入の黒樂茶碗が並んで展示されたところを見たことがあるが、光を吸い尽くす長次郎の黒、艶やかな光沢を生む道入の黒、そのあまりにも違う肌合いに戸惑ってしまった。美術ド素人の短絡的な反応で、道入は軽明で好きではないとさえ思った。ところが、今回の樂美術館での展示照明により道入茶碗の光沢釉の意味がようやく了解できたのである。

楽美術館での展示照明は蝋燭の灯りを思わせる黄味を帯び、茶碗を照らすのも低い位置からのスポットライトだった。そこに見たのは黒々とした光沢釉の垂れる厚みさえも意図したかのように浮かび上がる茶碗の造形と艶の醸し出す陰影の面白さだった。道入の「幕釉(まくくすり)」は光沢黒釉の上に流下性の強いさらに艶やかな黒釉を二度掛けしていると言う。まさに光を意識し、その効果を前提にして掛けられていることに気がついたのだ。




やはり!であったのは、鑑賞後に購入した図録のなかで当代の樂吉左衛門氏も指摘しており、当時の茶道が利休好みの薄暗い茶室から古田織部の連子窓のある明るい茶室空間に変っていったことも起因にあるようだ。茶道の流れの変化に沿いながら、道入は長次郎や父常慶とも違う作風を創作していったのだろう。そして、そこには常慶・道入親子と本阿弥光悦との交流も存在していた…。


ということで、展覧会のお目当てはもちろん光悦の茶碗であった。「不二山」や「熟柿」などの斬新な造形と景色に魅了されていたので、この展覧会で光悦茶碗の多く並ぶ様はあまりにも嬉しくて胸はどきどきするし眼は寄ってしまうし…(笑)。そして、企画テーマである樂家の常慶・道入親子との交流によって作られたことも知ることになる。特に光悦の黒樂茶碗「東」「朝霧」「水翁」などは蛇蝎釉も見られ、道入の茶碗と同じ土・釉薬・窯で焼かれた作品であることがよくわかるのだった。三井の展覧会でも展示されていた“ちゃわんや吉左”宛の光悦筆の手紙等の資料からも、光悦が樂家父子、特に道入の才能を買い後ろ盾ともなり、可愛がっていた様子が伺える。そうした中でお互いの刺激と影響がそれぞれの茶碗に反映している、が、しかし、作陶の精神において、というのが樂当代の見るところであるようだ。

さて、今回、数ある光悦茶碗のなかで一際見惚れてしまったのは黒樂茶碗ではなく、赤樂茶碗「乙御前」だった!柔らかな桃の花のような赤楽で、丸みを帯びた御尻もかわゆらしく、手で包み込まれながら内に外に口部が形成されて行ったことが眼でも追えるのだ。展示ガラスに張り付きながら右から左から角度を変えながら眺めてみると、その胴部や口部のゆがみもそれぞれに絶妙で唸ってしまうほどだ。薄く削られているようで、持てば「熟柿」よりも薄く軽く丸く手に沿うような形だ。この愛らしい茶碗を益田鈍翁が「たまらぬものなり」と書き付けたのも頷ける。見ているだけで顔がほころんでしまうような茶碗だからお点前で頂いたらどんなだろう?きっと艶やかな桃赤と濃緑は美しく映え、一層美味しくいただけるにちがいない。こんな素敵なお茶碗でお茶を飲みたいものだなぁ~>持ち主さま(^^;




で、道入の茶碗で一番印象的だったのは「稲妻」だった!その黒と赤との釉薬の激しく鬩ぎ合う景色は確かに稲妻を発しているようにも見える。特に黒釉に滴り滲む赤釉の燃え上がるような彩にはゾクッとするものがある。なんとも凄みを感じさせる異色の樂茶碗だなぁ、と思いながら解説を読んだら、なんと表千家代々の家元襲名の茶事にのみ使用が許される茶碗だと言う(・・;)。茶道知らずが勝手なことを言うのだが、この茶碗は手ごわくて普通に扱うのはきっと難しいかもしれない。この破格な存在感を御すのにはよっぽどの力量が無いと…だろうね。まさに道入の気魄が伝わって来る茶碗である。




今回の展覧会は前半に光悦茶碗、後半は道入茶碗がずらりと並び、実に眼に壮観であった。三井の展覧会の流れとしてもタイムリーで興味深い企画だったと思う。それに私的にも、千利休と樂長次郎が作り上げた樂茶碗が時代の流れに沿いながら、時代の新しい息吹を孕んで変化していく様をすんなりと受け入れられるようになったのは収穫だった。しみじみ思い出すにつけても、樂美術館の醸し出す美意識と、樂茶碗の持つ美が調和する、気持ちの良い展覧会だったなぁ...。

京の紅葉

2006-12-09 03:58:26 | 国内旅行
五島美術館の「名碗展」で茶碗の魅力に目覚めて以来、なんやかんやと茶碗や焼きものを観る機会が多くなった。茶道もやらないので、ただ純粋に眺めて楽しむだけなのだが…。そんな私のお気に入りビッグ3は、樂長次郎・本阿弥光悦・仁清である。って、京焼好きということだろうか?

今年の9月には三井記念美術館「赤と黒の芸術-楽茶碗」展で長次郎茶碗をたっぷりと観ることができ、樂家代々の茶碗を心行くまで堪能した。そんななか、京都の樂美術館で「光悦と樂道入 ― 二つの樂茶碗 二人の交友」展が開催されるというポスターを見る。行きたいけれど京都は遠いなぁ…と思っていたら、京都国立博物館でも「京焼―みやこの意匠と技」展が開催されるとのこと。細見美術館でも「江戸琳派 抱一・基一の粋」展があると言うし…。う~む…とかなり悩みながら…京都に行く!と決心したのはゲストのCojicoさんのブログを拝見したからでもあった。「大レンブラント展」の時に行きそこなった智積院も見たいっ!これでほぼ出揃ったかな(笑)

ところが、京都は紅葉の季節真っ盛り。まず、ホテルが取れない。ようやくキャンセル待ちをしてホテルを確保できたのは樂美術館の展覧会の最終土曜日だった。滑り込みセーフ!(笑)





紅葉狩りで混み合う京都で、美術館めぐりに終始するなんてねぇ…と、溜息つきながら駆け巡っていたのだが、そこは京都、ちゃんと道すがらに紅葉見物もできたのだった(笑)。ということで、画像は樂美術館から北村美術館に移動する際に横切った京都御所の紅葉。

2007年 ダ・ヴィンチとCARAVAGGIO

2006-12-02 02:32:26 | NEWS
ダ・ヴィンチの「受胎告知」、来年3月に日本初公開…





今日(12月1日)の朝日新聞朝刊第1面記事は職場で話題になるほどのインパクトだった。ダ・ヴィンチの「受胎告知」がやって来るとは!

美術館にめったに行かない人たちもぜひ観たいと言うし、凄いなぁ~「ダ・ヴィンチ・コード」の影響は(^^;。どうやら混雑必至の予感がする。ウフィッツィで観たばかりだけれど、やはり3月になれば人波覚悟で東博に行くのだろうな>私。それだけ魅力ある作品だと思う。

さて、それよりも注目すべきはこれ、伊日財団のサイト

「2007年には、ローマ美術監督局と同局のストゥリナーティ長官の監修でバロック絵画展の開催が予定されています。この展覧会は六本木に新しくオープンする国立新美術館の開館記念イベントのひとつとして計画中です。 」

もしかして、この展覧会に例の英国女王陛下のCARAVAGGIO作品が展示されるのではないかと密かに推測しているのだが、どうなのだろう?