花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

2008年「展覧会私的ベスト10(国内篇)」

2009-03-09 02:06:27 | 展覧会
先日、中学校時代からの友人との電話で、何かの拍子に美術の話になり、ヴェネツィア派は素敵だと言ったら「職人さんの絵ね」とバッサリ斬り捨てられ、川俣正の「通路」はつまらなかったと言ったら、「ものを創る人でないとわからないよね」と慰められた(およよ…(^^;;;)。

まぁ、友人は現代美術好きで昔は油絵描いていたし、私は美術ド素人で単なる追っかけだし、何を言われても開き直りでめげてはいない(笑)。でも、人の見方や好むところは十人十色、皆それぞれ違うなぁ..とつくづく思ってしまう。なので、遅ればせながらの「2008年度私的ベスト10(国内篇)」も、人それぞれ、と笑って見てもらいたい(^^;;;


1.「ウルビーノのヴィーナス展」 (国立西洋美術館)
  美の女神ヴィーナス像の図像的変遷を勉強…というよりも美しい裸体像を堪能と言うところでしょう(笑)

2.「対決 日本の美術」 (東京国立博物館)
  豪勢な対決企画だった。長次郎と光悦の際立つ違いも面白かった。長谷川等伯の《松林図屏風》にはさすがの狩野派も勝てないよねぇ、としみじみ..。

3.「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」 (東京都美術館)
  いやはや、フェルメールをこれだけまとめて観れたのには感謝!初期作品にユトレヒト派の影響を確認できたのも嬉しい。

4.「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密」 (国立新美術館)
  美術史美術館にはイタリア静物画やスペインのボデゴンが少ないことがわかった(^^;;。それから、宮下先生の講演会も聴講できたし!

5.「わたしいまめまいしたわ 現代美術における自己と他者」 (東京国立近代美術館)
  すんなり面白かった!現代美術苦手の私にも企画の意図が伝わってきたし、展示作品も秀逸で魅力的。回文の題も良いよね(笑)

6.「巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡」 (国立新美術館)
  ピカソ苦手がなんとか克服できたのが大収穫(笑)

7.「小袖 江戸のオートクチュール」 (サントリー美術館)
  江戸の粋を見たのは実は男性着物。渋色の唐桟表着の下に紅の映える花卉模様更紗間着!!

8.「茶人のまなざし 森川如春庵の世界」 (三井記念美術館)
  「乙御前」を持っていたんだから凄いよねぇ。益田鈍翁という存在があったから頑張れたんだと思う。でも、数寄ってお金がかかるものなのねぇ(^^;;;

9.「宮廷のみやび 近衛家1000年の名宝」 (東京国立博物館)
  近衞家熙の美意識って型破りで面白い!江戸時代の公家の自意識と閉塞感の裏返しだろうかね??

10.「青春のロシア・アヴァンギャルド」 (Bunkamuraミュージアム)
  革命後のロシア美術の様相がわかる展覧会だった。ピロスマニやマレーヴィッチもしっかり観たぞ。

悩みながら選から外した展覧会も多い。う~ん、ベスト10なんて本当は気分次第なのかもね(^^ゞ

さて、2008年も様々な展覧会を観た。自分の趣味範囲を超えて色々と観れたのはokiさんから頂戴したチケットに負うところが多い。改めて感謝!

国立西洋美術館「ルーヴル美術館展」(1)

2009-03-07 02:39:14 | 展覧会
国立西洋美術館「ルーヴル美術館展-17世紀ヨーロッパ絵画」を観てきた。
ついでに総合監修者であるルーヴル絵画部ブレーズ・デュコス学芸員による講演会も聴講した。講演会内容は公式サイト「展覧会のみどころ」の詳細解説というところだった。

1.「黄金の世紀とその知られざる陰の部分」を映し出す
2.「大航海と西洋文明と異文化の対決、科学革命の世紀」を絵画で示す
3.「聖人の世紀」の宗教的側面と、それが「古代文明の遺産を継承している」という事実を示す

展覧会構成も普通にありがちな地域別・時系列的な展開ではなく、テーマに沿った作品展開で意図を炙り出して行く手法なので、展示作品も有名作品に限らなくジャンルを超えているところが面白い。

で、やはり…と思ったのはデュコスさんがバロックでもオランダ・フランドル絵画を専門としていることで、今回の展覧会にはイタリア絵画が少ない理由が了解された。従って、17世紀ヨーロッパを読み解くという視点も、当然「1650年頃…、世界の中心とは、微少なるオランダ、あるいはアムステルダムである。」などというフェルナン・ブローデルの引用が図録冒頭を飾ることになるのだろう。

しかし、17世紀バロックならば、まずはカラヴァッジョを持って来ても良かったんじゃないのか?アンニバレ・カラッチ工房作品だって展示されていたのだし。それに、表記が「ローマ派」となっている作品はある意味で「カラヴァッジョ派」と言い換えても良い作品ばかりだった。もしかしてカラヴァッジョ作品不在を気付かせないようにする隠蔽作戦ではないのか??(^^;;;

まぁ、もちろん17世紀と言っても今回の企画は「美術史」的なものよりも、絵画から当時の社会を読み解こうとするものであるから、私としてもあまり文句は言わないようにしたい(笑)


Ⅰ.「黄金の世紀」とその陰の領域 
17世紀ヨーロッパは絶対王政の下、文化的にも黄金期を迎える。その華やかな宮廷文化と裏腹のドイツ30年戦争や対オスマントルコ戦、奴隷制による植民地支配などの陰の領域もあった...。

オープニングはニコラ・プッサン《川から救われるモーゼ》だった。作品テーマ自体は旧約聖書で有名なシーンであり、バロック的身振りが印象的なプッサンらしい古典的作品である。


ニコラ・プッサン《川から救われるモーゼ》(1638年)

ここで取り上げられたのは華やかな宮廷文化の象徴である宮廷画家としてのようだ。17世紀フランス画家の代表選手と言ったら、やはりプッサンなのだろうなぁと納得はするが、パリでの宮廷画家の身分をさっさと捨ててローマに戻ったくらいだし、その画家活動の大部分はローマにおいてである。私的にはプッサンもクロード・ロランもイタリア・バロックの画家だと思っているくらいだし(^^ゞ

で、プッサン作品に続いたのは「私はフランスの女王なのですから!」と全身で表現しているかのようなフランス・プルビュス(子)《マリー・ド・メディシスの肖像》だった。


フランス・プルビュス(子)《マリー・ド・メディシスの肖像》(1610年)

フランス王家の百合の紋章が織り込まれた華麗な意匠に身を包み、いかにもタカビー視線である。背景が宗教画によく登場する玉座風になっており、王権神授説となにか関連などあるのだろうか??
ルーベンス《マリー・ド・メディシスの生涯》はルーヴルでその大仰さにバロックだなぁと思ったものだが、このプリュブス作品は硬く古風なルネサンス風に感じてしまった。

で、呼び物のフェルメール《レースを編む女》も、17世紀当時のオランダの豊かさを象徴する作品として展示されていた。


ユハネス・フェルメール《レースを編む女》(1669-1670年)

視線はレースを編む指先に吸い寄せられる。しかし、ここでもやはり画家の描きたかったのは描かれていない窓から差し込む陽光なのだと思う。指先に、額に、そして背景の白壁に映る光…。レース編みに熱中している若い女を取り囲む室内の空気そのものが小さな画面に濃縮して描かれていのだよね。ルーヴルではもっと近づいて観られたから、光の粒や、赤と白の糸の流れのリアルさに驚嘆したのだが、今回は絵との距離が少し遠くて残念だった。

さて、今回の展示では17世紀ヨーロッパの「光」部分を描いた作品よりも、所謂「陰の領域」作品の方に興味深い作品が多かった。その中でも圧倒的な力を持っていたのはル・ナン兄弟《農民の家族》だと思う。


ル・ナン兄弟《農民の家族》

華やかな宮廷文化や豊かな市民層とは対照的に、絵の中には貧しい農民の家族が、静かに、荘厳に、そこに存在している。もしかして、ル・ナン兄弟は宗教画を描いたのだと思う。貧しい暮らしの中にも神の光は照らす。母親の持つワインの赤はキリストの血を象徴しているのではないか? ここには、君主や貴族の暮らしを支える農村の貧しさ、17世紀の現実が描かれている。

絵画的には色調を抑えた明暗表現、ドラマ性を感じさせる画面構成に、もちろんカラヴァッジョの影響を見ずにはおれない。ついでに、ルーヴル所蔵のもう1枚のル・ナン兄弟作品を紹介してしまおう。


ル・ナン兄弟《農民の食事》(1642年)

文句を言わないかわりに蛇足ではあるが少しばかり引用する(^^;;;
「十七世紀以降の絵画は、イタリアに<正起した>芸術が据えた基盤によって、イタリアの外で発展した。実際カラヴァッジオとヴェネツィア派は、現代にいたるすべてのヨーロッパ絵画の拠り所である。….カラヴァッジオは、<光>による新しい<絵画的マチエールの中に獲得された造形性>の伝統を定めた本質的な磁石である。この伝統は、ル・ナンからシャルダンを経てクールベにいたる、フランスのもっとも優れた画家たちを生み出した」(ロベルト・ロンギ「イタリア絵画史」より)

さて、もうひとつ眼を惹かれた作品がある。17世紀ローマ派《テーブルを囲む陽気な仲間》は庶民を描いた風俗画だ。観た途端、これはカラヴァッジェスキ作品だと思った。


17世紀ローマ派《テーブルを囲む陽気な仲間》

雰囲気的にホントホルストやバビューレン的なものを感じる。図録ではフランドルの画家だろうとのこと。思うに、もしかしてカラヴァッジョを個人的に知っていた画家かもしれない。フィアスコ(酒瓶)を勧める横顔の男がカラヴァッジョによく似ているのだ。それに、テーブルの端からはみ出したナイフやたまねぎの皮…、衣服のほつれなどの質感描写などに注目! 特に左端後姿の男の白いブラウスの筆致には眼が吸い寄せられた。カラヴァッジョの白を際立たせる灰色には独特のものがあるのだが、この灰色のトーンの上に重ねた白の筆致などかなり似ていてドキッとしてしまった。それから、中央でお酒を飲む男の青い服も気になる。何故だろう?

ということで、題1章はフランス王妃や豊かな市民のお嬢様から、貧しい農民や市井の庶民たちまで、17世紀ヨーロッパ「黄金の世紀」を描いた作品構成であった。でも、果たして展示作品だけで「知られざる陰の領域」は観客に伝わっただろうか?