花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

東京都美術館「ボストン美術館の至宝展」の感想(1)

2017-09-19 23:58:11 | 展覧会

今日のニュースで、雪舟の幻の水墨画=うちわ型「倣夏珪山水図」が発見されたことを知った。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017091901026&g=soc

発見されたのは、雪舟「倣古(ほうこ)図」シリーズ不明作品の中の1点であり、夏珪は中国南宋の画家である。

東京都美術館で観た「ボストン美術館の至宝展」にも夏珪の《風雨舟行図》が来日していた。実は今回の展覧会で私的に目を喜ばせて貰ったのは意外にも中国美術だったのだ。

夏珪《風雨舟行図》(1189-94年頃)ボストン美術館 

今回の展覧会は西欧絵画だけでなく、ボストン美術館を構成する各分野からの作品が展示されており、展覧会構成は…

1)古代エジプト美術 2)中国美術 3)日本美術 4)フランス美術 5)アメリカ絵画 6)版画・写真 7)現代美術

そして、これらの多岐にわたる美術作品を寄贈したコレクターにもスポットを当てている。

米国の多くの美術館は市民であるコレクターの寄贈によって成立しているが、ボストン美術館の所蔵作品の層の厚さもまた、ボストンの歴史と市民たちの懐の深さをも物語っていた。なにしろ岡倉天心を招聘した美術館でもあるのだから。 

私も2007年の米国旅行でボストン美術館を訪ねた。

しかし、興味のある西洋美術と日本美術を重点的に観たので、古代エジプトや中国美術は素通りしている。なので、今回の中国美術作品は初見であり特に目に嬉しいものだった。取り分け、徽宗《五色鸚鵡図巻》と陳容《九龍図巻》には目を見張ってしまった。

徽宗《五色鸚鵡図巻》(1110年頃)ボストン美術館

徽宗《五色鸚鵡図巻》は、先ず徽宗の痩金体が目に飛び込み、それに続き、まさしく院体画然とした花枝と鸚鵡(本当は鸚哥らしい)に、やはり徽宗だなぁ!と感嘆してしまった。この書と画のハーモニーが格調高くも雅であり、徽宗の美意識の有り様にしばしうっとりと見とれてしまう。でもね、「水滸伝」好きとしては、あなた民のこと考えてるの?とツッコミたくもなったのだ(^^ゞ


ヴァランタン・ド・ブーローニュ《荊冠のキリスト》。(追記あり)

2017-09-18 22:26:47 | 西洋絵画

大人の休日作戦で横浜美術館のライブラリーに行った。そこでの収穫は、謎がまた増えたことだった(^^;

以前、拙ブログ<山梨県美術館「バロックの巨匠たち」展を観た(2)>で、ヘンドリック・テル・ブリュッヘン《荊冠のキリスト》について「らしくない」と疑問を呈した。

テル・ブリュッヘン《荊冠のキリスト》(1614年頃)ヨハネ・パオロ2世美術館

上記画像は下記リンク先より。 

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Brugghen_Crowning_with_Thorns.JPG 

さて、横浜のライブラリーでチェックした某雑誌に、ニューヨークとパリで開催された「Valentin de Boulogne」展のレヴューが載っていた。

参考:Valentin de Boulogne 展

http://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2016/valentin-de-boulogne

http://www.louvre.fr/expositions/valentin-de-boulognereinventer-caravage

ヴァランタン・ド・ブーローニュ(Valentin de Boulogne,1591- 1632)はフランス人画家で、ローマでカラヴァッジョやカラヴァッジェスキの影響を強く受けている。

某雑誌レビューでは展覧会に出品された《荊冠のキリスト》(1613-14年)(元ルーヴル美術館所蔵・現在は個人蔵)が紹介されていた。

参考に下記の動画をご覧あれ。動画のすぐ冒頭に出てくるのがヴァランタン・ド・ブーローニュ《荊冠のキリスト》である。(動画の10分ぐらいのところにも出てくる)

https://www.youtube.com/watch?v=4kjU7YpmU6U

参考としてだが、その同ヴァージョンのレプリカと思われる作品↓もある。

http://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2016/old-masters-collection-a-alfred-taubman-n09458/lot.20.html 

レヴューによれば、ローマでのヴァランタン・ド・ブーローニュはフランス人グループよりも北方の画家たち(ドイツやネーデルラント)のグループに属していたらしい。テル・ブリュッヘン、バビューレン、ホントホルスト…ユトレヒト派からの影響は否めない。 

さて、山梨県美術館で観た作品はテル・ブリュッヘン作品と表記されていたが、果たしてテル・ブリュッヘンがブローニュ作品を模写したということなのだろうか??オリジナルがテル・ブリュッヘンだということなのだろうか??? 美術ド素人の謎(疑問)がまた増えてしまったのだ(・・;)

追記:上記に挙げたサザビーズのサイトを良く読んだら(汗)、このオークション出品作がMETとルーヴルの展覧会に出展されたようだ。(某雑誌の表記は「Private collection; exh. Muse’e du Louvre, Paris」だったのだけど「exh.」の意味って「元」ではないの??)

で、やはり!!。山梨県美術館で観た作品は、元Edward Speelman所蔵であり、テル・ブリュッヘンによるコピー作品とされていたらしい、が、「この帰属をもはや維持することはできない」とのこと。ようやくスッキリしたわ!!(^^)v

「The obvious success and popularity of the composition is attested to by the fact that two copies are known: one was formerly with Edward Speelman, as by Terbrugghen, though this attribution can no longer be upheld; another was sold in Venice, at Semenzato, December 15, 1985, lot 115.

Please note that the loan of this painting has been requested for the monographic exhibition dedicated to Valentin de Boulogne to be held at the Metropolitan Museum of Art, New York beginning in October 2016, and continuing at the Musée du Louvre, Paris.」


大人の休日作戦-初秋篇。

2017-09-14 00:22:50 | 国内旅行

先週、大人の休日作戦で仙台⇔東京を3往復してしまった(^^ゞ。もちろん老体の身ゆえ当然疲れ果てましたとも(笑)。

さて、観た展覧会は

・「ボストン美術館の至宝展」東京都美術館

・「藝「大」コレクション-パンドラの箱が開いた」東京藝術大学美術館

・「民藝の日本」日本橋高島屋

その他に、横浜美術館(ライブラリーが目的)では、正面玄関前の「横浜トリエンナーレ」展示物をちらっとだけ眺めた。

久々の東京は暑いし人も多いし、げんなりとしてしまったけれど、やはり展覧会からは良い刺激をもらったし目も喜んだ。後でサクッと感想を書きたい(^^ゞ


「びじゅチューン!制作の舞台裏」講座を聴講。

2017-09-11 23:44:06 | 講演会

某文化センター(仙台)でNHK-Eテレ「びじゅチューン!」の作者である井上涼さんの講座があった。井上涼さんの大ファンであるゲストのmomoさんが都合が悪くて行けないとこのことで、レポーター代わり(?)に受講してきた。

会場は意外に子供が多くて、ファン層の幅広さが了解される。ちなみに、井上さんのお話だと、一番多いのは30代OL層だそうだ。ご自分で「癒し系だから?」とおっしゃっていた(笑)。講座は井上さんと番組プロデューサーの倉森さんの漫才のような楽しい掛け合いで進行し、客席も笑いが絶えなかった。本当に井上さんってテレビのイメージそのままで、あのユニークな語り口や律儀なフットワークの軽さに嬉しくなってしまう。なんと、後半では自分から客席を握手して回ってくれたのだから。 

さて、講座は参加者の事前アンケートの質問に答える形で進行された。実は私もmomoさんから質問を募って送っており、その中の一つが採用されたのでちょっと嬉しかった。 

で、制作する時はストーリーが先か?美術作品が先か?という質問では…先ずは美術作品を選ぶのが先とのことだった。参考にしているのは画集や図録だそうで、教科書に出てくるような有名作品を主体に、絵画・彫刻・建築物などを満遍なく網羅するようにしているそうだ。作品を決め、研究を深めながらストーリーに落とし込んでいくらしい。 

ちなみに、初期作品の「あしゅらコーラス」や「ファッショニスタ大仏」に対して、どうやらクレームがついたようで(事前に寺側から了承を得ていたのに(^^;)。う~ん、お寺さんって結構難しいのね。 

今回の講座では、新作「審判はフリーダ」を例に、制作過程を詳細に紹介してくれた。

興味深かったのは、まず作品から受けたイメージからストーリーを展開すること。今回のフリーダは、彼女の緊張感のある怖そうな眼差しから審判員を連想したそうで、毎回作品コンセプト込みのラフスケッチを作成するようだ。やはり元広告会社勤務らしい(^^; 

面白かったのは、「審判はフリーダ」に「白鷺城と初デート」の谷君が登場。言及されなかったけど「1500年のオーディション」のデューラーも鉢巻きして登場しているのだよ!! 井上さん曰く、登場人物(キャラ)を考えるのが面倒なので他作品の人物を使うそうだ(^^; 。きっと「ツタンカーmail」と「ポロポーズはラスコー洞窟で」のカップルもね(^_-)-☆

ちなみに、動画制作は動きを良くするために作画も単純化し色数も少なくする必要があるようで、フリーダも実物作品からどんどん省略していった様子も紹介された。音楽もデジタルソフトで作っているそうで、初めにサビ部分ができて、ラフ音像を持って倉森さんと相談し、意外に短時間で作っているようだ(井上さんの高校部活はブラスバンド部だった!)。 あの楽しいコーラス編曲は吉岡さん。

なんだか端折ってしまったが、今回の講座で井上さんの創作過程を知ることにより、ますます「びじゅチューン!」を見るのが楽しくなった。井上さんのお人柄にも触れることができたし、握手も二度したし(笑)。また仙台で講座をぜひ開催していただきたいものだと思う。(詳細はまた後日にね(^_-)-☆>momoさん)


NHK-BSプレミアム「盗まれた長安」を見た。

2017-09-04 20:23:56 | テレビ

先日(9月2日)NHKのBS3で「盗まれた長安」を見た。ちょうど「沙門空海…」から「長安の春」もパラパラ再読したところだったので、とても興味深く見てしまった。 

「いま西安は発掘ラッシュ。かつて世界最大のメトロポリスだった唐の都・長安があった街だが、昔の栄華をしのぶよすがは今、ほとんど残されていない。ところが最近の経済発展に伴う開発工事で、遺構が次々と見つかり、幻の都・長安の国際性や文化の多様性が次第に明らかになってきた。中でも今回盗掘された皇后の「石槨(せっかく)」という至宝は宮廷の華やぎを伝える極めて貴重なもの。果たしてお宝を取り戻すことはできるのか」(NHKのHPより) 

面白かったのは中国の考古学者の上を行く凄い墓泥棒の存在で、何と武恵妃の墳墓(貞順皇后石槨)を発見・盗掘してしまった。それも、重さ何トンもする石槨自体をさらに分解し、香港経由で米国のコレクターに売ってしまったというから驚きだ(@_@)

警察と考古学者がタッグを組み捜査し、無事石槨も中国に返還されたのだが、墓泥棒はPCに盗掘画像を几帳面に保存していたので、なんと隠していた宰相韓休の墳墓壁画の盗掘まで発覚してしまった(;''∀'')。犯人は結構愛嬌のあるオタクっぽい泥棒さんで、考古学者よりも凄腕だと思った(笑)

番組で紹介されたそのPC画像には、貞順皇后の石槨も、宰相韓休の墳墓壁画も、発見当初の色鮮やかな姿で収められたいた。やはり時間が経過すると(空気に触れることにより)退色してしまうのがわかる。唐時代の墳墓は壁画の酸化を防ぐため、職人が最後に蝋燭を灯して封印したという。当時の職人たちの知恵も素晴らしいよね。

で、今回の番組で私的に非常に興味深かったのは、宰相韓休の墳墓壁画に風景画が描かれていたことで、中国の学者さんが「山水画の誕生」としていた。この発見で山水画の起源は宋代とされていたものが唐代とみなされるようになったようだ。

以前、ミラノ「MITO E NATURA」展の感想文でも、ヴェルギナ(マケドニア)のフィリッポ2世(アレキサンダー大王の父)墳墓の風景画を紹介したことがあるが、時代も所も違えども、風景画の起源はやはり墳墓画にあるのではないのか???などと、美術ど素人は勝手に妄想してしまったのだった(^^;;; 

上記で触れた「MITO E NATURA」展《狩りの風景》画像は、ポンペイ遺跡の壁画だったようで(汗)、画像は削除しました。(ご指摘ありがとうございました!!>山科さん)

ヴェルギナのフィリッポ2世の墳墓《狩の風景》↓ も風景画風なのでご参照あれ。

参考:ヴェルギナ(英:Vergina , Greek: Βεργίνα)のフィリッポ2世の墳墓

https://en.wikipedia.org/wiki/Vergina#/media/File:Facade_of_Philip_II_tomb_Vergina_Greece.jpg