今回の「カラヴァッジョ展」の副題には思わずニヤリとしてしまった。「CARAVAGGIO and his Time:Friends,Rivals,and Enemies」、すなわち「カラヴァッジョと彼の時代:友人たち、ライバルたち、そして敵たち」なのだから(^^;
展示作品と史料から炙り出されるのは、カラヴァッジョの突出した才能(性格も!)と同時代の画家たちとの確執であり、当時の画壇に革新的な技法で風穴を開けた天才カラヴァッジョの与えた影響である。でも、バリオーネ裁判史料の解説で、カラヴァッジョも言及評価したアンニバレ・カラッチの名が無視されていたのは何故?? 図録でも「カラッチ一族」で括られていたし???
さて、閑話休題(あだしごとはさておき)、感想文を続けよう。
【酒場】 スペイン人であるジュゼッペ(ホセ)・デ・リベーラ(José de Ribera, 1591 - 1652年)はローマやナポリでカラヴァッジョの影響を大きく受けたカラヴァッジェスキのひとりである。強い明暗のコントラストと、よりリアルな写実を追求することにより、生々しくも深い人間描写を見せてくれる。私的にも好きな画家である。
ジョゼッペ・デ・リベーラ《聖ペテロの否認》(1615-16年頃)コルシーニ美術館
酒場と思しきテーブルで兵士たちが賭け事に興じている。女が兵士に聖ペテロを指さしながら「キリストの弟子だ」と密告するが、ペテロは「知らない」と否認する。有名な「聖ペテロの否認」の場面だ。リベーラはその筆力で生々しい現場の雰囲気を活写している。兵士たちの個性描写も上手い。特に、個性的な禿げ頭の兵士や、手前中央の兵士の甲冑の光沢など、質の高い作品だと思った。
だが、聖ペテロの手のジェスチャーはカラヴァッジョ《聖ペテロの否認》の手だし、テーブルに集う兵士たち、そしてペテロを指差す禿頭の兵士は、カラヴァッジョ《聖マタイの召命》からの引用である。カラヴァッジョの与えたインパクトの大きさがわかるというものだ。
カラヴァッジョ《聖ペテロの否認》(1609年頃)メトロポリタン美術館
(画像が見難くてすみません!)
カラヴァッジョ《聖マタイの召命》(1599 - 1600年)サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会
実は、リベーラ作品を観ながら、ロスのカウンティ美術館「Bodies and Shadows:Caravaggio and his Legacy」展で観たトゥルニエ作品を想起した。興味深いことに、フランスのカラヴァッジェスキである(バレンタイン・ブーローニュの弟子でもある)ニコラス・トゥルニエ(Nicolas Tournier , 1590 –1639年)も、リベーラ作品とよく似た構図の《聖ペテロの否認》を描いているのだ。
ニコラス・トゥルニエ《聖ペテロの否認》(1625年)ハイ美術館(アトランタ)
このトゥルニエ作品、もしかしてリベーラからの影響なのだろうか???
私はイタリアルネサンス・バロックを中心とした西洋美術や仏像などの日本美術の鑑賞を趣味としている東京在住の者です。
花耀亭様は「カラヴァッジョの追っかけ」だそうですが、私は数十年来ボッティチェリとフィリッポ・リッピ、フィリッピーノ・リッピの追っかけをやっており、また、ここ20年ぐらいはカラヴァッジョも追いかけています(特に目黒のカラヴァッジョ展以降)。こちらのブログの過去の記事を一通り読みましたところ、まだ私が行ったことがなくて将来行きたいと思っている場所の訪問記事が多く載っているので、是非詳しい情報を教えていただきたいと思い投稿しました。将来行きたい場所はベルリン・ドレスデン、サン・ジミニャーノ、ボローニャ、ウルビーノなどたくさんありますが、カラヴァッジョではローマのカジノ・ルドビージやマルタ共和国バレッタ、ポツダム、アメリカではキンベル美術館などです。(キンベルでは快慶の仏像も期待しています。)
なお、私はこの1年、成城大学の石鍋先生の大学院の講座を聴講しており、前期はカラヴァッジョ、後期はベルニーニがテーマでした。私の方からはこの授業に関することなどで何かお役に立てることもあるかもしれません。(3/12には西洋美術館で石鍋先生の講演会がありますが、来られますか?)
石鍋先生は5月から約1年間イタリアに行かれるので来年度の大学の講義はお休みです。
では、よろしくお願いします。
ボッティチェリとリッピ親子の追っかけをされているなんて、今回の都美「ボッティチェリ展」はまさにツボだったのではありませんか?
むろさんさは 併せてカラヴァッジョ追っかけもされているようで、お仲間が増え嬉しいです♪
で、拙ブログをご覧いただき恐縮です(^^;;。ご存知の通り美術ド素人であり、生半可な知識で追っかけているので、失敗談も数多くあります。それでも、むろさんさんのお役に少しでも立てれば幸いです(^^ゞ
>カラヴァッジョではローマのカジノ・ルドビージやマルタ共和国バレッタ、ポツダム、アメリカではキンベル美術館などです。
取りあえず、カラヴァッジョ関連で書いてみました。
・ローマのカジノ・ルドヴィージ
ヴェネト通りをボルゲーゼに向かい、左に入った所にあります。現在、団体予約で見学できるようです。「グエルチーノ展」講演会で学芸員の渡辺氏が、1組で1~2万円ぐらい取るような話をされていました。私が見学した時はカラヴァッジョ没後400年記念イベントだったので、現在の連絡先は残念ながらわかりません。旅行会社でもツァー企画しているようです。
・マルタの聖ヨハネ聖堂
昔だったので、JTBのマルタ島ツァーに参加しました(^^ゞ。ローマ⇔バレッタの航空便があるので行きやすいと思います。聖ヨハネ聖堂は城塞の残る地域にあり、一番の観光名所なので、バレッタに行けばバスなどの交通手段があるはずです。
・ポツダムのサンスーシ絵画館
ポツダムはベルリンZOO駅から電車で、日帰りで行けます。ポツダム駅からサンスーシ宮殿へはバスでも行けますが、本数が少ないのでタクシーをお勧めします。宮殿の端から絵画館への小道が続いています。サンスーシ絵画館は6月~9月頃しか開館していないので要注意です。ネットで確認されることをお薦めします。
・フォートワースのキンベル美術館
私はアメリカン航空の直行便でダラス=フォートワース空港に到着し、タクシーでフォートワースのホテルに移動しました(かなり距離があります)。米国は国際免許を持っていれば移動に便利なのですがね(涙)。ホテルは駅の近くのヒルトンで、駅からは美術館地区へのバスが出ていました。キンベル美術館とフォートワース現代美術館は隣どうしです。ちなみに、快慶の仏像があるとは存じませんでした(・・;)
一応なので、むろさんさんが知りたかったポイントとズレていたらごめんなさいです(^^;;。ちがう、ここが知りたかったのに!と、ご指摘いただければ嬉しいです(^^ゞ
で、むろさんさんが石鍋先生の大学院講座を聴講されたとは羨ましいです!!カラヴァッジョとベルニーニだなんて!!! ローマ・バロックですねぇ♪♪
講義内容はどのようなものだったのか興味津々です!! もし差支えないようでしたらテーマだけでも教えていただけますか?
で、12日の石鍋先生の講演会、私も聴講したいと思っています。むろさんさん、お互い、整理券を頂けると良いですよね(^_-)-☆
大学院の聴講生仲間にもイタリアルネサンス美術にとても詳しい人や年に何回もイタリア旅行をしている人はいるのですが、ボッティチェリやカラヴァッジョに特化して追求している人はいないので、私の知りたい情報はなかなか得られないというのが実情です。今後知りたいことを整理してご質問しますので、よろしくお願いします。
<サンスーシ絵画館は6月~9月頃しか開館していないので要注意
こういう情報が一番知りたいことです。実は2年前にカポディモンテへ行ったのですが、ボッティチェリの聖母子の部屋が開くのを待っていたら3階のカラヴァッジョの笞打ちの部屋が閉まってしまい見逃したという苦い経験があります。ウルスラの殉教も新しい美術館で公開しているという情報を知らなかったので、将来またナポリへ行きます。(ウルスラは銀行所有で昔はカポディモンテに寄託されていたので、もしかしたら見られるかもと思っていました。30年ぐらい前に初めてナポリへ行った時は冬だったのでカポディモンテは閉まっていました。)
今回の都美「ボッティチェリ展」はツボどころか、自分にとっては今まで国内で見た美術展の最高峰です。渋谷Bunkamuraのポルディペッツォーリ展以来続くボッティチェリ作品の来日ラッシュの最後に真打ち登場というところですが、贅沢を言うとカラヴァッジョ展はできれば秋にして欲しかった。時期が重なっていてボッティチェリもカラヴァッジョも資料の準備が間に合いません。うれしい悲鳴です。
キンベルの快慶の仏像は晩年に近い法眼快慶銘の釈迦如来立像で、保存のよい作品です。東京国立博物館の研究誌MUSEUMの当該作品論文のコピー持っています。
https://twitter.com/tetsuumadouji/status/698161631054856193/photo/1
http://www.sankei.com/photo/story/news/160212/sty1602120014-n1.html
5月までニューヨークのアジア・ソサエティーに出張中とのこと。
石鍋先生の大学院講座ですが、既に終わりましたがシラバスは下記です。
https://cs.seijo.ac.jp/campusweb/campussquare.do?_flowId=SYW0703010-flow&nendo=2015&jscd=82&jcd=8534&locale=ja_JP
https://cs.seijo.ac.jp/campusweb/campussquare.do?_flowId=SYW0703010-flow&nendo=2015&jscd=82&jcd=8535&locale=ja_JP
詳しいことはまた後で書きます。近くの書店で聞いたら、石鍋先生の今度の著書は明日3/11の午後に入荷するとのことですが、前期のカラヴァッジョの授業とこの本の執筆時期は重なっていたので、本の内容と授業内容もかなり近いようです。(以前成城大学の紀要に掲載された内容―カラヴァッジョ犯科帳など―に新資料を追加したもの)
12日の石鍋先生の講演会ですが、1日の講演会は平日でも整理券配布の1時間以上前から行列ができていましたから、今回は土曜日なのでそのつもりで並んだ方がよいと思います。なお、講演会終了後は多分先生の近くにいると思います。差し支えなかったらお声をかけてください。
で、石鍋先生のシラバスもありがとうございました!! 「 ローマ・バロック」ますますむろさんさんが羨ましくなりました(笑)。演習ではどんな発表をされたのでしょう?興味津々です(^^ゞ
ちなみに、石鍋先生の本は仙台では12日入荷の予定です(遅いのです)。
西美講演会、長蛇の列になるのでしょうね。無事聴講できると良いのですが、お声をかけることができないかもしれないので、その時はどうぞご容赦くださいませ<m(__)m>
今日の講演会の整理券は取れましたか? やはり3/1より並んだ人は多かったようで、配布時間前に定員に達していました。終了後には川瀬学芸員への質問と石鍋先生への挨拶でしばらく演壇の近くにいたのですが、声をかけてくる方もいなかったので、来られていないのかなと思っていました。
今回初公開という法悦のマグダラのマリアですが、3/1に見た時は他の同一作と比べてどこが素晴らしいのかよく分からなかったので、今回は15年前の目黒庭園美術館の時の図録を持って行き、目黒に出品されたクラインの作品と比較してみました。また、5種類の法悦のマグダラのマリアの写真(ヘースト、フィンソン、クライン、ロンギ、ボルドー)が載っている評論社世界の巨匠「カラヴァッジョ」(昭和55年)も参考のために持って行きました。1時間以上絵の前にいて眺めていた結果、いろいろ違う点が見えてきたのですが、書くと長くなるので改めて投稿します。
大学院のローマ・バロックの授業ですが、演習の発表は学生さんだけで、我々聴講生は発表なしです。学生さんはカラヴァッジェスキとかカラヴァッジョについて自分のテーマを決めて発表していました。
既にご存知かもしれませんがテレビ情報を1つ。4/8の20:00~20:54BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」でカラヴァッジョ展の特集をやります。(下記)
http://www.bs4.jp/burabi/onair/index.html
この番組では2/19にもボッティチェリ展の特集をやったので、今回も期待しています。なお、ついでながら3月の始め頃にNHKのEテレの「ニュースで英会話」という20分番組で「カラヴァッジョの真筆」という題で法悦のマグダラのマリアを紹介していました。ミーナ・グレゴーリ氏や川瀬さんも出ていました。テレビを見ていたらたまたまやっていたので途中から見たのですが、英語番組なので再放送はないかと思い番組表を確認したら、3/5にあるということで録画しました。
それにしても「カラヴァッジョ展」会場で1日中鑑賞とは凄い!連日カラヴァッジョ漬けというのもファンの鑑ですね。《法悦のマグダラのマリア》の違いを調べる姿勢にも頭が下がります。むろさんさんのご感想はいかがでしたか?
で、聴講生は発表する必要が無ないというのも良いですね!(あ、ちょっと寂しいかも?)私が某大学(学部の)1コマ聴講(科目履修生)をした時は、学生さんと一緒で試験もあったのですよ(^^;;
それから「ニュースで英会話」、今回の展覧会はNHKも主催だから、コンテンツの使いまわしですね(笑)
で、「ぶらぶら美術館・博物館」情報、ありがとうございます!!見逃さないようにしようと思います。
むろさんさんの「カラヴァッジョ展」への思い入れの深さは本当に素晴らしいですね!! 美術ド素人の私は、見習わなくては!と思ってしまいましたです(^^;;;
1)姿勢が違う。目黒庭園美術館に出品されたクラインの像よりも今回初公開の像の方が上半身が立ち上がっている。クラインの像は左肩の位置が低いので、左肘から腕にかけての位置も低く広がっていて、これに伴い向かって左の赤い衣も低く広がっている。これは目黒の図録と今回の図録を並べて見ている時には気づかなかったが、美術館で目黒の図録と現物を見比べて分かったこと。この観点で他のバージョンを眺めると、クラインとロンギは低い姿勢、ヘーストとフィンソンのコピー及びボルドーは今回の作と同じ高い姿勢に思える。これは左腕下の骸骨がクラインとロンギには描かれていない(あるいは暗闇の中で見えない)が、今回の作とヘースト、フィンソン、ボルドーが全て骸骨が描かれていることとも一致する。
2)クラインの像の右襟の影は単純に真直ぐ下へ向かっている一直線で描かれているが、今回の像では同じ影は下部で自然なカーブを描いている。また、右手袖口の黒い影は今回の像では自然な影に見えるが、クラインの像では影であるべき黒い部分が不自然で、まるで影ではない黒い布の帯があるように見える。
3)今回の像の耳は横長であるが、クラインの像の耳は短くて丸い。このような細部描写の違いについては、19世紀末にイタリア人美術史家モレリから英国人の美術史家ベレンソンに伝えられた鑑識方法で、目鼻口などの主要部分はモデルを見て描くが、耳や手先などの細部描写には作家の個性が出るので作者の鑑定に利用できるというものです。日本美術でも芸大の水野敬三郎氏が快慶の仏像の鑑定に使い成果を上げています。今回の出品作とクラインの像の耳がこれだけ違うということは、別の作家の手によるものと言っていいと思います。
4)今回の像の向かって左上部の光(洞窟の入口)がとてもよい効果を出している。他のバージョンでこの位置に光を描いているのは、5枚中ではフィンソンのコピーだけであるが、それも光の位置と十字架の位置が多少異なる。
5)組んでいる手の指の描写が今回の像では極めて自然に描かれているが、クラインの像の指は形式的な描き方である。
この他、肌の色とか唇や衣服の皺の描写など、いずれも今回の像の方がクラインの像よりも優れているということが実感できました。ただし、これだけでカラヴァッジョの真筆だということは言えませんが。
で、モレッリの鑑定法は有名ですよね。実は私もマグダラのマリアの「耳」に注目していました。カラヴァッジョの場合、顔を影に沈めていても「耳」に光を当てていることが多く、むろさんさんの観察に、確かに、と深くうなずいてしまいました。
むろさんさんのおっしゃる通り、優れた作品であるとしても、真筆かどうかというのはわからないし、真作問題は本当に難しいですよね。
今回の展示を基に、きっと世界のカラヴァッジョ研究者たちからも色々な意見が出ると思います。それもまた楽しみな気もします。
むろさんさん、貴重な観察成果を教えていただき、ありがとうございました!!!
ついでに、今回手持ちの本で法悦のマグダラのマリアの写真が出ているものをさがしたところ、タッシェンの小さい本(ジル・ランベール著「カラヴァッジョ」、宮下氏が著書で誤りが多いと書いた本)と美術出版社世界の巨匠シリーズ「カラヴァッジョ」(モアール著若桑みどり訳)の2冊がありました。タッシェンの本にはマルセイユ美術館のフィンソンのコピーのカラー写真が、モアールの本には以前コメントに書いた評論社の本に出ている5枚とは異なるエルミタージュ美術館の絵の白黒写真が出ていました。フィンソンのコピーは唇や眼、衣の襞の描写が明らかに下手です。エルミタージュの絵は左腕の下方に骸骨があるタイプで、絵の出来は並のレベルです。
これまでで写真を見つけたのは評論社の本に出ている5枚(ヘースト、フィンソン、クライン、ロンギ、ボルドー)、エルミタージュ美術館の1枚、今回上野に展示されている1枚の合計7枚です。今までに分かったことは、法悦のマグダラのマリアには2つのタイプがあること(1つはクライン、ロンギで上体の姿勢が低いこと、左腕の下方に骸骨がないこと、グレゴーリ氏によればモデルの女性が若くないこと。もう1つは残りの5枚全てで、上体がクライン、ロンギの像より立ち上がっていること、骸骨があること、クライン、ロンギの像よりモデルが若いこと)、また、今回上野に展示されている絵はどの絵よりも質が高いことです。
私も宮下先生の画集や洋書などの全てを確認したわけではないので、他のバージョンで画像の写真が載っている本をご存知の方がおられたら教えてください。
むろさんさんの《法悦のマグダラのマリア》ヴァージョン確認への情熱に頭が下がります。どなたかご協力くださる方が出てくると良いですね!!
できるものなら、写真よりも、各ヴァージョン実物をずら~っと並べて確認したくなりますよね(^^;;