花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

静岡県立美術館「ロダン館」

2009-02-23 02:01:05 | 美術館
静岡県立美術館のロダン館は明るいドーム天井の現代的な建物で、広々しているし天井も高いので実に気持ちが良い。
入り口で無料のイヤホンガイドが借りられ、解説を聴きながらゆっくり作品を巡ることがでる。

まずは《カレーの市民たち》の個々のブロンズ像が並んでいる。群像としては国立西洋美術館で観ていたが、一人ひとりの表情やポーズに込められた物語を初めて知ることになった。差し出す手、握りこぶし、肩の表情、背中のくぼみ、首の傾き…。
市民の個々像を様々な角度から眺めていると、ロダンの造形の力強さに圧倒されてしまう。今度上野に行ったら、改めて群像構成をしっかり観てみたいと思う。

先を進むと有名なバルザック像の試作もある。バルザックの表情、眼の窪みの深さが印象的であった。彫像から受けるバルザックの複雑豪快でゴツそーな趣は、私の好きな「セラフィタ」作者としてのイメージからはかなり遠く、そのギャップの大きさが面白い(^^;;

で、やはりこのロダン館のハイライトは《地獄の門》と言えるだろう。西美では作品自体に接近できないが、ここ静岡ではかなり間近で観ることができる。門にうごめく人々…。人間の苦悩と悲しさが門の中から立ち上ってくる凄さ!観ながら思ったのだが、門の複雑な群像構成を《考える人》がきりりと締めているのだよね。

次のコーナーには《地獄の門》の複雑な群像モチーフの試作像も色々展示されている。それぞれのエピソードの成り立ちや、ひとつの型から複数のポーズを作り上げる手法、複数のポーズを合体させるアッサンブラージュ、ロダンの合理的で革新的な手法がよくわかる仕掛けになっている。

さて、館内をぐるりと巡り、そろそろ終わりかなというコーナーに意外なブロンズ像を発見した。古風なコスチュームにパレットを持っている….誰だろう? な、何とクロード・ロランの像だった!!

解説によれば、ナンシーの公園に設置するためロダンに依頼されたとのこと(ナンシーでは気が付かなかった/涙)。ロランの視線は遠く夕陽を眺めているかのようだ。この美術館はロランの絵を所蔵しているのだから、まさしく相応しい像だなぁ、となんだか嬉しく思う。

で、振り返るとそこにもうひとつのパレットを持ったブロンズ像があった…。ん?ジュール・バスティアン=ルパージュ?!思わず、うっそー!と口の中で叫んでしまった(^^;;;


左がクロード・ロラン。右がジュール・バスティアン=ルパージュ。
「オーギュスト・ロダン」静岡県立美術館・刊より(見難い画像ですみませんねぇ(^^;;;)

ジュール・バスティアン=ルパージュ(Jules Bastien-Lepage 1848-1884 )はクロード・ロランと同じロレーヌ出身の画家である。同じくロレーヌの画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの展示室のあるロレーヌ博物館には、確かルパージュのパレットも展示されていた。そのパレットに果たしてBLのイニシャルがあったかは記憶に定かでは無いが、ロダンのルパージュ像のパレットにはBLのイニシャルが鮮やかに刻まれている。ルパージュとロダンは同時代の芸術家だし、もしかして顔見知りだった可能性はあるのだろうか?

ところで、ルパージュ像もナンシーにあったのかな?と思い、ナンシー美術館で購入したルパージュ本をチェックしたら…更に発見!同じロダン作品でも静岡と違うポーズ作品が載っているのだ!(・・;) 


ジュール・バスティアン=ルパージュ像
《Jukes Bastien-Lepage Peintre Lorrain》 Bernard Ponton著より

本にはパリのロダン美術館所蔵と記されている。ということは、ロダンはルパージュ像を少なくても2ヴァージョン作っているということだよね。どちらが試作なのかはわからないけど、ロダンが気合を入れて作ったことは確かだろう。

最後にロレーヌの画家たち像と出会えるなんて…わざわざ静岡に来て良かった!とつくづく思ったのだった(^^ゞ

静岡県立美術館 収蔵品展「ヨーロッパ絵画-バロックから近代へ」

2009-02-15 02:54:50 | 展覧会
デュッセルドルフはノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館だけでなく、クンストパラスト美術館も良い所蔵作品に恵まれている。


クンストパラスト美術館(常設展示館)

中でもルーベンス《ヴィーナスとアドニス》やジョヴァンニ・ベッリーニの三翼祭壇画《プリウリ祭壇画 Pala Priuli (Madonna with Child, two Saints, Monks, and donor》は見逃せない。


ジョヴァンニ・ベッリーニ《プリウリ祭壇画(Pala Priuli)》(1506-1510)


さて、恒例になった(?)「私的2008年度展覧会ベスト10」の参考にしようと『美術の窓』チェックをしていたら、静岡アートギャラリーで「珠玉のヨーロッパ油彩画展-バロック美術から十九世紀へ」があることを発見。それに静岡県立美術館では「ヨーロッパ絵画-バロックから近代へ」などという収蔵品展までやっている。ということで、もちろん行ってきた(笑)。特に静岡県立美術館の粒揃いの作品やロダン館に、日本の地方都市の美術館も頑張っているのを知ることとなった。

まずは静岡県立美術館「ヨーロッパ絵画-バロックから近代へ」から。展示内容はパウル・ブリルやクロード・ロランからモーリス・ブラマンクに至る風景画であり、展示作品数は少なくとも質的に満足できたことが嬉しい。それに、風景画にとって「陽光=光」が如何に重要な構成要素であるのかも再確認できたしね。


クロード・ロラン《笛を吹く人物のいる牧歌的風景》

特にクロード・ロラン《笛を吹く人物のいる牧歌的風景》は夕陽の美しさとともに水面から立ち上る靄(大気)まで感じさせる作品だ。奥行きのあるゆったりとした風景は古代ローマ風の建物や人物たちの佇まいとともに、風に乗り流れてくる笛の音まで聴こえるようで、思わず風景の中に誘い込まれそうになる。

風景画と言えばもちろんヤーコブ・ファン・ライスダールもありで、《小屋と木立のある田舎道》は高い空に立ち上がる雲が、ハーレム風景だなぁ、と思わせる。小屋の崩れそうな生垣にもささやかな陽光が注ぎ、池の水面につつましく映しだされる。空の色に比べ小屋と木立が暗いだけに、明るい後景へと続く曲がった道など、わずかな光の表現が奥行きとぬくもりを感じさせる。さり気を装っているけれど、熟練の構図と見えた。

で、クロード=ジョゼフ・ヴェルネは海洋を得意とする画家らしく《嵐の海》はさすが海の描写が上手い。泡立ちうねる波の透明な質感などリアルで、かなり海を観察しているなぁと感心。構図はなんだかターナーを想起。って言ってもターナーはずっと後の時代だけどね(^^;

ところで、海で思い出したので脇道紹介してしまうのがライスダールの《Rough Sea at a Jetty(荒い海の桟橋で)》(キンベル美術館)。ライスダールにしては珍しくも海主題だったし、その描写の上手さにも驚いたのだった。


ヤーコブ・ファン・ライスダール《Rough Sea at a Jetty》(1650頃)キンベル美術館・所蔵

静岡県立美術館はこの他にもコローやモネなど良い絵だなぁと思わせる作品が並び、わざわざ静岡まで行った甲斐があったと思う。

で、ロダン館でも発見あり!ということで続く(^^;;;

Bunkamura 「ピカソとクレーの生きた時代」展

2009-02-12 01:54:21 | 展覧会
最近ブログをサボっているが、実は正月明けに頭痛で倒れてしまった。偏頭痛と緊張型頭痛が重なった混合型だったようだ。幸いCTスキャン及びMRI検査では異常無もなく、疲労とストレスによる神経性のものらしい。どうやら今年は波乱含みの幕開けとなってしまった(^^;

さて、とは言っても体調を見ながら展覧会にはちゃんと行っている(笑)。今年の初展覧会はokiさんから頂いたチケットで観たBunkamura「ピカソとクレーの生きた時代」展だ。(okiさんに感謝!)

今回の展覧会はデュッセルドルフにあるノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館の改修に伴う引越し展のようだった。展覧会名にもなっているが、やはり見所はピカソとクレーの名作で、特にピカソ《座る二人の女》《鏡の前の女》には唸ってしまった。国立新美術館のピカソ展のおかげで食わず嫌いが少し矯正されたようだ(^^ゞ

まず、《座る二人の女》だが、観た瞬間、二人の女の存在感・ボリューム感に圧倒された。ピカソの描く女は手も足も大きいが、そのうえ、この女たちは身体自体も迫力満点。二人の背景の対象や腕の曲線、足元の立方体など、リズムを持った構図であることも了解できた。

しかし、私的に特に魅入ってしまったのは《鏡の前の女》だった。


パブロ・ピカソ《鏡の前の女》1937年 油彩・キャンヴァス
©2008-Succession Pablo Picasso-SPDA(JAPAN)

単純化された造形なのにリアルに情景が伝わってくるのだ。窓からの光は室内の白い壁に反射し、花瓶の植物影が一層明るさを際立たせる。室内で紙を見ているのは(瞑想なのか?)多分マリー=テレーズ。前に置かれた鏡は陽射し(青)だけでなく彼女の心まで映しているかのようだ。明るい日差しのなかで赤と黒の心が葛藤している。もしや、そんな彼女を見ている画家ピカソ自身の心の葛藤なのだろうか?一見静かで穏やかな作品のように見えるが、危うい心理劇をも孕む作品なのではないか?と思ったのだった(^^;;

で、もう一方のパウル・クレー《リズミカルな森のラクダ》は音楽の楽譜のような…という解説に、なるほど!だった。


パウル・クレー《リズミカルな森のラクダ》
1920年 油彩など・ガーゼ、厚紙

頭の丸い木は逆さのおたまじゃくしなのかもしれない♪ラクダの前足をわざわざ修正してずらした跡が良くわかり、リズムのズレまで楽しく描いたんじゃないのかな?クレーの軽妙で繊細な作風が「音楽」というキーワードで語られるとなんとなく親しみが湧く。なにしろ現代美術苦手には取っ掛かりが必要なのだ(^^;;;

クレーはデュッセルドルフの美術アカデミーで教鞭をとっていた時期がある。ヒットラーから「退廃芸術家」の烙印を押され、追放されてしまう。戦後、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館がクレーのコレクションを購入したのもそのためのようだ。日本だけでなくドイツの負うものも大きい。

ところで、デュッセルドルフには以前「CARAVAGGIO ―Auf den Spuren eines Genies 展」を観に行ったが、会場のクンスト・パラスト美術館しか観ていなかったので、今回の展覧会を観ながら、デュッセルドルフの文化的な厚みを再確認させてもらった。ライン川沿いの緑も美しかったし、日本人も多く住みやすそうな街だったし、今回の展覧会でなんだか再訪したくなってしまった(^^ゞ