じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

渡辺淳一「光と影」

2018-07-12 11:41:54 | Weblog
☆ 渡辺淳一さんの「光と影」(文春文庫)を読んだ。とても面白かった。

☆ 小武(おぶ)大尉と寺内大尉は大阪へ向かう病院船で出会う。二人は同期で、西南戦争で共に銃創をうけた。右腕の骨は砕け腐敗が始まっている。もはや切断をするしか術がない。手術は大阪の病院で行われることになった。

☆ カルテの順番でまず小武の腕が切断された。次に寺内が切断される段になって、担当医は「腕を残すという実験」を提案する。今なら医の倫理に照らし合わせてどうかとも思えるが、西洋医学の黎明期にそんな考えは乏しかったようだ。

☆ 切断した小武の回復は早かったが、軍を退役せずにはいられなかった。一方の寺内は傷がなかなか回復せず、数年にわたり死地を彷徨う。ただ、奇跡的に回復した後は破竹の勢いで出世する。その経緯を見て、小武の嫉妬が高まっていく。幸運に恵まれたかつての同僚に比べて、不運の連続の自分に焦燥する。

☆ 平和の時代に生きる私の目からすれば、小武の生きざまは決して不幸ではない。定職にもつけたし、60歳までその職を全うした。西南戦争の英雄として若い軍人の尊敬も得ている。しかし彼はそれには満足できなかった。ナルシムズムのなせる業と言えばそれまでだが、後の陸軍大将、首相にまで上り詰める寺内はあまりにもまぶしすぎた。

☆ 光が強ければ、影は濃い。

☆ カルテの順番が二人の明暗を分けたことを知らされ、小武の心は砕ける。

☆ 医師である渡辺さんならではの所見もあり、リアリティのある作品に仕上がっている。
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