佐藤功の釣ったろ釣られたろ日誌

釣り・釣りの思い出・釣り界のこと・ボヤキ.etc

ダボ鯊の戯言

2021-01-22 19:48:18 | 釣り

ニベやシログチが発声することは、古くから知られています。低く、籠った声は、ブッブツと”愚痴”をこぼしているようなのでグチの異名があることは周知。

 和漢三才図会にも「その声、雷のごとく、海人は竹筒を持って、水底を探り、声を聞きて網をおろす」と。この魚の鳴き声が歴史的であることが判りますね。

 

 スタバの企業ロゴは

   なんと怪物サイレン

 

 歴史といえば、今を去る三千年ほど前のギリシア神話と、ニベは浅からぬ関係にあるようです。

 神話の中のホメロスの長編叙事詩「オデュセイア」にはサイレン(セイレーン)という上半身が女性で下半身が鳥(二本足)、という怪物が登場し、あやしく、美しい声で歌い、海の底から人を魅する、とあります。

 トロイから凱旋の帰途、難破して漂流するオデュセウス(ユリシーズ)をサイレンは盛んに誘惑するのですが、じつは、この”歌声”は、ニベの発する声に違いないとだぼ鯊は思います。

 事実、地中海にはニベ科の魚が多く、それもメータオーバーの大物で、ドラムフイッシュ(太鼓)とかクローカー(カラスや蛙)とか、発声に因んだ名で呼ばれています。サイレンの声が魚の仕業、と知る由もなかった古代の人々が、正体不明の声におののき怪物の声、と信じたのもむりからぬことでしょう。

 ともあれ、かくも歴史的に、イシモチはその鳴き声で人々を騒がせてきたのです。

 ちなみに人気のスターバックコーヒーの企業ロゴは船乗りと縁の深い、このサイレンとされています。2本の魚尾のように見えるのは鳥の足。美声に惑わされるな、という警鐘でしょうか。

 ところで、紀南でも、ガマジャコという異名があります。まるでガマが鳴くようだ、という意昧でしょう。月の夜に、渚の砂地に耳をあてると、グォーンというパイプオルガンのような音色が聞えてきて、それは、さながら地の底の呻きのように不気味ですね。

 発音のみなもとはこの魚のウキブクロ。付属する筋肉によってウキブクロが振動して”鳴きブクロ″になるのです。

 とくに夏のころ、繁殖シーズンが近づくと、オスとメスが呼び合う声はオクターブが上昇して十メートルもの底から、海上にまで達する。熱烈な”恋の賛歌”となるのです。

 中国の沿岸部にすむニベ科の「ふうせい」と言う魚はウキ袋に強い筋肉が多数付属していて、もっとでかい音を発するよ、と教えてくれたのは戦前からの釣り師Kさん。

 「ふうせい」とはまさに言い得て妙、「ふうせい」そのものだからね、と豪快かつ、意味ありげに笑うのでした。

 怪訝な顔の僕にKさん「貴公も経験あるでしょ」と。「ふうせい」は昭和時代の花柳界の隠語でセックスの際に女性自身から発する、おならのようなブヮッとかグヮッとかいうあの空気音。だぼ鯊も、あぁ、あれか、とニヤリ。

 あとで、風俗界の消息通に聞くと現在も「ふうせい」現象を示す隠語があるとのこと。それは「おなら」の連想で「ちなら」だとか。え?それって全然“粋”じゃないね! この魚中国名は「大黄魚」で日本名「ふうせい(風声)」。この粋な名は我が国ならではのネーミング、情緒あるじゃない。名付け親の学者先生の風流心に脱帽!(イラストも筆者。からくさ文庫主宰)

 

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