いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

孫崎享の正体;尊皇大使は米国の仕掛けで説明

2020年08月28日 17時55分52秒 | 日本事情

■ 朝鮮戦争70年

今年6月で朝鮮戦争勃発70年。そんなに話題にもなっていない。おいらは、最近、朝鮮戦争について少し調べた []。下記、孫崎享さんがいうように戦後日本を型どったのは朝鮮戦争だとわかるようになった。敗戦後の占領といえば活発な米軍占領基地や群がるパンパンという現象だが、実はそういう風景は敗戦直後に典型だったのではなく、朝鮮戦争勃発後なのだという。例えば、マッカーサーが降り立った「厚木」飛行場は、あのあと使用されず放置されていた。しかし、朝鮮戦争勃発で基地として再活性したとのこと。パンパン大集合の話は以前書いた(パンパンと呼ばれる売春婦が全国から集まった)。

■ 左翼/リベラル(戦後民主主義者)が、北朝鮮の侵攻、侵略だとと認めるようになったのは21世紀になってから

 朝鮮戦争直後から、どうみても北朝鮮が攻め込んだからあんなに早く南下できたに違いないのに、北朝鮮の侵攻から戦争が始まったといういうことはタブーであった。そして、内戦なのだから、どちらが先に攻め込んだということを議論するのは無意味という議論が、左翼陣営では、通説だった。

*「朝鮮半島についてそのような否定的な問題を扱うとは,私はあなたの人間性を疑う」とまで罵倒される。
*冷戦崩壊までは日本では「米韓が朝鮮戦争を始めた」との主張や考えが,支配的であった。それに反対すると,学界や研究者の社会から抹殺されかねない空気があった。
⇒ 重村智計 北朝鮮の技致,テロ,核開発,有事の田際関係 

■ 少ない、朝鮮戦争通史

『朝鮮戦争70年 「新アジア戦争」時代を越えて』、和田春樹、孫崎享、小森陽一、かもがわ出版、2020年6月1日刊 借りてを読んだ。返さないといけないので、メモを書いた。

 Amazon かもがわ出版

あの和田春樹さん(以下、敬称略)だ。初めて、彼の文章を読んだ。彼は、2002年に『朝鮮戦争全史』を出版。なお、小森陽一は自著『ポストコロニアル』(2001年刊)の基本文献案内で朝鮮戦争については小此木政夫の『朝鮮戦争』を示している。つまりは、左翼系の朝鮮戦争通史はなかったのだ。

確かに、『朝鮮戦争70年 「新アジア戦争」時代を越えて』で和田春樹は書いている;

 ソ連の全面支援と中国の承認をとりつけた北朝鮮は一九五〇年六月二五日、三八度線を越えて戦争を開始した。(第一章 東北アジアと朝鮮半島に平和体制をつくる)

一方、孫崎享さん(以下、敬称略)は、『戦後史の正体』で書いている;

一九五〇年六月、朝鮮戦争が起こりました。共産軍が韓国に攻め入ったのです。(中略)共産主義の脅威が日本のすぐとなりの朝鮮半島で、侵略という形で起こりました。(『戦後史の正体』)

 『ブリタニカ大百科事典』は、朝鮮戦争の犠牲者は国連軍側が十七万二〇〇〇名、共産軍側が一四二万名と記しています。しかし、この戦争の悲惨さは一般市民が大量に死んだことです。一説にはこの戦争の死者は全体で四〇〇万人~五〇〇万人ともいわれ、その大半が一般市民だったとされます。
 なぜ、北朝鮮はこんなバカな戦争を始めたのでしょうか。 (『戦後史の正体』)

孫崎は、朝鮮戦争での北朝鮮を侵略者と認定し、多量の一般人の死をもたらした戦争を引き起こした北朝鮮をバカな戦争を始めたと認識している。一方、和田春樹は、北朝鮮の金日成が指導力をもって中ソを巻き込み戦争を起こした事実を認めているが、侵略とは認識していない。ましてや、北朝鮮の侵略戦争の責任を問うことはない。大日本帝国の戦争責任追及でみられる激しさは、北朝鮮に対しては微塵もみられない。もちろん、国際共産主義諸国による侵略という認識はなく、非難もさらさらない。

■ 『朝鮮戦争70年 「新アジア戦争」時代を越えて』で孫崎享が云っていること

第2章の孫崎享担当分の目次と要旨;

目次

第二章 朝鮮戦争と日米同盟の経緯

1 戦後の日米安全保障関係の推移

(1)大国の行動が与える影響
(2)戦後の日米安全保障関係の推移
a:占領時代から一九六〇年新安保条約の締結
(a)経緯
(b)この体制の問題点
(い)米国は日本を守るのか
①条約上の問題
②米国の関係国への説明
③最近の軍事バランスの変化により、米国は尖閣諸島周辺では中国と戦争できない
(ろ)基地負担問題
①日米地位協定
②現実の経費負担
③基地建設
(は)米国は、日本を近隣諸国と敵対的関係に誘導
①日ソ関係
②尖閣諸島問題
③欧州の場合
b:冷戦後自衛隊を米軍戦略の下で使う動き
(a)冷戦終結後、米国への最大の脅威は誰と認識されていたか
(b)冷戦後の戦略の模索ーソ連の脅威が消滅後、誰が安全保障上の脅威か
(c)日本・ドイツをどう扱うか

2 戦後の日本外交における北朝鮮問題、歴史的経緯

(1)朝鮮戦争
a:全体的傾向
b:警察予備隊の設置
(a)基本的動き
(b)警察予備隊をどのように解釈するか
(c)警察予備隊の設置は民主主義を守らずに実施
(d)日本の経済への影響
c:冷戦後の米国戦略形成期ー対米自立を目指す細川首相
(1)細川総理は樋口廣太郎アサヒビール会長を座長とする防衛問題懇談会を立ち上げる。
(2)クリントン政権後半における米国優和政策
d:9・11同時多発事件後北朝鮮強硬に転ずる米国と、北朝鮮との国交樹立を図る小泉首相との齟齬

3 北朝鮮の核兵器問題にどう対応するか

(1)北朝鮮が核兵器を開発する最大の理由は何か
(2)中小国が核兵器を保有した時、どのように対処すべきか、キッシンジャーの理論
(3)外交問題評議会会長リチャード・ハースの提言
(4)私の北朝鮮問題を考える10のポイント

4 朝鮮半島と日本の平和のために何をすべきか

(1)過去の動きの総括
(2)米国が主導権を握る時代の後退
(3)日韓が東アジアの安定に何をするか
a:「現実の徴用工問題をどう理解するか」
b:「日韓関係の在り様に関する緊急提言」

5 最後に

要旨

【岡崎久彦メソッド】世界情勢の分析方法は岡崎久彦から学んだ。その方法とは、世界情勢は米国が仕掛けることで大変動する。逆にいうと、世界大変動は米国の仕掛けによるものだ。例として、ベルリンの壁崩壊がある。米国の仕掛けは常に明示されるものではないので、その読み取り、分析が重要。【戦後の日米安全保障体制の成立と構造、その目的】敗戦後、マッカッサーは日本の武装解除を図り、憲法を制定させ、非軍事化を進めた。1947年から冷戦。米本国(ケナン、ダレス、トルーマン)からは日本再軍備の圧力。対ソ戦略の駒にしたい。マ元は反対。でも、朝鮮戦争勃発。マ元は警察予備隊発足命令。警察予備隊は政令に基づく。国会審議を経ていない、非民主主義的存在である。後藤田正晴ら官僚はこの警察予備隊が朝鮮に連れていかれることを懸念。警察予備隊は米軍の駒。旧安保は日本防衛の義務がなく駐兵権がある条約。【冷戦後の米国の対日戦略】ソ連なき後の米国世論調査の脅威No1は日本の経済力。ソ連なき後、米国はイラン、イラク、北朝鮮を敵視する政策を採る。この三国は虚構の敵である、とまで言っている(4章だが)。米国はイラン、イラク、北朝鮮に対し先制核攻撃も想定している。一方、同三国は米国を攻撃しない。【日本の北朝鮮との外交は米国に潰される】細川内閣(対米自立路線)は官房長官が北朝鮮のスパイということで潰された。小泉内閣の田中均の対北朝鮮外交は米国の許可を得ておらず、失敗した。【北朝鮮核武装の論理】北朝鮮は核武装して当然である。なぜなら、北朝鮮は1950年の朝鮮戦争以来米国の核攻撃の脅威にさらされてきた。一方、キッシンジャーの理論を適用すれば、北朝鮮は米国の核の脅威に面しているのだから核開発は止めない。一方、世界各国はいかなる国連加盟国の国家と指導者の存続を犯してはならない。つまりは、核保有北朝鮮を認めて、外交交渉をすべきである。【北朝鮮のミサイルへの防御はできない】ミサイル防衛、先制攻撃によるノドンの無効化、アラート・システムなどすべて効果がない。【北朝鮮脅威論は米国の利益】北朝鮮脅威論は、日本国民を「日本の安全はアメリカに依存しなければならない」という意識を持たせることになっている。【では、どうすべきか?】近年、米国の国力が低下してきている。購買力平価基準のGDP計算では中国が米国を抜いた。米国の相対的力の低下という状況で、東アジアの人々が自ら平和構築出来る時期に移行しつつある。

■ 孫崎大使の仮説を深読み 

・深読み前の戦後日米安保体制の成立原因



対米軍事従属日本の立役者たち;国際共産主義

占領初期、マ元による日本非武装化路線が1947年以降の冷戦開始、そして、1950年の朝鮮戦争勃発で完全に破綻した。そこで、日本の安全を保障するために米軍の駐屯継続、米軍を補完する警察予備隊(⇒保安隊⇒自衛隊 )の成立という戦後の現在に至る対米軍事従属日本ができるのであった。日本の役割は米軍に基地と米軍維持のサービス(売春婦から兵廠まで)提供。さらに、冷戦後は世界で米軍を補完業務行う自衛隊の整備である。

★ 深読み


Dean Gooderham Acheson

孫崎享のイラクのクエート侵略の米国誘因隠喩。孫崎享のよくする話;

イラクがクウェートに侵攻した直前、サダム・フセインが駐イラク大使にクウェート侵攻をほのめかしたところ、米国大使は「アラブの問題はアラブ内で解決すべし。自分は二国間関係の発展のために赴任している」と述べ、サダム・フセインはこれを「米国がクウェート侵攻を容認した」と間違って受け止めクウェートを侵攻した。

つまり、米国がイラクのクウェート侵攻を誘発したのだと、暗に孫崎は云っている。一方、朝鮮戦争。アチソン演説。1950年1月12日、米国のアチソン国務長官が米国のアジアでの防衛線はアリューシャン列島から日本本土、沖縄、フィリピンと言明した。朝鮮半島が入っていない。このアチソン国務長官の発言は北朝鮮の金日成に暗示を与えたに違いない。だから、金日成は「主体」的にスターリンと毛沢東の支持を得て、戦争を始めたのだ。一方、アチソン発言⇒北朝鮮の侵攻;朝鮮戦争勃発⇒日本の恐怖⇒「日本の安全はアメリカに依存しなければならない」という意識⇒対米軍事従属日本の成立。この流れをつくるために、米国が「仕掛け」たのであり、アチソン発言が朝鮮戦争を誘発したのだという仮説。そして、日本の米国への軍事的従属を実現したい人たちがアチソン発言をさせて、朝鮮戦争を誘発することを「仕掛け」たという仮説。

これが、孫崎享が云いたいことだろう。米国の「仕掛け」で説明するのだ。

■ 尊皇大使

さて、尊皇。実は、朝鮮戦争勃発前から国際共産主義の脅威を訴えていた「人」がいる。彼は、「日本の安全はアメリカに依存しなければならない」という意識をもっていたという研究成果[1]も出て来ている。その「人」とは、昭和天皇である。でも、孫崎大使はそのことに触れない。やはり、孫崎大使は尊皇家なのだ。かつて書いたことがある(昭和天皇への濡れ衣に反論する孫崎大使)。

[1] 豊下楢彦の報告


小森陽一について。もちろん、全然、ついていけないのだけど、その一例;

小森: 私も常に強調していることは、朝鮮戦争のただ中で講和条約がサンフランシスコで結ばれたということです。日本列島全体が前線基地になって日々アメリカ軍が出撃している、野戦病院もある。そういう状況では、植民地支配をしていた朝鮮半島は国家として入ってこないし、中華人民共和国も入ってこないだろうし、ソ連も退くだろう。そういうなかで、片側講和といわれる条約を結んで、日本が名目上の独立をし、旧日米安保条約や日米地位協定で、アメリカが日本に防衛力をもつことを要求するという項目が入ります。ここから警察予備隊が保安隊になり、自衛隊が創設される。この体制が、今日まで続いているわけです。(第四章 朝鮮戦争70周年、アジアと日本の安全保障、和田、孫崎、小森対談)

日本の米国への軍事的従属の事実はそうなんだけど、そういう事態に至った原因は、「無責任な軍国主義者」である国際共産主義者たちの侵略、すなわち、一般人4-500万人の死者と国土の破壊をもたらした国際共産主義者たちの侵略にあるのだよ。これは、朝鮮半島で「大日本帝国でさえやらなかった」蛮行ではないのか?! いくら帝国主義と植民地支配と日帝を非難しようとも、朝鮮半島で最も殺戮と破壊をもたらしたのは「無責任な軍国主義者」である国際共産主義者たちだ。和田春樹も小森陽一もこのことから目を背けている。さらに、朝鮮戦争の開戦責任を北朝鮮に不問にして将来の関係改善を主張しているのも3人に共通なところである。

ちなみに、3人とも北朝鮮の現体制の人民の暮らしになんら言及していない。そういう体制の存続の妥当性は不問である。孫崎に言わせれば、国連に加盟する平等な国家であるからだ。拉致などする国家体制についても言及していない。