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香港人にとっての北京語と広東語

2006年05月18日 22時38分30秒 | ××語

  最初に香港に住んでいた頃、部屋の改修工事があった。まだ広東語がほとんどわからなかった私は、工事のオジサンとどうやって話そうかと思った。いざとなったら紙に書いてもらえばいいか? 実際筆談も使ったが、オジサンは“中文”の広東語発音で「めん てぃん ろい(明天来)」という。「明日来る」の広東語([ロ聽]日[ロ黎]、てぃんやっらい)くらいは知ってたんだけど^^;
 広東語しか話せない人が、明らかに広東語ネイティブじゃない人と話すとき、なぜか“中文”の広東語読みになる。エッグタルトの焼き上がりを待っていて、「我都要半打(んごぉとぉいうぷんたぁ)」(私も半ダースください)と店員に告げたら「イ尓也要半打嗎?(ねいやいうぷんたぁま)」と確認されたことがあった。“也”と“嗎”が、広東語の会話ではあまり使わないが“中文”でよく使う字なのだ。
 どうも、香港の人は、「広東語は香港・広東の人しかわからないが、中文か北京語ならアジアの人みんながわかる」となんとなく思っている節がある。北京語そのものは話せない人も珍しくない。教育や放送で使われる機会が少なかったのだから、広東省あたりから2、3世代前に香港に出てきたというような人は、広東語以外は片言の英語が普通かも。(うちに来てくれてたアマさんも、英米人家庭の仕事で英語はそこそこできたが、北京語は「一句都唔識(ひとことも話せない)」と言ってた。)実際、中文の広東語読みで、北京語しかわからない人には通じるんだろうか
 北京語ネイティブの人からすれば、広東語はまるっきり別の言語。半年、1年と香港に住めば、ある程度わかるようになるらしいが、最初は一言もわからないそうだ。同じ漢字を使う単語でも、発音が大きく異なることがあり、多少は習わないと難しいだろうと思う。それでも、広東語特有の単語ではなく、中文に使われる単語だと、想像がつきやすいかもしれない。とすると、案外昔から、広東語しかできない人と、北京語しか話せない人のコミュニケーション手段として活用されてきたのかも・・・。でも、広東語→北京語はそれでなんとかなっても、北京語→広東語のほうがわかりにくいと思うけど、、、あ、北京語はなんだかんだいっても探せば分かる人がいるのか。
 若い人でも、なんとなく“北京語はアジア共通”みたいなイメージがあるようで、先日香港で会った蘇永康ファンが、ずっと広東語で話しているのに「有」(やう)を[you3]と発音してしまい、言い直していた。私の広東語がとろくて下手なので、北京語圏の人と話しているような錯覚を起こしたらしい
 仕事で北京語を使うことが増えている昨今、北京語を学んでちゃんと話せるようになろうとする若い人は本当に多い。でもみんな苦労している。案外、欧米に移民・留学してた人が、ちゃんとした北京語を話せたりする。推測だが、欧米の大学あたりで外国人向けのカリキュラムで外国語として学んだほうが、香港人にはいいんじゃないだろうか。香港の語学教室あたりだと、文法はわざわざ教えないらしい。中文で慣れてるから外国語という気もしない。習わなければ話せるようにならないのに、まるっきり外国語とも思えない、不思議な位置づけ。単語を覚えればすぐある程度は話せるようになるけど、なんか肝心なところでネイティブに近づけない・・・。とはいっても、最近は小学校あたりからかなり北京語が正課として取り入れられているようなので、何十年か経つと今の広州人並みに北京語もできるようになるのかもしれない。
 返還直後は、「通じて当たり前」と北京語で押し通す大陸人に反発を隠さない人もいたが、最近は大陸人もかなり行儀よくなったのと^^;とにかくお金を使ってくれるいい客なので、もう慣れてしまってこだわらなくなってる感じ。中国系の人はたいてい話せて、ほかのアジアの国でも学ぶ人が多い北京語を、地域の共通語という意識でとらえるのは自然な流れではある。だから、わざわざローカル限定の広東語をせっせと学んだり話そうとする外国人を、「なんか物好きな人~」と思ったりもするようだ。
 ちょっと困るのは、「中文・北京語ならみんながわかる」が、日本人などにも共通だと思われていることだ。日本人にとって北京語と広東語は、それぞれ別の外国語なんだけど、、、そのへんについてはまた次回。

<追記>
 香港人にとっての広東語は、香港人としてのアイデンティティの一部でもある。かつて「大人の3人に1人は何らかの形の移民」(山口文憲)だった香港も、次第に香港で生まれ育った人々が中心になっていく過程で、親や先祖の出身地が北京でも上海でも四川でも、広東語を共通語として香港で生きていく―それが“香港人”という意識を形作ったといえる。(家では福建語や潮州語、あるいは北京語などを話すが一歩外へ出たら広東語、という人も香港には珍しくない。)北京語圏から移り住んだ人が、ただ住むだけでなく香港に根を下ろそうとするとき(例えば商売を始めるなど)、やはり広東語を身につけていくようだ。下手ながら広東語を話そうとする態度は、「本気で香港人になる」意思表示と受け取られているかも。

コメント
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