語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】旧約聖書には天地創造神話が2つある ~『立花隆の書棚』(3)~

2018年02月11日 | 神話・民話・伝説
 (1)旧約聖書には、じつは天地創造神話が2つある。
 第1章第1節の「初めに神(エロヒム)が天地を創造された」。ここでは神をエロヒムとされているので、E資料と呼ばれる。
 第2章4節以下の、エデンの園とアダムとエバが出てくるくだりは、神の名をヤハウェ(YHWH)としているので、Y資料と呼ばれる。
 旧約聖書は、E資料、J資料に加えてP資料(プリースト=神官のP)の3資料が編集されてできたものだ。この3つの資料はまったく異質だ。歴史的に古いのはJ資料で、バベルの塔、ノアの箱舟などよく知られた神話伝説はほとんどJ資料にある。
 ちなみに、エロヒムはエルの複数形で、エルは中東のセム族(ヘブライ、アッカドなど)の間で広く用いられていた神の名だ。
 なお、「初めに神は・・・・」ではじまっていることをもって、「これは天地に先立って神が存在していたという『神の先在説』の正しさを証明する」としている人がいるが、それはヘブライ語原典を知らないがゆえの誤りだ。ヘブライ語原典では、「ベロシス・バーラー・エロヒム・・・・」つまり「はじめに創造した、神は、天と地を・・・・」という語順になり、創造という行為そのものが先だ。はじめの瞬間には、まだ何が創造されたかは分からない。だから、第2節が、「地は混沌であって、闇が深遠の面にあり、神の霊が水の面を動いていた」と続く。
 最近の宇宙論でも、ビッグバンの後、すぐに物質が生まれるわけではなく、それが形をとって存在するまでに、微少な時間がかかり、「宇宙の晴れ上がり」まで待たないと、番部tが存在を開始しても、何も見えない不可視の時間帯があるとしている。

 (2)ヘブライ語の聖書を読めると、ユダヤ人と親しくなれる。
 ユダヤ人は、独特に強い民族的紐帯を持つ人々で、欧米社会では格別に強い存在感を、特に金融界、ジャーナリズム界、言論界、政界、芸術文化の世界で発している。その民族的紐帯の中核にあるのがユダヤ教であり、ユダヤ教・ユダヤ文化の心棒になっているのが旧約聖書だ。
 この世界の現実を知るための基礎知識の一つが旧約聖書であることは知っておくべきだ。
 そして、ユダヤ教徒にとっては、旧約聖書はユダヤ教の最高教典であるけれども、新約聖書は必ずしもそうではないことも知っておくべきだ。
 ユダヤ教にとって、神はあくまでヤハウェであって、キリストは神ではない。ユダヤ人にとってキリストとは、「紀元ゼロ年前後に、自分は神の子であると称する人がガラリヤから出てエルサレムで十字架にかけられて死んだらしい」という程度の認識だ。歴史的事実であるとは必ずしも認定していないし、まして、それが神の子だとか神自身であるといった神話はまったく信じていない。、

□立花隆/写真:薈田 純一『立花隆の書棚』(中央公論新社、2013.3)の第3章

 【参考】
【本】土着の宗教と結びいたキリスト教 ~『立花隆の書棚』(2)~
【本】欧米理解に不可欠なこと ~『立花隆の書棚』~
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