語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村野四郎を読む(3) ~さんたんたる鮟鱇~

2015年04月27日 | 詩歌
         ――へんな運命が私を見つめている  リルケ

 顎を むざんに引っかけられ
 逆さに吊りさげられた
 うすい膜の中の
 くったりした死
 これは いかなるもののなれの果だ

 見なれない手が寄ってきて
 切りさいなみ 削りとり
 だんだん稀薄になっていく この実在
 しまいには うすい膜も切りさられ
 惨劇は終っている

 なんにも残らない廂から
 まだ ぶら下っているのは
 大きく曲った鉄の鉤(かぎ)だけだ

 *

 <この詩には「へんな運命が私を見つめている」(リルケ)というサブタイトル風な言葉が添えてあり、それが「さんたんたる鮟鱇」という標題によくマッチして、それだけで一篇の主題をうかがわせる。無残な詩だ。鉄カギで逆さ吊りされて肉を切りとられ「だんだん稀薄になっていく この実在」。そうして最後に「ぶら下っているのは 大きく曲った鉄の鉤だけだ」ということ。この不様な魚が象徴するのは、或る場合における人間の運命である。生の姿が不様であるばかりでなく、ぶら下がった死もみじめである。そのうえ死の肉体は残酷に切り取られ、いっさいが無になったときようやく運命の惨劇が終わる。私どもの運命にもこれがある。永遠にうしなわれて形をのこさぬような、無の運命が行手に影を落としている。『抽象の城』の詩人は、このような意識を作品の恒久的主題にしたのである。>【伊藤信吉「解説」(『村野四郎詩集』(思潮社、1987))】

□村野四郎「さんたんたる鮟鱇」(『抽象の城』、1954)
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 【参考】
【詩歌】村野四郎を読む(2) ~体操~
【詩歌】村野四郎を読む(1) ~飛込~

    睡蓮(サイアム・パープル)
   

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