(1)米オバマ大統領がシリア攻撃の承認を議会に求めたことで、今後の米議会・世論の動向が大きな焦点となってきた。日頃はオバマ大統領に手厳しい保守派からも賛成論が出る一方、本来はオバマ氏を支持するリベラル派の反対も根強い。共和党・民主党それぞれの中で、賛否が入り乱れている。米議会は、9月第2週のうちに武力行使承認決議案の採決をする。【注】
攻撃するとすれば、東地中海にいる米駆逐艦4隻からの巡行ミサイル「トマホーク」計48発のほか、ステルス爆撃機B2からのGPS誘導バクダン投下も検討されている模様だ。目標は軍事施設に限定し、期間は3日間、とも報じられる。
(2)3月、シリア政府は、反政府軍が北部のアレッポ付近で化学兵器を使った、として国連の調査を求めた。7月、調査団派遣が決定。8月15日、シリアに入った。現地調査を始める矢先の21日、首都ダマスカス近郊で化学兵器による被害が発生した。
被害者は3,600人、死者355人。【「国境なき医師団」】
本来は政府側の要請で国連調査団が来た。その直後、人目につく首都の近くで政府軍が化学兵器を使えば、政府にきわめて不利になるのは明らかだ。不自然、不合理だ。
(3)イラク攻撃の場合、湾岸戦争直後の停戦協定で「大量破壊兵器の廃棄」が決まっていたため、米・英はイラク人亡命者の虚偽「証言」を信じ、イラクがそれをなお保有している、と見て攻撃した。ただし、占領して捜索したが、発見できなかった。
「化学兵器禁止条約」(1997年発効)は、その生産・保有・使用等を禁じているが、シリアは署名していない(北朝鮮・エジプトも同じ)。イスラエルは署名したが、批准していない。条約に入っていない国が化学兵器を使っても、米国が攻撃する理由にはならない。
英国は参戦しないことが、、8月29日に決定した。
シリアを武器輸出の得意先にしてきたロシアが、国連安全保障理事会で拒否権を使うのは確実だ。
純粋な自衛なら安保理決議を待たずに武力行使をできるが、米、仏がシリアの攻撃を受けるか、まさに受けようとする状況ではないから、それも無理。
シリア攻撃には法的根拠がない。
(4)巡行ミサイルや精密誘導爆弾が何を狙うかが難しい。デンプシー陸軍大将/米統合参謀本部議長が慎重論を唱えたのも当然だ。
(a)化学兵器の貯蔵庫、工場・・・・爆撃すれば猛毒のサリンなどが飛散し、大規模な汚染を起こす。
(b)約80基ある短・中距離ミサイル・・・・壊せばイスラエルは喜ぶとしても、内戦での化学兵器使用防止には役立たない。
(c)軍の司令部、政治中枢・・・・要人の所在は不明で、排除は困難。
(d)米軍などの参戦で、最近衰えつつある反政府側が勢いを盛り返して現政権が倒れたら、反政府側にいるイスラム過激派が化学兵器を入手する機会となる。
(e)完全解決には地上侵攻で全土を占領するしかない。が、世論、財務上これも不可能。
(5)米国は、イラク攻撃で大失敗する以前にも、デマに躍らされて他国を爆撃している。
1999年、ユーゴスラビアのコソボで「50万人の大虐殺が進行中」との情報に躍らされ、NATO諸国と共に79日間ユーゴ猛爆撃を行った。だが、停戦後コソボに入ったNATO軍は、2,108体の遺体しか発見できなかった。
(6)米国は、15の情報機関を持ち、要員は10万人以上、年間4兆円余の情報予算を費やす。
しかし、大統領側近の国家安全保障会議(NSC)の要求に応じて情報を上げる仕組みだから、巨大情報機構も政府首脳部の思い込みを補強するだけの結果になりがちだ。
【注】記事「シリア攻撃、割れる米議会 共和・民主、両党内に賛否」(朝日新聞デジタル2013年9月3日)
□田岡俊次(軍事ジャーナリスト)「根拠なき空爆の無謀 巡航ミサイル攻撃と爆撃を計画」(「AERA」2013年9月9日号)
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攻撃するとすれば、東地中海にいる米駆逐艦4隻からの巡行ミサイル「トマホーク」計48発のほか、ステルス爆撃機B2からのGPS誘導バクダン投下も検討されている模様だ。目標は軍事施設に限定し、期間は3日間、とも報じられる。
(2)3月、シリア政府は、反政府軍が北部のアレッポ付近で化学兵器を使った、として国連の調査を求めた。7月、調査団派遣が決定。8月15日、シリアに入った。現地調査を始める矢先の21日、首都ダマスカス近郊で化学兵器による被害が発生した。
被害者は3,600人、死者355人。【「国境なき医師団」】
本来は政府側の要請で国連調査団が来た。その直後、人目につく首都の近くで政府軍が化学兵器を使えば、政府にきわめて不利になるのは明らかだ。不自然、不合理だ。
(3)イラク攻撃の場合、湾岸戦争直後の停戦協定で「大量破壊兵器の廃棄」が決まっていたため、米・英はイラク人亡命者の虚偽「証言」を信じ、イラクがそれをなお保有している、と見て攻撃した。ただし、占領して捜索したが、発見できなかった。
「化学兵器禁止条約」(1997年発効)は、その生産・保有・使用等を禁じているが、シリアは署名していない(北朝鮮・エジプトも同じ)。イスラエルは署名したが、批准していない。条約に入っていない国が化学兵器を使っても、米国が攻撃する理由にはならない。
英国は参戦しないことが、、8月29日に決定した。
シリアを武器輸出の得意先にしてきたロシアが、国連安全保障理事会で拒否権を使うのは確実だ。
純粋な自衛なら安保理決議を待たずに武力行使をできるが、米、仏がシリアの攻撃を受けるか、まさに受けようとする状況ではないから、それも無理。
シリア攻撃には法的根拠がない。
(4)巡行ミサイルや精密誘導爆弾が何を狙うかが難しい。デンプシー陸軍大将/米統合参謀本部議長が慎重論を唱えたのも当然だ。
(a)化学兵器の貯蔵庫、工場・・・・爆撃すれば猛毒のサリンなどが飛散し、大規模な汚染を起こす。
(b)約80基ある短・中距離ミサイル・・・・壊せばイスラエルは喜ぶとしても、内戦での化学兵器使用防止には役立たない。
(c)軍の司令部、政治中枢・・・・要人の所在は不明で、排除は困難。
(d)米軍などの参戦で、最近衰えつつある反政府側が勢いを盛り返して現政権が倒れたら、反政府側にいるイスラム過激派が化学兵器を入手する機会となる。
(e)完全解決には地上侵攻で全土を占領するしかない。が、世論、財務上これも不可能。
(5)米国は、イラク攻撃で大失敗する以前にも、デマに躍らされて他国を爆撃している。
1999年、ユーゴスラビアのコソボで「50万人の大虐殺が進行中」との情報に躍らされ、NATO諸国と共に79日間ユーゴ猛爆撃を行った。だが、停戦後コソボに入ったNATO軍は、2,108体の遺体しか発見できなかった。
(6)米国は、15の情報機関を持ち、要員は10万人以上、年間4兆円余の情報予算を費やす。
しかし、大統領側近の国家安全保障会議(NSC)の要求に応じて情報を上げる仕組みだから、巨大情報機構も政府首脳部の思い込みを補強するだけの結果になりがちだ。
【注】記事「シリア攻撃、割れる米議会 共和・民主、両党内に賛否」(朝日新聞デジタル2013年9月3日)
□田岡俊次(軍事ジャーナリスト)「根拠なき空爆の無謀 巡航ミサイル攻撃と爆撃を計画」(「AERA」2013年9月9日号)
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