語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会保障】安全より経団連の意向と医療費削減優先 ~医薬分業に財務省の影~

2015年06月01日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)病院内に薬局を併設してはいけない・・・・という厚生労働省の規制(「医薬分業」)に逆風が吹いている。
 政府の規制改革会議は、6月の答申に、「車いすの患者には、病院と薬局が離れていては不便だ」と規制撤廃を盛り込む考えで、これに厚労省は有効な反論ができずにいる。
 ただし、「弱者の味方」を演じる同会議の背後には、日本経済団体連合会や財務省の影がちらつき、当事者(患者)を放っておいて政官界で綱引きが続いている。

 (2)5月11日、規制改革会議作業部会で、厚労省側は、「分業の規制は必要。かかりつけ薬局を普及させる」と従来の主張を繰り返しつつ、
    「ハンディのある人には配慮も検討する」
と踏み込んだ。
 だが、「病院内にはコンビニもある。病院と経営とが分離されているなら、『スギ薬局』が院内にあってもいいのではないか」と反論する森下竜一・委員/大阪大学大学院教授らを説得できなかった。

 (3)医薬分業は1956年に導入された。「医の安全」(医師と薬剤師による処方薬の二重点検)が目的だった。
 特定の医療機関お抱えの薬局では、チェック機能が働かない、として病院と薬局を引き離そうとしたのだ。厚労省は、義務化こそしていないが、薬局を病院外に出す誘導策として、院外薬局には
    保険料、税金、患者の窓口負担から支払われる診療報酬(「調剤基本料」)
を手厚くした。ただし、その代償として、複数の医療機関で薬を処方されている患者らのかかりつけ薬局となり、
    薬の飲み合わせに問題はないか、
    重複投薬はないか、
などを確認することを求めた。
 <例>診療報酬(薬局が手にする)を14日分処方された花粉症患者
    ①院内薬局・・・・1,500円
    ②院外薬局・・・・3,250円
 ②は①の2倍超だ。この効果は絶大で、当初0%近かった分業率は67%(2013年度)にまで高まった。

 (4)しかし、医の安全は想定どおりには進んでいない。
 「門前薬局」(患者が処方箋を持ち込みやすいように医療機関周辺に開設する)が乱立しているからだ。門前薬局に持ち込まれる処方箋は同じ病院からのそれが大半で、「かかりつけ」の役割を果たしているとは言えないところも多い。それでも形式上は院外なので、報酬は院内薬局の2倍ほどに設定されている。

 (5)薬局業界は、より高収益を求めて同一ビル(「医療モール」)内で医療機関と同居する戦略もとっている。患者の窓口負担は、薬局に支払われる診療報酬の1~3割。形式的な分業が進む中、医の安全が脇へ追いやられたまま患者負担が膨らんでいる。
 厚労省は、「経済活動の自由」原則に縛られて口を出せない。
 「院外薬局の患者が価格差ほどのサービスを受けているのか」【岡素之・規制改革会議議長/住友商事相談役】

 (6)規制改革会議が医薬分業の撤廃を主張する表向きの理由は、次の二つ。
    ①患者の利便性
    ②自己負担の軽減   
 しかし、裏を見れば、日本調剤など大手薬剤チェーンが名を連ねる経団連の意向も入っている【規制改革会議の関係者】。
 経団連は、「同一ビル内での医療機関と薬局の併存」を要求してきた。大手チェーンの思惑(病院内に入って特定医療機関の処方箋を独占する)が透ける。

 (7)経団連とは別の観点から手を打ってきたのが財務省で、規制改革会議の委員に働きかけてきた【前記関係者】。
 規制撤廃で、多くの薬局を院内に誘い込んだ上で、「かかりつけ薬局の役目を果たしていない」として調剤基本料を引き下げる戦略だ。

 (8)「医薬分業は引き続き推進していきたい」と成田昌稔・厚労省審議官は規制改革会議の会合で強調する。
 しかし、門前薬局の増加、医療モールへの出店を黙認・・・・といったツケは重く、院内薬局を認めない根拠は揺らいでいる。
 一方、財務省の思惑どおり薬局の「院内回帰」が進めば、医療費が減って患者の薬代負担も安くなる半面、分業の理念は崩れ、医の安全は今より脅かされることになる。

□吉田啓志(「毎日新聞」編集委員)「医薬分業をめぐる財務省の影 「医の安全」より経団連の意向と医療費削減優先か」(「週刊金曜日」2015年5月22日号)
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