福島第一原発事故は「安全神話」を崩壊させたが、堤防が決壊する前から小さな蟹穴からチョロチョロ水が漏れていた。
堤防の水漏れという事故に対しては、事故隠しがあった。そして、隠蔽に対しては内部告発があった。
代表的な内部告発は、倒壊村JCO臨界事故を契機に導入された「内部申告奨励制度」の第1号だ。すなわち、GEの子会社、GEIIが請け負っていた福島第一、第二の点検に係る記録の改竄だ。告発者は、GEIIの職員、日系のスガオカ・ケイ(01年後半に退社)。文書は00年7月に通産省に届き、01年に発足した原子力安全・保安院に引き継がれた。保安院は、告発者の氏名その他の資料を東電に渡し、後は放置した。事件は、02年8月に天下周知のものとなり、東電の経営幹部5人が骸骨を乞う羽目におちいった(第6章「握りつぶされた内部告発」)。
佐藤栄佐久知事(当時)隷下の生活環境部原子力安全グループには、内部告発が続々と寄せられた。国(保安院)がアテにならないので、県へ通報したのだ。県には、立入調査や停止命令を出す権限がないので、情報提供者の個人情報を伏せたうえで保安院に通告するか方法はない(重大と思われるものは公表して善処を求めた)。
<03年2月>定期検査期間短縮で十分なチェックができなくなっている。
<03年4月>シュラウドばかり心配しているが、タービンのローターにもひび割れがある。
<03年9月>福島第一の何号機かの、発電機の置かれている部屋のコンクリート壁が飛び散り、発電機やその他の装置に被っている状態で運転している。東電は、いま止められないと運転を継続している。
<03年10月>東電の社員は所内の作業を監督していない。ために、東電の知らないところで不正があった。現場でひびが発見されても東電に知らせないことがあった。作業マニュアルどおりに点検されてないことがあった。現場の請負企業では、作業後の放射性廃棄物の区別等を東電が監督していないところではきちんと行っていないことがあった。原子炉圧力容器下部周辺などの高い被曝が予想される作業では、線量計を外して高い数値が出ないようにしていることがあった。請負企業の放射線管理責任者が現場にいないことがあった。東電はこれらの事実関係を把握していない。
<04年8月>99年6月に福島第一原発3号機で発生した爆発事故についての発表がない。
<05年5月>4月に福島第二原発3号機の制御棒駆動機構ハウジング2本にひびらしきものが見つかった。東電は、ひびではなく線状の傷跡だとしているが、専門家によれば応力腐食割れの可能性を否定していない。
<05年6月>福島第一原発6号機、3号機、5号機にて点検中に判明した湿分分離器の欠陥および抽気管の欠陥を、なぜその後に点検を始めた福島第一原発2号機の定期検査で実施しないのか。湿分分離器は点検すれば必ず欠陥が出る。それは電力会社もわかっているはずだ。
<05年7月>福島第一原発6号機の可燃性ガス濃度制御系の、流量制御器内の流量換算式に用いられている補正係数は、検査を合格しやすくするため意図的に用いられたもので、20年前からマニュアル化されている。第一原発1号機の運転開始を優先するために、いまもその事実を隠している。会社ぐるみで不正を隠蔽している。
<06年5月>定期検査終了後、東電の技術グループが100%出力で行う「総合負荷検査」において、立会検査前の社内検査で、記録および計器の不正があった。合格範囲以外のデータについて、計器のゼロ点をシフトさせ、規定値に合わせる不正だ。そのまま国の検査を受けた。
・・・・最後の告発について、佐藤栄佐久はコメントしている。
「この情報提供も重大な指摘であるので公表し、東電からの回答を得た。(中略)データ改竄がまだ改まらない。データが都合悪くなると基準のほうを変えてしまおうとするのは企業風土であるようだ。安全は守られない」(第9章「止まらない内部告発」)【注】
【注】電力会社は役所より役所的と言われる。当然、役所もまた、基準に合わせて現状を改善するのではなく、悪化した現状に合わせて基準を改悪する。事実、厚生労働省は、福島第一原発事故の発生後、経済産業省原子力安全・保安院の別枠設定要請に応えて、作業員の被曝限度を100mSvから急遽250mSvに引き上げた。また、文部科学省は、学校校庭の利用の暫定基準を年間20mSvに設定した福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」)。
以上、佐藤栄佐久『福島原発の真実』(平凡社新書、2011)に拠る。
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