語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】大統領予備選に見る戦後体制の終り ~米軍、東アジアから撤退~

2016年06月09日 | 社会
 (1)米国大統領予備選挙から、近い将来、世界秩序に重大な変化が起こり得ることが明らかに感じられる。むろん、米国では4年に1回大統領選挙が行われるのだが、今回は話が異なるのだ。
 最も顕著な変化は、共和党vs.民主党という米国二大政党制が崩壊しつつあることだ。両党内でエリート層と草の根の支持者たちの間に大きな隔たりが見られる。
  (a)共和党・・・・草の根運動の擁護者がドナルド・トランプだ。ライバルを次々と打ち負かし、今や大統領候補者選びで指名獲得を確実にしたが、党のエリートのほとんどがトランプ氏を軽蔑視している。
  (b)民主党・・・・党幹部が推すヒラリー・クリントンが進歩主義のライバル、バーニー・サンダースに僅差でかろうじて勝利するであろう【注】。だが、1年前には、クリントン氏を予備選で追い詰めるライバル候補の存在を予想したアナリストはほとんどいなかったはずだ。

 (2)米国社会の亀裂が露呈している。1980年代から富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなった。今では中間層でさえ「働く貧困層」の仲間入りをしつつある。
 トランプ氏は、その原因が移民と外国との同盟にある、と糾弾する一方、サンダース氏は富裕層とウォール街を非難している。
 クリントン氏はと言えば、自身が既存の体制の一部であるために、明確なメッセージを打ち出せずにいる。
 民衆の怒りのマグマは上昇する一方だ。

 (3)もしも11月にトランプ氏が米国大統領に選ばれたら、戦後期が終焉を迎える、と言っても過言ではない。将来、歴史学者は、1945年から2016年までを戦後期と記すだろう。
 戦後期とは、良く言えば、米国が世界で支配的な権力を持ち、その外交政策が超党派による国際主義への深い関与によって導かれた時代と定義されよう。
 米国の世界展開の土台となっていたのが、西欧や日本との同盟だ。
  (a)トランプ氏は、これらの同盟を抜本的に「再交渉」すると明言し、欧州と日本に対して米国経済に直接現金で貢献するよう脅しをかけている。短期的にはともなく、遅かれ早かれ同盟が崩壊することは間違いない。トランプ氏の外交政策は、「敵」「味方」にかかわらず、本質的に同じだ。米国との同盟は無意味なものとなるだろう。
  (b)クリントン氏が大統領選を制すれば、戦後期はもう少し長引くはずだ。クリントン氏は、従来の外交政策を踏襲するつもりだ。バラク・オバマ大統領と同様に、日本にはほとんど目もくれないだろう。
 
 (4)(3)-(b)であっても、クリントン氏は依然として米国民の強い怒りと反既存体制感情に直面するに違いない。
 しかも、クリントン氏は元来、オバマ大統領よりも相当タカ派だ。シリア、イラク、アフガニスタンに米地上軍を派遣する可能性が高い。つまり、氏の外交政策は、巨額の戦費を注ぎ込んだジョージ・W・ブッシュ大統領の字出会いに逆戻りと言えるかもしれない。すると、次回2020年の大統領選挙では、左派でも右派でも怒れる大衆主義者が勝利を収め、結局は戦後体制が終焉を迎える、と予想される。

 (5)戦後体制の終焉は、進歩主義者もリベラル派も含め、日本にとって何を意味するのか。
 今後数年間に米軍が実際に東アジアから撤退する可能性を今こそ考慮すべきだ。
 その場合、日本の外交・国防政策はどうあるべきなのか?

 【注】6月7日に指名を確実にした。【記事「クリントン氏、勝利宣言へ 米民主党、代議員過半数に」(朝日新聞デジタル 2016年6月8日)】

□マイケル・ペン「米国大統領予備選に見る戦後期の黄昏 ~ペンと剣~」(「週刊金曜日」2016年6月3日号)
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