語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【JAL】社員の賃上げの前に余ったカネを社会に還元するのが筋 ~大幅賃上げを進める日本航空~

2017年05月28日 | 社会
 (1)カネ余りで使い道に困っている・・・・。成長戦略を描けず、閉塞感に満ちた日本の産業界にあって、日本航空(JAL)だけは景気がいい。

 (2)会社更生法の適用を申請した2010年1月、負債総額2兆3,000億円という途方もない倒産となったのが嘘のようだ。
 JALは公的資金の投入や銀行団の借金棒引き、赤字路線の整理など、倒産処理における数々の“特別待遇”のおかげで、ほぼ毎年のようにJAL史上最高の利益を更新してきた。
 奇跡のV字回復ともて囃されたJALは、2016年度の営業利益が1,703億円。
 数年前までは、ライバルの全日空(ANA)に年間1,000億円近く水を開けてきた。その一方で、いくら儲けても法人税を免除され、免除額は2018年までの9年間で実に4,300億円に上る。

 (3)むろん、面白くないのがANAで、あまりの特別待遇に「市場競争を歪めている」と猛反発。勢いに押された国土交通省が、この間、JALの新規事業投資を認めず、ドル箱の羽田空港路線の発着枠配分を制限してきた。
 しかし、2012年8月10日に航空局が出した「8・10ペーパー」通達も、さる3月で有効期限が切れた。
 で、JALはこれから倒産企業としての手かせ足かせが外れ、自由に経営できる。とばかりにますます意気軒昂なのだ。この4月28日には、植木義晴・社長が国交省で中期経営計画を発表。
  「世界のJALに変わります」
  「一歩先を行く価値を創ります」
  「常に成長を続けます」
と経営の三本柱をぶち上げた。そこには、安全と高品質なサービスの提供、強固な財務体質の保持、社会ヘの貢献といった美辞麗句が並ぶ。

 (4)ところが、いったいどう事業展開をするのかに関する具体策がない。事業の目玉は、新たな予約システムに800億円を投じたり、ビジネスクラスシートをフルフラット化するくらいだ。
 つまり、大儲けしたそのカネで新規事業に乗り出したくでも、できない。そんなチグハグな状況が生まれているのだ。
 その原因が人材不足だ。かつてJALは年収3,000万円の高級取りパイロットが2,000人以上いる、とされた。それだけで年間人件費は600億円。
 さすがにそれは大袈裟であるとしても、実際、人件費は経営に大きく響く。だからJALは、倒産を機に、パイロットをANAび1,800人より少ない1,411人に削減した。平均年収も1,500万円を少し上回る程度にまで抑えた、と胸を張った。
 だが、逆にそのせいで、人材が流出してしまった。昨今の世界的なパイロット不足も手伝い、年間30~40人が退職していった。

 (5)そこで慌てたのが機長出身の植木社長だ。2015年度から人件費を200億円増額。その結果、JALの機長は48歳モデルで月収190万円を超え、ANAの180万円を抜くほどの大盤振る舞いである。
 おまけに、2017年4月には、機長組合と乗員組合が統合し、賃上げ圧力をますます高めている。
 ただし、これ、優良企業なのだから高級取り続出なのは当たり前、とはいかない。
 カネ余りは、倒産時の特別待遇があったからだ。税金を返せ、とは言わないまでも、社員の賃上げの前に、余ったカネを社会に還元するのが筋だろう。さもないと、親方日の丸に先祖返りした、と非難されかねない。

□森功「喉元過ぎて熱さ忘れた? 大幅賃上げを進めるJALの「面の皮」 ~ジャーナリストの目 第341回~」(週刊現代 2017年6月3日号)から引用
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