語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、日本の「ボランティア活動」はボランティアの活動か?

2010年10月28日 | ●野口悠紀雄


 『日本経済は本当に復活したのか』は、「「超」整理日記」のまとめ(11回目)である。10回目以前にくらべると経済以外のテーマは減っている。経済以外の「テーマを取り上げる余裕がなくなった」(あとがき)からである。
 しかし、いくらかは経済以外のテーマも含まれていて、次に取りあげるボランティア活動論もその一つだ。野口悠紀雄は、日本のボランティア活動の状況には首をかしげる、と述べ、概要次のようにいう。
 
(1)ボランティア活動を行う人々の年齢
 米国では比較的高齢の人だが、日本では若い人だ。ボランティア活動も重要だが、本来の学業や仕事はもっと重要だ。
 ボランティア活動とは、自らの生活基盤を確立したうえで、余暇の時間を使って行うものだ。

(2)ボランティア活動を大学の単位に認定
 大学の教育をボランティア活動で代替することはできない。ボランティア活動に単位を認めて教育責任を放棄すれば、大学は自らの存在意義を否定することになる。
 ところが、単位認定する大学が出てきた。
 事態はこれにとどまらず、文部省(現文部科学省)事務次官通知により、中学校の内申書にボランティア活動歴が書きこまれるようになった。こうなると、ボランティア活動は強制されることになる。

(3)有料ボランティア
 1時間当たり数百円の報酬が支給される。また、地域通貨を創設してポイント制を導入し、ボランティアのインセンティブを高めるべきだという議論もある。
 「有給ボランティア」もある。企業の有給休暇を使ったボランティア活動を認めるものだ。

 野口は、内申書については、はっきりと反対する。「戦時中の国家への献身要求を引き合いに出すまでもなく、自己犠牲の強要は、多くの場合に、権力者が若者を欺いて自らは利益を得るための手段以外の何物でもないのだ」
 そして、野口は、さらに有料ボランティアの問題点を指摘する。地方公共団体などの公共団体が、ボランティア活動を安上がりの労働力として活用し、その結果、介護サービスなどの供給がボランティアに依存してしまうことを恐れる、と。
 サービス利用者の立場に立てば、次のことを要求したい。

(a)気兼ねなくサービスを受けたい。恩義を受けているという意識は持ちたくない。
(b)サービスの内容や質について、選択の自由を確保したい。決まったメニューだけを押しつけられるのは困る。
(c)必要なときは確実にサービスを受けたい。受給者がサービスを要求できないようでは困る。供給者の都合が悪いときには得られないような不安定な供給体制では困る。
 
 これらの要求は、ボランティアでは満たされない。
 市場で供給されるサービスに対価を支払う経済的余裕がない人には、公的な補助を与えるべきである(供給者ではなく受給者に対して)。
 とにかく人手がほしい、という現場の切実な要求があるにしても、予算を要しない解決策としてのボランティア依存は、容易な解決以外の何物でもない。「こうした問題に関して原理原則をないがしろにすれば、やがては恐るべき結果がもたらされるだろう」

   *

 以上は、『日本経済は本当に復活したのか』第4章(企業の社会的責任論を排す)の4(日本の「ボランティア活動」はボランティアの活動か?)による。
 きわめてまっとうな議論だ。
 内申書に係る「戦時中の国家への献身要求」の端的な例は、神風特攻隊だ。大岡昇平は、次のように書く。
 「口では必勝の信念を唱えながら、この段階では、日本の勝利を信じている職業軍人は一人もいなかった。ただ、一勝を博してから、和平交渉に入るという、戦略の仮面をかぶった面子の意識に動かされていただけであった。しかも悠久の大義の美名の下に、若者に無益な死を強いたところに、神風特攻の最も醜悪な部分があると思われる」

 有料ボランティアに係るサービス利用者の側からする要求は、ボランティアの限界を示して、間然するところがない。
 すぐれたボランティアは、この限界を明瞭に自覚するボランティアだ。ボランティアは、プロの代替とはなり得ない。
 ボランティアでなくてはできないこともあるのは、事実だ。ボランティアの場合、サービスの提供・受給の関係を超えた深みで人間的なつながりが築かれることもある。プロの場合、プロ同士でこうした関係が成立することもあるが、プロと利用者との間においては、皆無とは言わないが、きわめて稀だ。
 例外的な状況はやはり例外にすぎない。
 精神的負担の払拭、選択の自由、安定的供給は、介護に限らず、サービスの受給・供給関係において必要欠くべからざる条件だ。

【参考】野口悠紀雄(『日本経済は本当に復活したのか -根拠なき楽観論を斬る-』、ダイヤモンド社、2006、所収)

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