語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】脱原発が可能な理由 ~エネルギー需給の観点~

2012年10月04日 | 震災・原発事故
 (1)脱原発は現実的にきわめて困難であり、それを無理に実現すれば日本経済がダメージを受ける・・・・という議論が、福島原発事故以前から、声高に叫ばれてきた。
 しかし、脱原発によってエネルギー供給不足が生じるおそれは、ほとんど無い。原子力発電が日本の一時エネルギーに占める比率は、2000年代後半において10%程度だ。福島原発事故以後はさらに下がったが、それによって日本がエネルギー不足に陥ったわけではない。

 (2)電力に限ってみれば、原発のシェアは2000年代後半において25%~30%程度を推移している。
 福島原発事故によって、東日本の原発の大多数が長期停止状態に陥り、他の地域の原発も安全性に関する信用が崩壊したため、定期検査が済んでも再稼働に陥った。ために、電力需要が上昇する2011年夏において若干の電力不足問題が生じた。しかし、2012年冬には、運転中の原発が50基中わずか3基(2012年1月27日)となったにもかかわらず、電力不足はほとんど生じなかった【注】。
 仮に、今後数年間、日本の原発が停止し続けるとしても、火力発電所を高い設備利用率で運転すれば、電力不足が生じることはない。
 このことは、電気事業者が毎年発表する発電設備データを見ても明らかだ。その中には実質的な休止設備も含まれているが、休止設備についても一定の時間をかけて整備すれば運転再開可能だ。

 (3)火力発電によって代替するには、大きな経済的代償を覚悟しなければならない、当然。
 原子力発電と火力発電のライフサイクル・コストは、ともに順調に運転されるという前提で、大きくみればほぼ同等、というのがエネルギー専門家の共通認識だ。
 しかし、両者のコスト構造は大きく異なる。原子力発電は、火力発電と比べて建設コストと廃止・処分コストが大幅に高いが、運転コストは大幅に安い。ウラン燃料(ウラン資源および加工コスト)は、同等の発熱量の化石燃料のコストの数分の一だからだ。2009年価格の燃料費は、
 (a)原子力発電・・・・100億円。
 (b)石油火力発電・・・・100万kWの定格出力で設備利用率80%で稼働させると年間600億円。
 (c)LNG・・・・400億円。
 (d)石炭・・・・220億円。

 (4)(3)のように燃料費の格差がきわめて大きいので、運転可能な原発を止めて、その代わりに火力発電所を運転すれば、発電コストが大幅に上昇する。
 特に大部分の原発が停止状態となれば、それを補うためには石炭火力やガス火力だけでは足らず、3種類の火力コストが群を抜いて高い石油火力も、大幅に運用せざるを得なくなる。
 電力業界が原発の再稼働を強く希望する背景には、こうしたコスト問題がある。それは絶対的な供給能力の不足問題ではないとしても、長期間にわたってこうした状態が続くことは、経済性の観点からは、たしかに大きな問題だ。

 (5)長期的な視野で見ると、原子力発電の一次エネルギーに占める比率は(1)のとおり10%だ。
 しかし、この数字は、原子力発電の実力を過大評価している。原子力発電は、火力発電と比べて熱効力が低い(30%台前半)。温排水として捨てられる比率が高いため、その分を割り引く必要がある。冷却水が液体の状態で炉心を通過しなければ、原子炉の制御に支障をきたすからだ(水は中性子の減速材の役割を兼ねる)。よって、原子力発電のシェアは、実力的には7~8%程度だ。
 それを十数年またはそれ以上の時間をかけてゼロにまで減らしていくことは容易だ(ただし、電力においては火力発電所をある程度増やす必要がある)。

 (6)人口減少、それに伴う都市の狭い地域への人口集中、脱工業化によるエネルギー多消費産業など製造業の衰退、化石エネルギー価格高騰による消費者の節約、国民の所得低下による消費者の節約・・・・などの要因によって、今後、日本社会ではエネルギー消費の自然減が進むと目される。
 エネルギー効率向上(技術進歩による省エネルギー)や再生可能エネルギー拡大を見込まなくても、自然減だけで脱原発と帳尻が合う。

 (7)脱原発のためには原発を代替するエネルギーが必要だが、火力発電は温室効果ガスの排出量増加をもたらすので好ましくなく、再生可能エネルギーでは力不足だ・・・・というのが、原発推進論者のきまり文句として使われてきた。
 しかし、自然減だけで脱原発分の帳尻が合い、エネルギーの変換・利用効率向上のための努力も加味すれば大量のお釣りが来るのであれば、原発の代替エネルギーを探す必要はない。
 むろん、再生可能エネルギーが爆発的に普及すれば、その分だけ火力発電を削減できる。

 【注】「【原発】電力は本当に足りないか ~再稼働の論理の破綻(2)~

 以上、吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012)の第7章「異端から正統へと進化した脱原発論」に拠る。

 【参考】
【原発】『脱原子力国家への道』
【原発】日本政府はなぜ脱原発に舵を切れないか ~日米原子力同盟~
【原発】福島原発事故による被害の概要
【原発】福島原発事故の教訓
【原発】エネルギー一家の家族会議 ~総合資源エネルギー調査会~
【原発】「国家安全保障のための原子力」という公理
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