語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【フェルメール】の青はどこから来ているか? ~『フェルメール 光の王国』~

2018年08月18日 | □旅
 『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)でサントリー学芸賞および中央公論新書大賞を受賞した福岡伸一が、フェルメールの稀少な作品をもとめて各国をわたり歩く。その紀行と思索の結果が『フェルメール 光の王国』。本書のうち、フェルメールの「青」の謎に迫る箇所がこちら。

---(引用開始)---
 さて、『真珠の耳飾りの少女』を際立たせているもう一つの要素は、当時から見ても古代衣装にあたるターバンの鮮やかな青である。現に、この作品のタイトルは、『青いターバンの少女』と呼ばれることもある。深い青のつややかさと鮮やかさは、フェルメールがこの絵を描いたときから350年を経た現在も、ほとんど劣化していない。なぜか。この青は、細かく砕いた宝石で描かれているからである。
 ラピスラズリ。アフガニスタン奥地の山峡に産出されるこの青い宝石は、ツタンカーメンのマスクにはめ込まれるなど、紀元前3000年の昔から高貴で稀少なものとして、地中海世界で、そしてヨーロッパ各地で珍重されてきた。旧約聖書の記述にも、その価値は金と並び称され、時には純金よりも高価であった。
 中世の化学者たちが、蝋と薄めた洗剤液を使って不純物をラピスラズリから除去する方法を発見し、透き通るように澄んだ、それでいて限りなく深い青、地中海を越えてもたらされた青、すなわちウルトラマリンブルーが完成した。
 貴重で高価なこの青は、たとえば、宗教絵画における聖母像など特別な限られた対象にのみ用いられるのが常だった。
 しかしフェルメールは、このウルトラマリンを惜しげもなく、少女のターバンに使ったのである。
 むろん当時、画家はすべて自分自身で絵の具を調合した。アトリエから細い階段を使って上がる屋根裏部屋に置いた石のテーブルで、今やフェルメールの助手となった少女は、一心に顔料と亜麻仁油を混ぜる。すると限りなく鮮やかな色がそこから立ち上がり始める。
---(引用終了)---

□福岡伸一【注】・著、小林廉宜・写真『フェルメール 光の王国』(木楽舍、2011)の「第1章 オランダの光を紡ぐ旅」から一部引用

 【注】生物学者。『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、2007)でサントリー学芸賞および中央公論新書大賞を受賞。

 
 フェルメール《真珠の耳飾りの少女》(1665-1666年頃)

 
 映画「真珠の耳飾りの少女」(英・ルクセンブルク、2004)


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