語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】3年間のペアリング支援で地域主権の復興が可能に ~宮城県岩沼市~

2011年06月08日 | 震災・原発事故
(1)現地では何が問題か
 被災後2ヵ月経った今、本格的な復興に向けて舵を切らなければならない。インフラや住宅の復旧を早く進める必要がある。被災者が自ら考える地域主権の復興でなければならない。
 今の問題点は、現地に人がいないことだ。現地の自治体は、行方不明者の捜索、瓦礫の処理、仮設住宅の建設といった仕事で手いっぱいだ。時間、体力、気持ち、アイデアなどすべての面で余裕がない。
 そこで、ほかの自治体が被災地をそれぞれ受けもって長期的な復興を後方支援する「ペアリング支援」が必要だ。

(2)ペアリング支援の一例
 四川大地震で、世界から49チームが支援呼びかけに応じた。日本からは石川教授のチームが復興のグランドデザインを提案し、3年間支援を続けた。
 中国が復興のために採用したのは「対口支援」だ。基本は自力更生で自ら計画を立てるが、被災地ではない省や市が特定の被災地を受けもち、人的・資金的・物的支援を行った。「対口」とはペアを組む、という意味だ。この方法で、中国では小さな農村も見捨てないキメ細かい支援を行い、めざましい復興を実現した。
 重要なことは、単なる復旧ではなく、中国が直面している大問題(都市と農村の格差)の解決に取り組んだことだ。被災地の農村では近代化がほかの地域に先駆けて一気に進み、モデルケースとなった。

(3)国がなすべきこと
 このたび、関西広域連合は自主的にペアリング支援を進めている。国が音頭をとり、被災地全体にペアリング支援を導入すべきだ。
 すでに地域によって格差ができつつある。資金や人材に差があるからだ。特にリーダーのいる所といない所との違いは大きい。格差が広がらないうちに、ペアリング支援のための法の枠組みや制度を整備する必要がある。国が自治体に、長期支援のために派遣する者の身分を保証するのだ。
 政府の支援は、今のところ物資の供給や医療などの短期支援にとどまっている。これと、復興へ向けた長期支援とを区別しなければならない(自力更生が基本で、ペアリング支援は3年くらいがめど)。
 国が法や制度を整備し、自治体同士のペアリングを行い、現地で取り組むテーマについて(例>農業や水産業の復興、空港の再建などの分野別に)タスクフォースを作るのが復興には有効だ。民間企業、NPO、ボランティア、国際社会などがこれに参加できる。今はチャンネルがないので、こうした人々や組織がらち外に置かれ、善意を生かせていない。

(4)自治体ができること
 10人でやっている仕事を9人にして1人を被災地に派遣する。派遣した側の自治体も防災能力を高められる。逆に自分たちが被災した場合、援助を受けることが可能になる。
 日本ではどこの自治体も財政状態が厳しい。資金面まで支援できない。が、支援する人材と組織を作れば、そこが動いて民間から資金を導入することもできる。
 地元に張り付いてチャンネルを作らないと、具体的に物事は動かない。

(4)東京大学と岩沼市のペアリング
 4月から始め、復興計画を作っている。自分の町の復興は、自分たちが決め、立ち上げる、という志が大事だ(「地域主権」)。日本の民主主義の真価が問われている。モノだけでなく、将来の夢や暮らしの場の再生につながる支援も重要だ。
 (a)集落全体で安全な所へ移住したい、というのが被災者全員の意向だ。だから、それがまず前提となる。
 (b)土地の履歴を基本に考える。住宅は内陸部に移し、今回の震災で生じた瓦礫を使って沿岸から1kmの間に丘を複数造り、森にしていく。多重構造の丘で津波の勢いを削ぎ、住宅地まで及ばないようにする。丘を造れば、景観も美しく、防災にもなる。渡り鳥、絶滅危惧種の生物といった生物多様性を維持する森にもなる。津波に対抗できる高さの人工地盤を造るのは、時間とお金がかかりすぎる。景観も美しくない。現実を厳しく認識した責任のある提案が必要だ。
 (c)リアリティがあり、かつ、夢と希望のある計画を作ることが必要だ。岩沼市の農業支援の一環で、塩を被った土地で育てると甘みが出るトマトを栽培する計画を進めている。塩害を逆手にとった。大阪・住吉のロータリークラブが援助する。
 (d)瓦礫で山を造る試みには、ネーミングライツで資金を導入する。

 以上、記事「3年間のペアリング支援で地域主権の復興が可能に ~日本激震!私の提言 第8回 石川幹子~」(「週刊東洋経済」2011年6月4日号)
 石川幹子は、ランドスケープアーキテクト、農学博士、技術士(都市及び地方都市)。東京大学大学院教授。岩沼市の復興会議議長。宮城県復興会議にも参加している。
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