語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】宗教と外交との関係 ~組織神学と民族問題~

2016年03月07日 | ●佐藤優
 (1)佐藤優の母は、14歳で沖縄戦を体験後、コザ(現沖縄市)の看護学校に通学中、プロテスタント教会の牧師から洗礼を受けた。保健婦(現保健師)となり、生涯独身のまま沖縄の離島の衛生状態改善する、と誓ったらしい。大岡昇平と同じく(とは佐藤は書いてないが)、戦争から生還したことに負い目を感じていたのだ。彼女は、自分が受洗したことを長らく口にしなかった。
 佐藤は、小学校高学年から、毎日曜日、日本キリスト教会大宮東伝道教会に通った。長老派(カルヴァン派)の教会だった。中学2年生のとき、ルカ伝を英語で読んだ・・・・歯が立たなかった。
 高校2年生の秋から教会に通わなくなった。理由の第一、牧師が病没した。後に思えば、この牧師から多くを学んだ。佐藤の発想の根本には、カルヴァン派の「鋳型が明らかに存在している」。第二、この頃、マルクス主義に惹かれた。細かい事情は、『私のマルクス』(文春文庫、2010)に記してある。
 大学で無神論を勉強するべく、自分の内なるキリスト教的残滓を克服するべく、同志社大学神学部へ進んだ。

 (2)入学して半年後、フォイエルバッハやマルクスが批判する神は、キリスト教の神ではなく、人間の願望を投影したもの、キリスト教が排斥する偶像であることに気づいた。より徹底的に宗教を批判したカール・バルトを知った。「人間が神について語ることではなく、神が人間について語ることに耳を傾けるのだ」というバルトの言葉が腹に入った。大学1回生のクリスマスに受洗した。
 最初の神学概論で、引用付聖書を勧められた。聖書を立体的に読むことができるようになった。
 神学生と勉強会をつくり、コイネー・ギリシア語で新約聖書を読んだ。
 3回生からドイツ語を学んだ。チューリッヒ聖書を通読しておけば、大学院試験には確実に合格する。
 神学部で外国語学習の厳しい訓練を受けたことが、外交官になってからも役立った。

 (3)プロテスタント神学には、聖書神学、歴史神学、組織神学、実践神学の4分野がある。聖書神学は、旧約聖書神学と新約聖書神学に分かれる。
 神学者としては同じでも、専攻によって聖書の読み方が異なる。新約聖書神学専攻の神学生は、コイネー・ギリシア語を徹底的に勉強するとともに、徹底的なテキスト・クリティークをしながら聖書を読んでいく。新約聖書を古典のテキストとして読み解く。旧約聖書神学でも基本的アプローチは同じだ。
 組織神学は、体系的神学と称したほうがわかりやすい。平たくいえば護教学である。たとえば、他の宗教や哲学との関係で、キリスト教が正しいことを「証明」する(弁証学)。他方、キリスト教の内部において、自分の教派の解釈が他教派のそれより正しいことを「証明」したりもする(論争学)。異端審問は、論争学に含まれる。ここでいう「証明」は、理性に基づいて結論を導くという普通の証明とは異なる。初めから結論が決まっているのだ。その結論に向けて、合理的な論理のみならず、詭弁、感情的な揺さぶり、威圧、ときには物理的強制力を用いて強引に話を進める。
 佐藤は、組織神学を専攻した。上記のような「証明」の訓練を積んだことは、外交官になってからとても役立った。
 組織神学は、教義学と倫理学に分かれる。教義学の指導教授緒方純雄教授は、教義学という呼び名を嫌っていつも強調していた。・・・・カソリック教会には、教会が認定した教義がある。これに対し、プロテスタンティズムには教義はない。絶対に自分の考え方が正しい、と言ってはいけない。ドイツ語のドグマ(教義)は単数形だが、これを複数形にしたドクメン(教理)という考え方に立つのがプロテスタンティズムだ。
 外交官としてモスクワに勤務し、民族問題を担当した。緒方教授が強調した意味がよくわかった。複数の「絶対に正しい」物事が並存していく知恵が、あえて複数形を用いる教理というアプローチにあるのだ。
 また、緒方教授はシュライエルマッハーを引き、もっとゆったりとした聖書の読み方、直感と感情による読みを指導してくれた。その本当の意味がわかったのは、外交官として数年の実務経験を積んだ頃だ。仕事上悩んでいるときに「直感と感情」で聖書を読むと、問題解決に向けたヒントが得られた。

 (4)外交官になって最初に赴任した英国で、1年2か月の間に、英語、独語、希語、羅語、露語、チェコ語の神学書、哲学書約2千冊を買いあさった。
 外交官時代にはゆっくり読み解く暇はなかった。それでも、モスクワ大学哲学部でプロテスタント神学を講義したときには、これらの本を活用した。
 職業作家になってからも、これらの本が役立っている。

□佐藤優「わたしは如何にしてキリスト教徒となったか --私の聖書論Ⅱ」(共同訳聖書実効委員会・訳(佐藤優・解説)『新約聖書Ⅱ』、文春新書、2010)
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【心理】聞き違いの防止法 ~数・アルファベット~

2016年03月07日 | 心理
 騒音の中では聞き違いしやすい。戦場では、聞き違いは一人どころか一個小隊、一個中隊、一個大隊の破滅につながる。よって、次のような工夫が行われてきた。

 <数ニ関スル称呼ハ特ニ明瞭ニ発唱シ誤謬ヲ生ゼシメザルヲ要ス、之(コレ)ガ為方向及高低ノ諸分画、信管修正分画、信管分画ニシテ十以下ニ属スルモノ及十位数ニ続カザルモノハ一ツ、ニツ、三ツ、四(ヨン)、五ツ、六、七(ナナ)、八ツ、九(キュウ) 、十(トヲ)、三百零五ツ等ト唱ヘ其ノ他ハ総(スベ) テ、一、ニ、三、四(ヨン)、五、六、七(ナナ)、八、九(キュウ) 、十(トヲ)、ニ十、百、千、ニ千、三千零五十、一万一千百等ト唱フルモノトス>

□大西巨人『神聖喜劇 第1巻』(光文社、1978)に引用された旧陸軍の『砲兵操典』総則第19の2

   *

 <なお、この機会に説明しておくと、米軍の中隊はABCによって順序づけられ、Able、Baker、Charlie、Dog など、そのイニシャルを付けた呼び易い名称を無電呼び出し符号としている。第一大隊ABCD、第二大隊EFGH、第三大隊IKLM(Jは抜けている。Gと発音が混同するおそれがあるからであろう)。歩兵部隊は各大隊とも三個中隊で、最終符号中隊は重機中隊、迫撃砲隊、火炎放射器班など特殊部隊となるようである>

□大岡昇平『レイテ戦記』(『大岡昇平集 第9巻』、岩波書店、1983)
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【保健】目のためのサプリが肝臓に有害 ~ファンケル「えんきん」など~

2016年03月07日 | 医療・保健・福祉・介護
  (a)ファンケル「えんきん」・・・・①4mg、2倍
  (b)伊藤園「ブルーベリー&アサイーMix」・・・・①4mg、2倍
  (c)大塚製薬「ネイチャーメイド アスタキサンチン」・・・・①10.8mg、5.4倍
  (d)富士化学工業「アスタリールi(アイ)」・・・・①6mg、3倍
  (e)富士化学工業「アスタアイケア」・・・・①6mg、3倍
   【注】①:1日あたりのアスタキサンチン摂取量、②欧州のADIの何倍か?

 (1)「臨床試験済み」というCMで有名な(a)。手元のピント調節を助ける、という目の効果をうたったサプリだ。年間売り上げ見込み30億円超と言われているヒット商品だ。
 しかし、その安全に十代な問題が浮上してきた。

 (2)有効成分の一つ「アスタキサンチン」の含有量が、欧州食品安全機関(EFSA)が定める安全基準の2倍も含まれているからだ。当然、欧州では販売が許可されない。
 アスタキサンチンとは、エビやカニの甲羅などに含まれている赤色の天然色素。洋食のサケやマスの身をより赤くするための飼料添加物として使われてきた。
 他方、強い抗酸化作用があるとして、近年、健康食品の機能性成分としても利用されている。
 食経験はあるといえるが、サプリメントのように大量に摂取した場合の安全性は確立されていない。

 (3)欧州のEFSA評価は、飼料添加物としてのアスタキサンチンに関するものだ。ラットに1~2年間餌に混ぜて与えた試験で、有害影響(肝臓肥大)が見られた量をもとに、ヒトにおける1日許容量(ADI)を定めた。
 その量は、1日体重1kgあたり0.034mgで、体重60kgの大人の場合2mgに相当する。
 「えんきん」に含まれるアスタキサンチンは4mgだ。EFSAのADIの2倍にもなる。
 「えんきん」は欧州では販売されていないが、アスタキサンチンの素材メーカー(富士化学工業)が欧州向けに「えんきん」と同程度の量の健康食品に係る許可を求めたが、却下された。

 (4)メーカーは安全性をどう考えているのか?
 植田武智・科学ジャーナリストがファンケルに問い合わせたところ、林さん(サプリメント相談室は)が次のように回答した。
 <日本の食品安全委員会の飼料添加物としての評価では、摂取基準は不要と評価されている点、また「えんきん」に含まれる量の7.5倍にもあたる30mgを4週間摂取したヒトでの臨床試験で異常はみられなかったので安全です>
 しかし、食品安全委員会評価書では、1年以上の長期毒性試験は評価されていない。また、ファンケルが実施したというヒトでの臨床試験は4週間と短く、それ以上飲み続けた場合の安全性の証拠とはならない。
 その点を指摘しても、
 <欧州の評価を否定するつもりはありませんが、それぞれの国の基準に従うということになるのでは>
と言うだけだ。
 欧州と日本で人種差があると証明しない限り、日本人でも安全であるとは言えないだろう。メーカーは、安全への疑義が問われた以上、独自に長期毒性試験を行って、安全性を再確認すべきだ。試験中は販売中止すべきだ。

 (5)(a)以外にも、アスタキサンチンを含む機能性表示食品は4種類ある。(b)、(c)、(d)、(e)だ。
 機能性表示食品以外にも、DHCや小林製薬などのアスタキサンチン・サプリもある。
 いずれも欧州の基準の2~6倍のアスタキサンチンを含んでいるので、安全とはいえない。
 日本人間ドック学会の報告書では、人間ドックで発見された生活習慣病の中で肝機能異常が最も多く、かつ、近年増加傾向にある。
 健康によかれと思って摂取している健康食品で健康を害している可能性が高い。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「ファンケル「えんきん」など人気の目のサプリ、EUでは肝臓に有害の恐れで禁止」(「週刊金曜日」2016年2月26日号)
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