語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】メニュー偽装問題で急展開 ~景品表示法改正の危うさ~

2014年01月11日 | 社会
 (1)2013年12月19日、昨秋から全国を震駭させ続けてきた「メニュー偽装」に、初めて行政措置がくだった。
 消費者庁は、近畿日本鉄道、阪急阪神ホテルズ、阪神ホテルシステムズの3社が運営するホテル・旅館などのレストランにおけるメニュー等の表示25点が、景品表示法の優良誤認にあたるとして措置命令を行った。

 (2)国が24万事業者を対象に行った緊急調査では、307事業者に違反が発覚。多くが外食、百貨店、ホテル・旅館だった。違反件数では、日本ホテル協会会員ホテルの34%、日本百貨店協会の会員社中65.9%にも上った。
 阪急阪神ホテルズと近鉄旅館システムズで社長が引責辞任。各社の返金は数億円に及んだ。

 (3)行政措置に続き、消費者庁は、メニュー表示に対する景品表示法のガイドラインを1月中に策定する。
 さらに次期通常国会には、罰則強化や調査・措置命令の権限を拡大することなどを核とする景品表示法改正法案を提出する予定だ。

 (4)食品表示偽装は、これまでもたびたび社会問題になってきた。
   雪印食品の牛肉産地偽装事件(2002年)
   ミートホープ事件(2007年)
   ウナギ産地偽装事件(20082年)
 これらで問われたのは、食品表示法違反だった。
 今回の一連の事件は違う。景品表示法違反を問われている。

 (5)食品表示法と景品表示法は、しばしば混同されがちだが、法律の建て付けと対象は大きく異なる。
  (a)2013年6月に成立し、2015年に施行する改正食品表示法は、現行のJAS法、食品衛生法、健康増進法の表示関連項目を統合した法律だ。対象は、食品メーカー、生産者、流通業者など。原産地、内容、添加物など食品に表示しなければならない項目および表示文言を規定する。
  (b)景品表示法は、「不当な顧客誘引を広く取り締まる」のが目的だ。対象は、不動産、電気製品、金融商品、食品など消費者に商品、サービスを提供するあらゆる事業者が含まれる。優良誤認(商品が実際よりも著しくよい品質だと思わせること)、有利誤認(取引条件が実際よりも著しく有利だと思わせること)などの考え方に基づき、抵触するものを取り締まる。だが、(a)のようには細かく表示方法を法律で規定しない。 

 (6)今回の一連の偽装の対象となった「外食のメニュー」は、食品表示法で表示を義務づけられたものではなく、事業者の自由意思で行っている表示であり、位置づけとしては「広告・宣伝」に近い。
 そもそも外食業界や百貨店のデパ地下などのような対面式販売による業界は食品表示法の範疇外だ。
 ために、現行法では景品表示法で取り締まるほか対処方法がない。今回の一連のメニュー偽装への対応も景品表示法で行われている。
 しかし、景品表示法では「不当な顧客誘引を禁じる」以外に、具体的にどのような表現がアウトなのかは明記されていない。ために、過去の措置命令の事例から「読み解く」ことが必要になる。事実今回、肉や海老などの表示に係る判断基準とされたのは、消費者庁のウェブサイトの奥深くに記載されていたQ&Aだった。
 無数に報告された「偽装」の中には、産地やブランド産品の偽装、おとり広告など申し開きできない明かな偽装があった。しかし、他方、「消費者の常識的な認識」をはっきり明示できない景品表示法と、その周知体制の不十分さで結果的に「偽装」となってしまったものも相当するあると推定される。

 (7)すでに改正が決まっている食品表示法に続いて、次期通常国会で景品表示法も改正される予定だ。次の事項が検討されている。
  (a)直罰である課徴金制度を設けるなど厳罰化。
  (b)これまで国だけだった措置命令を都道府県など自治体が行えるようにする。
  (c)メニューを含む食品表示に対し、消費者庁が選定した一般消費者のモニターが身の回りの事例を通報する制度の新設。
  (d)企業内での表示責任者の設置の義務づけ。
  (e)現在JAS法違反の調査を行う食品Gメンを、外食・中食のメニュー表示にも活用する。
 さらに、消費者庁は、法律に明記されない景品表示法の判断のよりどころを明文化する方向に動いていて、(1)の措置命令と同時に、ガイドライン案を発表した。これまでグレーと捉えられてきた事業を軒並み黒とする判断、外食業界においてその是非が長らく議論の対象となっていたアレルギー表示を「行うことが好ましい」、など。

 (8)だが、信頼をほんとうに回復させるには、国からの一方的な押しつけを待つのみならず、対象業界から自主的な説明、業界の表示ルールの策定、それを消費者にきちんと説明するなど、能動的なアクションが必要ではないか。
 さもなければ実態とかけ離れたルールが、いつのまにかできあがってしまうおそれが、なくはない。

□鈴木洋子(本誌)「メニュー偽装問題で急展開 景表法改正の中身と危うさ」(「週刊ダイヤモンド」2014年1月11日号)
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 【参考】
食】返金する企業 ~食材偽装~
【食】偽装表示と景品表示法違反 ~問題の本質が隠蔽~
【食】食材偽装の真の原因 ~円安政策の犠牲者~
【食】消費者へお詫びしない体質 ~多発する食品偽装事件~
【食】偽装の背景 ~消費増税により偽装が拡大~