語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】原発の利権構造 ~警視庁情報官~

2012年11月03日 | 震災・原発事故
 (1)かつて「情報小説」という分野があった。スパイ小説とほぼ同義語で、日本では三好徹の風の三部作(『風に消えたスパイ』『風塵地帯』『風葬戦線』)あたりがそのはしりかもしれない。三好は、巻き込まれ型スパイ小説の佳作を世に矢継ぎばやに送り出した。
 情報小説は、今ふうに言えばインテリジェンス小説だろう。手嶋龍一の『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・ダラー』がその代表だ。

 (2)警察におけるインテリジェンスを描いたのが、濱嘉之だ。警視庁情報官シリーズは現在までに4冊刊行されている。  
  (a)『警視庁情報官』(講談社、2007。後に『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』、講談社文庫、2010)
  (b)『公安特命捜査 警視庁情報官3』(講談社、2009。後に『警視庁情報官 ハニートラップ』、講談社文庫、2011)
  (c)『警視庁情報官 トリックスター』(講談社文庫、2011)
  (d)『警視庁情報官 ブラックドナー』(講談社文庫、2012)
 著者は、1957年、福岡県生。中央大学法学部法律学科卒業後、警視庁巡査拝命。警備部警備第一課、公安部公安総務課、警察庁警備局警備企画課、内閣官房内閣情報調査室、再び公安部公安総務課を経て、生活安全部少年事件課に勤務。2004年、警視庁警視で辞職。2007年、『警視庁情報官』(講談社)で作家デビュー。現在、危機管理コンサルティング会社代表なども務めるかたわら、TV、雑誌などでコメンテーターとしても活動している【注1】。
 ストーリー展開はやや平板、しかも何か自慢話のようで少々退屈だが、著者の経歴からして、警察機構の実態が(公表可能な範囲で)詳しく描かれ、これが興味深い。
 例えば、<警視庁公安部長が管轄するのは、警察組織上からは東京都内だけのはずだが、実質、国内外すべての公安情報データは警察庁ではなく、警視庁内にデータとして残るという歪んだ組織実態となっている。したがって、全国の子運情報は警察庁を経由しても、最終的には警視庁公安部のデータファイルに蓄積され、そして再分析されるのだ。さらに、このデータファイルは公安上のプロファイリングができる形となっており、例えばある人物を検索するとその関連事件、関連者などがリンクする。これに所属するセクトごとの対立や友誼状況も加えられており、公安対象者の相関図がたちどころにできあがる仕組みだ>。
 一口に警視といっても、下から所属の課長、本部管理官、警察署副署長、本部理事官、警察署長、本部課長の6段階にランク分けされる、といった事実もさりげなく挿入されている。
 あるいは、新宿署の署員は600人以上で、これは鳥取県警の全職員数より多い、とか。

 (3)ところで、(2)-(a)の第4章「日本の闇に挑む」では、「東日本電力」が登場する。
 本章では、福島第一原発事故後に天下周知のものとなった電力会社と政治家・官僚との癒着がかなり克明に記されている。例えば、企業の出世コースにのっているトップ社員が修行のため与党民政党(注:本書は政権交代の前に公刊された)の「総合政策研究会」に送り込まれ、いずれ社長室長や広報室長に栄転する、といった仕組みだ。
 そのトップ社員である「村上」は、「東日本電力」総務部原子力発電所立地担当の副長をしていたとき、本社に押しかけた暴力団にカネを直接渡してしまった。
 「村上」は、主人公「黒田純一」警視に協力者としてスカウトされる。「黒田」は、内部告発文書を契機に、「東日本電力」を内偵中だった。
 といったような段取りがあって、「2005年に東北地方の某県に完成したプルサーマル計画対応の改良型沸騰軽水炉」【注2】をめぐる疑惑が捜査され、最終的には摘発される。
  (a)「大谷隆司」・内閣府特命担当大臣(当選8期目)・・・・(b)を通じてあらかじめ(c)に知らせ、地上げを行い、さらに地元業者への一部工事丸投げや裏談合を仕組み、莫大な利益を得た。(d)に献金。原発建設用地近くの港湾を国のカネを使って改良。選挙時には、必ず電力会社の総務から複数の常駐選対支援が入る。パーティ券も100枚単位で電力会社が買い上げる。都内で開くパーティには、ゼネコンやエネルギー関連各社を中心に2,000人は動員をかけ、全国どこで会合を開いても最低500人は瞬時に集めることができる。後援会は、地元の中堅ゼネコンや中小企業がサポートする。(d)の反共連盟の特別顧問。
  (b)大手ゼネコン「風間建設」・・・・不正土地取引。1995年に原発建設の情報を得た「風間建設」がさっそく候補地の地権者を脅しつすかしつ用地買収し、巨額の利益を得た。
  (c)暴力団「菱和会」・・・・移転補償金の騙取。また、港湾施設に影響力発揮し、北朝鮮やロシアン・マフィアから密輸された覚醒剤や麻薬の受け皿となる。
  (d)宗教団体「世界平和教」・・・・反共連盟。(a)の選挙における集票組織。

 ・・・・と一部を拾いだしてみたが、以下は本書に委ねよう。
 原発は、まことに利権の巣窟だ。99%が反対を叫んでも、1%は「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムのように、しぶとく利権にしがみつく。是非はさておき、上記のような利権のチェーンを見れば、当然といえば当然だ。
 (2)-(a)はフィクションだが、フィクションでしか語られない真実もある。原発建設をめぐる利権構造を知るに手ごろな参考書になると思う。 

 【注1】新潮社
 【注2】むろん、フィクションである。東北電力の、2005年に運転開始した東通原発1号機は沸騰水型軽水炉だし、改良型沸騰水型軽水炉の2号機は計画にとどまっている。同じく東北電力の女川原発1~3号機はいずれも沸騰水型軽水炉で2002年以前に稼働している。東京電力の、福島第一原発1~6号機はいずれも沸騰水型軽水炉で1979年以前に稼働しているし、改良型沸騰水型軽水炉の7~8号機は計画にとどまっている。福島第二原発1~4号機はいずれも沸騰水型軽水炉で1987年以前に稼働している。日本原子力発電の東海第二発電所1号機は、沸騰水型軽水炉で1978年に稼働している。

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