語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>政府と行政の情報隠しが生んだ「風評被害」

2011年06月03日 | 震災・原発事故
 東日本大震災以後発生した「風評被害」という事態には、少なくとも4種類ある。
 (1)国内における農産物や水産物の買い控え。
 (2)海外での日本製品に対する過剰な輸入規制。
 (3)国内および海外からの旅行客の減少。
 (4)福島県からの避難者が宿泊を拒否されるなどの、人に対する差別。
 これらをいっしょにするのは、ちょっと乱暴だ。

 (4)は、「謝った認識にもとづく明らかな人権侵害」だ。基本的人権の尊重をうたった憲法にも違反する。人間は野菜じゃない。
 (3)は、逆の立場だったらどうだろう。米中枢同時テロの直後には米国旅行を、新型肺炎(SARS)が流行した際には中国旅行を、私たちは控えたはずだ。「危なそうな国には行きたくないじゃん」と考えたのではないか。
 (2)についても同様だ。米国で牛海綿状脳症(BSE)の牛が発見されたとき、日本は米国産牛肉の輸入を禁止し、米国に全頭検査と同等の対策を求め続けた。中国産のウナギから合成抗菌剤が検出されたときも、中国製の冷凍ギョーザで中毒者が出たときも、販売中止によってスーパーから中国製の食品が消えた。これらも身勝手な「風評加害」だったのか。
 (2)と(3)については、原発事故が一段落するまである程度は仕方ない、と考えたほうが、むしろ前向きな対策が立てやすい。

 問題は(1)だ。
 風評という言葉は、責任があたかも消費者にあるかのような錯覚を起こさせる。でも、それはとんだ濡れ衣だ。東京電力と国の責任を消費者に押しつける責任転嫁に近い。
 「放射能汚染の実態が明らかになるまで原発に近い地域の農産物は控えたい」と考える人がいて不思議はない。
 人々が「風評」で動くようになった最大の責任は、情報を迅速に開示せず、「直ちに健康に影響はありません」とだけ連呼し続けた政府と行政機関にある【注】。
 それ以上に問題なのは、「風評被害」が情報の隠蔽を正当化する方便に使われていることだろう。風評を避ける、という名目で、詳細な放射線量のデータを公表しなかった政府。荒茶の検査を拒否した自治体。
 健康に害がないのにいちいち騒ぐな、という人は「食の安全・安心」を見くびっている。
 賞味期限を1時間過ぎた弁当を食べても、たぶん健康に影響はないだろう。それでも、私たちの文化は食に厳格な規制と細心の注意を求め、それが生産者と消費者の信頼関係をつくってきた。

 消費者の加害扱いをやめること。風評ではなく、せめて二次被害、三次被害のようなフラットな表現を使うこと。
 政府が信用できない以上、疑心暗鬼を払拭するためにも、生産者と消費者が信頼関係を取りもどすことが必要ではないか。
 両者はともに原発事故の被害者なのだし、そして当分、事故が収束する見こみはないのだから。

 以上、斎藤美奈子「生産者と消費者が信頼を ともに原発事故の被害者」(2011年月日付け日本海新聞)に拠る。

 【注】アイシェア(東京都渋谷区)のアンケート調査によれば、原発事故に関する政府の情報発表は、7割以上の人が「信用できない」と感じている。「すべて信用できる」と答えたのは全体のわずか1%。「信用できるものが多い」と答えた人も25.1%にとどまる。そして、「信用できないものが多い」が61.5%、「すべて信用できない」が12.4%だ。(小川 たまか([編集・ライター/プレスラボ取締役)「パニックを恐れた原発・政府発表の誤算? 国民7割以上が政府の原発関連情報「信用できない ~ザ・世論 日本人の気持ち 【第28回】 2011年5月31日、DIAMOND online)
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【震災】原発>人食いバクテリア ~「放射性ヘドロ」~

2011年06月03日 | 震災・原発事故
 被災地の沿岸部には大量のヘドロが海底から打ち上げられた。
 岩手県や宮城県では順次撤去作業が進んでいるが、福島県だけはほとんど手つかずの状態が続いている。推計500万トン。通常ならば単なる土砂にすぎない。しかし、福島第一原発の放射能に汚染されている可能性が高い、と環境省は埋め立てなどで処分することを認めていない。
 福島県相馬市の場合、60万トンのヘドロが打ち上げられている。農地もヘドロ化し、両者を合わせてヘドロの総量は250万トンに達する。

 津波がもたらすヘドロは、感染症流行の要因だ。 
 もっとも注意すべき感染症は、破傷風だ。復興作業中に釘などの深い刺し傷を放置すると、感染リスクが格段に上がる。事実、国立感染症研究所感染症情報センターには、すでに岩手、宮城両県で計9件の感染例が報告されている。

 もっと恐ろしい感染症リスクもある。
 ビブリオ・バルニフィカス菌による感染症だ。破傷風のような土壌由来ではなく、海水由来の感染症だ。病原菌は、エビなどの海産物の中や、淡水と海水が混ざるところに常住している。感染し、発症した場合、肝疾患を持つ人は重症化し、致死率は70~80%に達する。数時間で手足が壊死し、死に至ることもあるので「人食いバクテリア」とも呼ばれる。早期診断が肝要だ。

 ビブリオ・バルニフィカス菌は、梅雨以降、いっそう怖くなる。
 塩分濃度が海水(3.5%)よりはるかに高い8%でも繁殖する。逆に1%ほどしかなくても平気なのだ。梅雨の時期には、雨でヘドロの塩分濃度が下がっても繁殖するし、夏に塩分が濃縮されると、ますます活性化する。
 ヘドロを放置しておくと、リスクが高まる。

 政府は、まだ何の方針も打ち出していない。

 以上、岩田智博(編集部)「『放射性ヘドロ』が増殖 人食いバクテリアの恐怖」(「AERA」2011年6月6日号)に拠る。
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