語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>強弁と楽観で作りあげた「原発安価神話」のウソ

2011年06月28日 | 震災・原発事故
 原子力の発電コストは、3つの要素で成り立つ。
 (a)燃料費や人件費など電気を作る上でかかる「発電費用」。
 (b)発電に伴って出る使用済み燃料を再加工したり廃棄物を処理する費用(「バックエンド費用」)。
 (c)「立地費用」。
 驚くべきことに、国がいう原発の発電価格5円には、(a)と(b)の費用しか含めていない。しかも、不備がある。(a)から揚水発電のコストが外されている。そして、(b)が極めて過小評価されている。

(1)発電費用
 大島堅一・立命館大学国際関係学部教授は、電力各社の有価証券報告書をつぶさに検証し、本来要したはずの発電コストを試算した。
 原子力+揚水のコストは約9円(07年度)で、国の試算の約2倍だった。火力の約11円とほぼ同じだ。ちなみに、最も安いのは一般水力の約4円だ(国がいう12円は“ウソ”)。

(2)バックエンド費用
 国の試算は、(b)を極めて過小評価している。政府審議会に提出された政府資料(07年度)によると、約18.8兆円だ。これでも十分巨額だが、「東洋経済」誌が試算したところ、実にその4倍、70兆円規模に膨らむ可能性がある。政府と「東洋経済」誌の試算は、次の点で大きく異なる。
 (ア)使用済み燃料の再処理費用・・・・六ケ所村再処理工場の費用を政府は11兆円とはじいている。だが、43年までに発生すると見積もられている使用済み燃料約6.4万トンの半分しか処理する能力を持ち合わせていない。となると、コストは11兆円ではなく、その倍の22兆円(①)になるはずだ。
 しかも、リサイクル燃料(MOX燃料)を燃やして生じる使用済み燃料の処理費用が、政府試算からすっぽり抜け落ちている。ウラン燃料とMOX燃料をいっしょには再処理できない。MOX燃料の再処理には、六ケ所村再処理工場と同規模の工場を建てる必要があり、11兆円以上かかると推定される(②)。なお、再処理しないならしないで、MOX使用済み燃料の処分費用がいる。①+②=33兆円だ(③)。
 しかも、11兆円というのは、工場稼働率100%を前提としている(楽観的)。英仏の例を参考にして、多めに稼働率70%としても、③は47兆円に膨らむ(④)。

 (イ)高齢ベル放射性廃棄物・・・・政府は「固化体」1本のコストを3,530万円として、合計2兆円余りと試算している(極めて甘い)。
 大島教授が電気事業連合会の資料から検証したところ、当座の管理(中間貯蔵)の費用は1本あたり1億2,300万円程度に達する。政府試算の3.5倍だ。
 最終処分(地下300mより深い地層)においては、中間貯蔵と同じか、それ以上の費用を要するだろう。【大島教授】
 よって、全量再処理ベースで試算すると、(2.55兆円×2)×3.5≒17.8兆円となる(⑤)。政府試算の7倍だ。
 (b)は合計(④+⑤)は約74兆円だ(政府の試算は余りにも楽観的)。 

(3)立地費用
 原発を受け入れた地元自治体には多額の交付金や補助金が流れる。これも発電コストだ。
 大島教授の試算によると、1kW/時あたりの開発単価と立地単価の合計は、揚水を含む原子力が2.1円、火力と水力が各0.1円(70~07年度)だった。これを足した総コストは、揚水を含む原子力が12.23円、火力9.9円、水力3.98円となる。原発は、最も割高な発電だった。 

(4)その他
 使用済み燃料を再処理して得られるMOX燃料は9,000億円分に相当する。そのために、再処理に11兆円、MOX燃料加工に1.9兆円。カネをドブに捨てているようなものだ。
 事故処理、賠償、廃炉に関する費用は、ここでは取りあげていない。これらを追加すれば、原発の経済合理性を斟酌する余地は、もはや何処にもない。
 ちなみに、東京電力は70年から37年間に原子力事業から得た利益約4兆円を3・11に一瞬に失った。東電にとっても原発はペイしない事業となった。

 以上、記事「強弁と楽観で作りあげた『原発安価神話』のウソ」(「東洋経済」11年6月11日号)に拠る。
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