よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

原発事故と新生児、幼児への健康障害

2011年04月30日 | 健康医療サービスイノベーション

日本助産師会で過去、4回も講演させていただいており、また今年も講演の予定が入っていますが、新生児、幼児、母胎の健康にはことさら強い問題意識を持っています。

このところ、放射線物質、放射能と健康被害について内外の研究者と意見交換をしています。Fukushimaの件は、海外のhealth service, public health, disaster management分野でも俄然注目をされています。

国内の既存マスコミから流れてくる情報は、統制情報、作為的にマニュピレート(操作)された情報が幅を利かせています。原発事故の被害状況(原発の施設状況、大気、環境に放出されている放射性物質、健康被害など)は、政・産・学・官の利権構造に報(主流メディア)が組み込まれている構造から発せられているので、原発擁護派による暗黙的情報マニュピレーション(操作)やマヌーバ(工作)が織り込まれています。

もっともこれは昨今始まったものではなく、「原発・正力・CIA」(有馬哲夫 2008)で明らかにされているように、衆議院議員の正力松太郎、讀賣新聞、日本テレビ、CIAが原子力に好意的な新米世論を日本に形成、誘導した1950年代から延延と半世紀以上にも渡っているものです。

さて、小佐古敏荘東大教授が、内閣官房参与を務めた人が「子ども20ミリシーベルトは間違っている」と断言して辞任したことにより、本件を巡る事態は流動的になってきました。たぶんドタバタと政権交代を経て、規準が厳しくされることでしょう。しかし、タイミングが遅すぎました。

以前このブログの「放射線・放射能と人の行動」で書いたように、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム、SPEEDIのデータ公開のやり方がまったく間違っています。4/25から事故発生以降1カ月以上たって公開されはじめましたが、過去に予測されたデータを後になって公表するのはまったくもって本末転倒。予測データは「その時」に公開されなければまったく意味はありません。本件については政府・関連機関が情報を隠蔽、操作してきたと指弾されても弁解の余地はないでしょう。

放射線物質、放射能汚染は、大人より子供、そして子どもでも発達過程が若ければ若いほど微量でも長期的に影響することが疫学的研究により明らかになりつつあります。また、現在の乳幼児の女の子が将来、妊娠して出産する場合、新生児の健康に影響を及ぼすことも、チェルノブイリ、その他のケースの分析で明らかになりつつあります。

明らかになったのではなく、明らかになりつつある、と書かざるをいない理由は、(1)25年前に起きたチェルノブイリ原発事故でさえも、その長期的な影響は現在にいたるまで延々と継続している。(2)IAEA-WHOのライン(注1)以外の政治的な意図を持たない疫学的調査では、IAEA-WHOラインとは異なる健康被害(より深刻)の状況が報告されているからです。(参考サイトは以下)

ここでは、年齢範囲がひろい子どもではなく、新生児、幼児の健康被害に限定します。新生児、幼児の健康被害の実態は、「直ちに」現れるものではなく、長期的なタイムスパン(複数の次世代にまで)で現れるものです。

 (A)汚染状態、予測を知り得て退避行動をとった時の損害

 (B)汚染状態、予測を知り得えないで退避行動をとることができなかった時の損害

ここにおいて、(B)-(A)が問題となります。健康被害は損害賠償請求の対象となりますが、熊本・鹿児島・新潟の水俣病、富山県のイタイイタイ病などの経緯を見てわかるように因果関係の立証は容易ではありません。

今後必要なことは、まず正しい情報に接することによって自分とこどもの身を守ること。その上で学術コミュニティにも果たさなければいけない責任があります。たとえば、上記の利権構造とは分離された長期的な調査です。新生児、乳幼児に関しては以下のデータが重要になります。

(1)新生児の健康状態を出生前からモニタリングして経時的に追跡することの徹底。

(2)妊娠前後の時期から出生時まで母親と新生児はどこにいたのかに関する調査。

(3)母胎について推定被ばく量を統一的な手法(母乳や検体の放射線物質含有量など)で調査すること。

この種のサーベイは国とは明確に分離され、拮抗力を有する第三者機関が行う必要があります。できれば特定の利害に左右されない国際的な機関と提携してやるべきでしょう。早々に着手する必要があります。


           ◇   ◇   ◇


関連する参考サイト、ニュース、報告、意見などを貼っておきます。

(注1)Chernobyl: A Million Casualties

3.11の1週間前の3月5日に収録された毒物学者ジャネット・シェルマン博士へのインタビュー。このビデオの中には1959年にIAEAとWHOとの間で結ばれた協定についてのコメントが入っています。この協定は、二つの機関が互いに互いの承認無しには研究発表を行ってはならないことを取り決めたもの。残念ながらWHOは、原子力を推進するIAEAの同意なしには、例えばチェルノブイリ事故による人々の健康への影響に関する報告を行うことが出来ないという現状にあり、欧州ではこの協定の廃棄にむけた市民運動があります。

IPPNW「チェルノブイリ健康被害」新報告と、首相官邸資料「チェルノブイリ事故との比較」との驚くべき相違


IPPNW(核戦争防止国際医師会議-1985年ノーベル平和賞受賞)のドイツ支部がまとめたチェルノブイリ原発事故25年の研究調査報告が4月8日に発表されました。英語サイトはここです。 レポートのリンクはここです。論文の中でも特に重要である、5-11ページの「論文要旨」、「WHOとIAEAにより発表された公式データの信頼性欠如に関する注記事項」、「核戦争防止国際医師会議と放射線防護協会は要請する」の和訳をここに紹介します。チェルノブイリ事故25年、その人体と環境に対する夥しい被害の全容がこの研究により明らかになっています。そして、首相官邸のホームページで公開された、日本政府のチェルノブイリ事故への見解がこういった最新の見解と大きく相違することを指摘します。

WHO と IAEAにより発表された公式データの信頼性欠如に関する注記事項 (報告8ページ

国際原子力機関(IAEA)と世界保健機関(WHO)により2005年9月に組織された「国連チェルノブイリ・フォーラム」 において、発表されたチェルノブイリの影響に関する研究結果は、きわめて首尾一貫性の無いものだった。たとえば、WHO と IAEAの報道発表は、最も深刻な影響を受ける集団では、癌と白血病により今後最大4000人が死亡する可能性があるとしている。しかしながら、この論文の根拠としたWHO の報告では、実際の死者数を8,930としている。これら死者数はどの新聞記事にも取り上げられることはなかった。WHO 報告書の引用元を調べると、癌と白血病による死者数の増加として1万~2万5千人という数字に行き当たる。

 これが本当ならば、IAEAと WHOの公式声明はデータを改ざんしていると合理的に結論づけることができる。IAEAと WHOによるチェルノブイリの影響に関する説明は実際に起こっていることとはほとんど無関係である。


「子供の許容被ばく線量高すぎる」と疑問 (動画)
(04/27 テレ朝ニュース)

ノーベル賞も受賞した国際的な医師の団体がワシントンで会見し、文部科学省が子供の1年間の許容被ばく線量の目安を「20ミリシーベルト」に設定したことに反対の意思表示。

 アイラ・ヘルファンド医学博士:「衝撃的だったのは、日本政府が福島の子供たちの許容被ばく線量の基準を高く設定したことだ」

 ヘルファンド博士は、「子供の場合、がんになるリスクが成人よりも2倍から3倍高くなる」と指摘して、許容される被ばく線量の基準を引き下げるよう要求。アメリカでは、原子力関連施設で働く人の1年間の許容量の平均的な上限が年間20ミリシーベルトとされています。

福島第1原発:放射性物質放出 毎日154テラベクレル (4/25 毎日新聞)

 国際評価でレベル7という最悪の原発事故が、四半世紀を経て東京電力福島第1原発でも発生した。

 「予断を許さないという点で、チェルノブイリより深刻だ」と笠井篤・元日本原子力研究所室長は指摘する。

 チェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質は520万テラベクレル(テラは1兆倍)と推定されている。爆発で一気に放出された分、発生から約10日間でほぼ止まった。これに対し、福島第1原発事故では37万~63万テラベクレルとチェルノブイリ原発事故の約1割で、経済産業省原子力安全・保安院は「大半は原子炉内に閉じ込められている」としている。しかし、内閣府原子力安全委員会によると、事故から約1カ月後の今月5日時点で1日当たり154テラベクレルが放出されている。今も本来の冷却システムが復旧しておらず、余震による影響や水素爆発が懸念され、新たな大量放出も起こりかねない。

 事故処理にも違いがある。チェルノブイリ原発はコンクリートで建屋を覆う「石棺」で放射性物質の拡散を防いだが、福島第1原発は1、3号機で格納容器全体を水で満たす「水棺」の検討が進む。東電は、原子炉の安全な状態である「冷温停止状態」まで最短6~9カ月かかるとしているが、見通しは立っていない。

 福島第1原発では、がん発症率が0.5%増えるとされる100ミリシーベルトを上回る放射線を浴びた作業員は23日現在、30人に上る。被害の実態はまだ把握できないが、松本義久・東京工業大准教授(放射線生物学)は「チェルノブイリ原発事故では各国の研究機関が綿密な健康調査をした。日本政府は、住民や作業員の心身両面の健康状態を追跡する態勢を早急に確立すべきだ」と訴える。【中西拓司】

ドイツ連邦政府が行なった調査によると、1980年かから2003年の23年間に、5歳以下で小児ガンと小児白血病を発症した子どもについて、ドイツ国内の22基の原発を含む16の原発の立地点から子供たちの居住地までの距離と発症の相関関係が調査された。

約6300人の子どもたちのデーターから得られた結果は、原発から5km以内に住む子どもが小児ガン・小児白血病ともに他の地域と比べて高い発病率を示していた。小児がんで1.61倍、小児白血病で2.19倍という有意な結果で、統計的に高い発症率であることが明らかになった。>

「原子炉閉鎖で乳児死亡率激減」 最大で54.1%マイナス 米研究機関が発表
(2000年4月27日東京新聞より)

 【ワシントン26日大軒護】放射線の健康に与える影響を調査している米研究機関は26日、原子炉の閉鎖により周辺に住む乳児の死亡率が激減したとの調査結果を発表した。


 調査は免疫学や環境問題などを専門とする医師、大学教授などで組織する「レイディエイション・パブリック・ヘルス・プロジェクト」(RPHP)が、1987年から97年までに原子炉を閉鎖した全米7ヶ所の原子力発電所を対象に、半径80キロ以内の居住の生後1歳までの乳児死亡率を調べた。


 調査は、原子炉閉鎖前の死亡率と、閉鎖2年後の死亡率を比較しているが、それによると、87年に閉鎖したワイオミング州のラクロッセ発電所では、15.3%の死亡率減少だった。もっとも減少率の大きかったのが、97年に閉鎖したミシガン州ビッグロック・ポイント発電所周辺で54.1%の減少だった。減少は、がん、白血病、異常出産など、放射線被害とみられる原因が取り除かれたことによるものとしている。

『規制値の再整理』 中部大学武田邦彦教授のブログ



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