よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

梅棹忠夫 『文明の生態史観』のWorld View

2009年07月15日 | No Book, No Life


高校生のころ大江健三郎に飽きた時に、この本に遭遇した運のつきだった。当時、世界史の教師は自称マルクス主義者で、講義には教科書はまったく使わず、ひたすらエンゲルスやマルクスの話をしてそれを生徒に書きとらせるというものだった。

まあ、それはそれで唯物史観に触れることは面白かったのだが、梅棹忠夫 『文明の生態史観』を一読して一気に探検や放浪癖に火がついてしまったのだ。梅棹忠夫は、京都大学在学中に今西錦司が牽引した中国北部、大興安嶺探検など数々の探検に参加した。

自分の足腰を使って現地を体験して、徹底的に観察をして自分ならではの世界観を創ってゆく。こんな面白い生き方はない!

高校(旧軍系といいながらやたら日教組教師が多かった)を抜け出して大学に入ってからは自転車でインドとネパールを走り、その紀行文でライターデビューしたのは、実は、『文明の生態史観』の影響をまともに食らったから。

ちなみに、一緒にインドネパールを自転車で走り抜けた悪友が、抜群の記憶(録)力を発揮して当時の手記=「インドを走る!」を残している。

さて梅棹モデルでは、世界を大胆に模式化する。つまり、モンゴル高原からアラビア半島までななめに走る乾燥地帯の両どなりに、I. 中国、II.インド、III. ロシア、IV. 地中海=イスラム世界があって、さらに中心から遠ざかった辺縁の地に西ヨーロッパと日本がある。この辺縁の地だったところが中心部から文明を導入し、高度の資本主義まで築いたというのが梅棹の「文明の生態史観」であり。以下のような理論が展開される。

・東洋でも西洋でもない「中洋」(ミャンマー以西、アラビア半島以東)の発見
・日本と西洋の並行進化論
・日本の脱中国と西洋の脱イスラームは並行現象
・漁撈革命、牧畜革命、農業革命
・比較宗教学との接続

西洋に対するやるせない消化不良感に苛まれ、劣等複合がそこらじゅうに転がっていた当時の状況のなかで、たしかにこの本は、さっぱりと日本と西洋を対置させた。そしてアメリカは西洋の亜種ということで、上の図では西洋に含まれてしまってどこにも形をとどめていない。

案外、こういうところが読書人にウケたのではないだろうか。

久しぶりに通読してみて、古さは微塵も感じられない。逆に、I. 中国、II.インド、III. ロシアの経済的なテークオフ状況、IV. のイスラム世界の葛藤状況(イランや東トルキスタンなど)の今日的状況が、すっと腑に落ちる。

World View(世界観)を創っていくときの一つの見方としてお勧めの一冊だ。

さて「文明の生態史観」その後、多様な知識人の心をとらえ、いろいろな発展・拡張系の書が書かれている。

・川勝平太「文明の海洋史観」
・森谷正規「文明の技術史観」
・村上泰亮(やすすけ)「文明の多系史観」




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1 コメント

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日本経済新聞記事 (ヒロマット~)
2009-07-21 13:20:05
日本ベンチャー学会から「起業」に関する記事掲載の連絡が来ています。

明日(22日)より日本経済新聞の「経済教室」欄にて、「起業論」をテーマに
3回シリーズでベンチャー学会の3人の論稿が掲載される予定です。
第1回 伊藤邦雄(一橋大)
第2回 西澤昭夫(東北大)
第3回 森下竜一(大阪大)

つきましては、是非、ベンチャー学会の皆さんにもお読みいただきたく、会員の皆さんにご連絡いたします。
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