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自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

コマーシャル・オープンソースCRMの裏側

2010年07月04日 | オープンソース物語
先日東京MOT会で講演の中でSugarCRMについて軽くコメントしたところ、会場にユーザになることを検討した方と、販売チャネルの会社に勤務している方がいて、講演が終わってから雑談となりました。世の中狭いものです笑)

シリコンバレーにあるSugarCRMは、LAMP(Linux, Appach,MySQL,php)環境で動作するオープンソースのCustomer Relationship Managementを無償のコミュニティ版と有償版の二つのライセンスで配布してきました。

同社のビジネスモデルは、無償のコミュニティ版をGPL(General Public License)でソースコードを公開して、その中の一定比率のユーザが有償版を使うだろう、という前提が戦略の基礎をなしています。ソフトウェアのキモであるソースコードを公開して、コミュニティで何らかの思惑を持つ方々が、時にユーザとして、時に開発者として、ソースコードの進化に寄与するというものです。

技術経営的に言えば、無償のコミュニティ版の普及モデルは、贈与関係、互恵関係を育むオープン・イノベーションの最たるものでしょう。ところが、SugarCRM社は、コミュニティ版をGPLで無償配布しているので、思わぬビジネスモデルが出現しています。

SugarCRMの無償のコミュニティ版を独自に加工して販売するというビジネスモデルです。構造的にはSugarCRM社のコミュニティ版と有償版とアイソモーフィックな(同型の)ビジネスモデルです。無償のコミュニティ版については、合法的に、独自のコミュニティがサポートしており、SugarCRMに対して似たような技術軌道を歩みます。有償版に関しては、顧客に独自機能をアドオンしてEnd User License Agreementを結んで使用料を取るというものです。

カナダのThe Long Reach Corporationが運営するinfo@handというプロジェクトはSugarCRMのコミュニティ版のソースコードを独自に加工して有償版として販売しています。



インドのvTiger社が運営する無償版は一日に1000ダウンロードがあるそうです。(同社ホームページより)また有償版も安価で高機能なラインアップを揃えています。SugarCRMのコミュニティ版のソースコードを活用し、かつ相対的に安い人件費の恩恵を活かしながら高機能の有償版を開発して安価に販売するというビジネス・モデルです。



vTigerCRMの日本語版のコミュニティもできています。そこには以下の意味深長な記載があります。

<以下貼り付け>

<sugarCRMへのリスペクト> 既にSugarCRMを扱っておられる業者様も当方のブースをご覧になられたようです。当ユーザーグループは、vtigerCRMのフォーク元のソフトウェアとして、また日本でのオープンソースの普及と啓蒙において果たした役割に対して、sugarCRMを非常にリスペクトしております。vtigerCRMは未だにsugarCRMのコードを残しております。これまでsugarCRMに携わってこられた業者様がこれまでの蓄積を生かし、また業務の幅を広げる手段として、vtigerCRM日本語版がお役に立てる機会があれば幸いです。

<独自機能実装の勧め> vtiger社の見解によると、vtigerCRMのライセンスはMozillaベースであり、vtiger上に独自の商用アプリケーションを作成し、なおかつアプリケーションのソースコードを「非開示」にすることも可能とのことです。この点がsugarCRMオープンソース版が採用するGPL系と異なっております。独自技術を持つ業者様でも安心してvtigerCRMに投資いただけます。

<以上貼り付け>

ちなみに、日本でもvTigerを活用したクラウドサービスが始められています。たんなるASPでも昨今流行っているバズワードとしての「クラウドサービス」を冠すれば、なんとなく高級そうな語感も漂います。ちなみに、クラウドサービスの動向についてはコチラにまとめてあります。


ユーザにとっての価値は、モノ=ソフトウェア(オープンかクローズドかを問わない)からコト=機能のサービスへと急激にシフトしています。その意味で、クラウド対応が汎用アプリ市場のトレンドになっていて、オープンvsクローズの対置構造でビジネスを展開してきたコマ―シャル・オープンソースのビジネスモデルは陳腐化の瀬戸際に来ています。

さて、SugarCRMのコミュニティ版のソフトウェアからフォーク(脈生)を作るコマーシャル・オープンソース・ビジネスモデルは、それぞれの国の法律とオープンソースのライセンスに準拠しているので合法なものです。ただし、SugarCRM社の無償版、有償版を含むビジネスモデルから見れば直接的な脅威となります。しかしながら、SugarCRMの無償コミュニティ版は2007年夏にGPL化する前の脈生ソースコードにアドオンしてコミュニティが開発して配布しても特段法的な問題にはならないのです。

ただしRedHat Linuxは、GPLプログラムを複製されないように、Subscription Agreementのなかで、RHELを第三者に頒布するにはRedHatの各種の商標やマークを削除しなければならないと規定し、それらを削除するとソフトウェアが壊れる可能性があるので、削除は各自のリスク負担でやるべし・・・としています。つまり、著作権を防衛手段として巧みに利用しています。

つまりオープンソースをビジネス化するためには、ソースコードの知的財産マネジメントが非常に重要であるということです。そして、その知財マネジメントのツボは、GPLなどのライセンスの穴をいかに著作権などの権利で埋め合わせて「飛び道具」化させるかということになります。

このあたりの事情は、日本ではほとんど周知されていないようです。

デュアル・ライセンス(無償のコミュニティ版と有償の商用版)を扱う、いわゆるコマ―シャル・オープンソースのビジネス・モデルは、イノベーションの民主化という観点からは注目に値するでしょう。シリコンバレーで創発したコマ―シャル・オープンソースが、カナダへ、インドへ、そして、上記の3社の代理店によって80カ国以上にインベンションがディフーズ(普及・伝搬)しているからです。

しかしながら、公開情報を分析する限りにおいて、for-profit事業の収益化という観点からは?です。本家、脈生を問わずコミュニティ版同志と有償版との二重のカニバライゼーション(共食い)が発生しており、投資に見合うリターンをステークホルダーには還元できていないようです。

For-profit Businessの世界では、インベンションがグローバルにディフーズし収益をもたらして初めてイノベーションとなるのです。したがって、無償のコミュニティ版は、ユーザにとってのイノベーションですが、有償版を加えたトータルとしてのコマーシャル・オープンソース・ビジネスは、内部収益率の点からビジネスとして成立するのは容易なことではありません。

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