よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

書斎本

2005年01月09日 | No Book, No Life
書斎本というジャンルがけっこうにぎわっている。

古いところでは、かの梅棹忠夫の「知的生産の技術」あたりが出発点だ。高校生のときに一読してずいぶん感銘をうけたものだ。文体がわかりやすく、偉い先生が書いたような作為的な重みがなく、ストレートな内容だったと思う。特殊なノートやカード、ファイルや原稿作成方法において画期的な手法を提言した古きよき時代の本。

1979年には渡辺昇一が「知的生活の方法を書いている。学究生活から紡ぎだしたような濃い内容だ。個性あふれるライブラリーを作り上げ学問を活性化することが知的生活のポイントと説く。本全体のトーンは大正時代の人文教養主義的知的生活のリバイバル版のすすめといったところ。ときは高度経済成長時代。知的生活の潤い、生活の質、知的生活を求めた読者に支持された。

川喜多二郎の「知の探検学」もよく読まれた本だった。たしかにKJ法はグルーピングによるある種のメタ認知を促してくれる。またそれによって、意識の覚醒作用もないことはない。ただし、まっさらな思考のキャンパスに創造を加えてゆくというダイナミックな知的創造にはあまりあっていないと思うのだが。

書誌学から始まりイマ風の評論活動をしている林望も「書斎の造りかた」を書いている。木製のどっしりした本棚よりもスチール製の本棚のほうが使いやすい、など現場感覚の書斎論がいい。

1984年に刊行された立花隆の「知のソフトウエア」も見逃せない。「人間の思考は意味と切り離すことはできな」く、人間の知的能力の増進の要諦は無意識の能力を涵養することにある」と喝破しているのはさすがだ。モノカキとして大いに学べる一冊だ。1998年の「立花隆のすべて」には氏の書斎(というか仕事場)である「猫ビル」の内部写真が公開されている。驚嘆すべき書物の大洪水のなかで繰り広げられる創作活動があますところなく描写されている。書斎に質があるとすれば、書斎の質は書斎からアウトプットされた創造物で評価されるべきだろう。その意味で猫ビルはいずれ天然記念物の指定を受けるかもしれない。


IT革命の到来によって書斎本にも大きな変化が訪れる。情報の入手、編集、創作、アウトプット、そしてやりとりにパソコンやネットが絶大な影響力を持ち始める。1994年の山根一真の「情報の仕事術」はポップな感覚でデジタルの遊び心満載の明るい本だ。また類本の「知的書斎のつくりかた」は、かつて中産階級以上のインテリの所有物だった書斎ではなく、アパートの一室、パソコン一台からできる庶民感覚の書斎のありかたを紹介している。この無邪気さがいい。

書斎を仕事系の場所としてとらえればSOHO論につながってゆく。伊藤友八郎、他による「SOHO仕事術」は軽い本だが、自宅で仕事をするライター、文筆業者、企画屋、コンサルタントにとって参考になるだろう。書斎というジャンルからはやや離れるが、松岡正剛の「知の編集工学は体系的な本だ。ただし、体系的過ぎて論の運びが隘路にはまっていると感じたが。

そしてもう一度、立花隆。「インターネットはグローバルブレイン」は立花さんがどんどんネットの世界にはまり込んで行く様子が面白い。類本との相違点は、文明論的観点からの考察も忘れていないところだ。またネット関係者との対談も面白い。

知的な読書人ならば他人の書斎には大きな興味があるものだろう。この好奇心を満たしてくれるのが、他人の書斎紹介本だ。いずれまとめてみよう。

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