久坂部羊著『善医の罪』(2020年10月25日文藝春秋発行)を読んだ。
文藝春秋の作品紹介は以下。
彼女は善意の名医か、患者を殺した悪魔か――。
クモ膜下出血で意識不明の重体で運ばれてきた、横川達男。彼の手術の執刀医の白石ルネは、これ以上の延命治療は難しいと、本人の意志もあり治療を中止することを決意する。横川の苦しむ様子に耐えられなくなった家族は同意し、白石は横川を尊厳死に導いた。
数年後、白石が記したカルテと、立ち会った看護師のメモが食い違っていることが告発される。そのメモによると、白石は患者に筋弛緩剤を静脈注射したというのだ。事態は病院中を巻き込んだ大問題になり、やがてマスコミがかぎつけることに。白石を名医だと感謝していた横川の遺族は考えを変え、彼女を告訴することにした。
一体どこで歯車がくるってしまったのか。外科医に鬱屈を抱える麻酔科医、保身にはしる先輩外科医、女性としてルネに劣等感を感じる看護師。
様々な立場の者たちの思惑が重なり合い、事態は思わぬ方向へと転がることに――。現役医師が圧倒的なリアリティで描いた、スリリングな医療小説。
登場人物
浦安厚生病院
白石ルネ:脳卒中センターに医長。32~36歳。父は敏明、母はオランダ人。
山際逸夫:脳外科医長。ルネの5年先輩。
大牟田寿人:麻酔科医長。46歳。
小向潔:脳外科部長。副院長に昇進。
橘:院長。野沢は事務部長。上部の厚世会本部の専務は藤森。
堀田芳江:横川の担当看護師。井川は一年生看護師。加橋は介護師長。
横川達夫:66歳。クモ膜下出血で意識不明から多臓器不全へ。妻は保子。長女は石毛厚子(元夫は石毛乾治)。
横川信一:達夫の長男。妻は祥子(さちこ)。
沼田純一:横川側の弁護士。
速水祐樹:ルネの山友達。ルネの2歳下。大手出版社の編集者。バツイチ。
宇野公介:「週刊時大」の記者
寺崎美千代:ルネの弁護士。44歳。
大内義彰:刑事部検事
本書は書き下ろし。
巻末に、須田セツ子著『私がしたことは殺人ですか?』等の参考文献があり、「本作は事実をモデルにしたフィクションであり、登場人物および団体は、実在のものとはいっさい関係ありません。」とある。
参考ニュース:治療中止で殺人罪に…須田セツ子医師語る「ALS女性嘱託殺人」
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お勧め)(最大は五つ星)
前半は展開が見え見えで「ハイハイハイ、それで?」と飛ばし読みしてしまった。真ん中も、病院側の陰謀があまりにも露骨、幼稚で、わざとらしく感じてしまった。後半の裁判がらみになると、重い問題提起に「フムフム」となる。
脳死状態になると、医師には、患者の死と同義語であり、極端に言えば、患者はもはや物体になったと考えてしまうのではないかと思う。そこで、状況認識ができない患者家族と齟齬が生じるのだろう。
大牟田は私立医大出で、特別寄付金なしでも6年間で4千万円を超えた。