hiyamizu's blog

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『向田邦子ふたたび』を読む

2013年04月19日 | 読書2

文藝春秋編『向田邦子ふたたび』(文春文庫-ビジュラル版 む1-24、2011年7月文藝春秋発行)を読んだ。

飛行機事故による急逝から30年、今なお、愛され続けるその素顔に、文壇関係者らが寄せた追悼文、弔辞、回想から迫る。愛猫、愛用品、旅の土産、ままやの献立、旨いものなど、百余点の秘蔵写真も収録。不世出の作家の全魅力が蘇る、ファン必携の1冊。

本書は昭和58年文芸春秋臨時増刊「向田邦子ふたたび」を改訂増補した文庫の新装版。

「はじめに」には、世界を駆け回った向田さんの旅行トランクの写真があり、向田さんの愛猫「マミオ」にまつわる須賀氏の文とマミオの数枚の写真が続く。

山口瞳、澤地久枝、山本夏彦、吉行淳之介、綱淵謙錠、野坂昭如、中川一政、品田雄吉、本田靖春、小泉タエ、桐島洋子、秋山ちえ子達16人による向田さんへの回想が続く。

山本夏彦が選ぶ「向田邦子エッセイベスト5」が掲載され、

最後は、向田邦子年譜、著作リストが並ぶ。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

改めて向田邦子という作家、人間の魅力にハマる。怖いくらい凛として、思いやり深く、猛烈に仕事する。澤地久枝さんが「昭和ヒトケタの長女」と書いている。

向田さんの人となりを表すエピソードの他に、エッセイがいくつも引用されていて、かって読んだ美味しいところを改めてつまみ食いできる。そして、なんといっても100点余り写真が掲載されていて、向田邦子ファンには5つ星。

向田さんが一目惚れしたコラット種の猫のマミオは、猫好きでない私が見ても、確かに美しく神秘的でさえある。ちょっと撫でてみたい毛並みだ。その前に引っかかれるだろうけど。

黒ずくめの若いころの向田さん、決めている。帽子をかぶった写真も8枚ほどある。謎の恋人だったカメラマンが撮ったものなのだろう。



以下、メモ

寺内貫太郎のモデルと言われ、暴君とも言ってよい父親

祖母の通夜の晩、突然弔問に現れた社長を迎えに玄関に飛んで出た父上の、式台に手をついて平伏している姿を見て、はじめて「私達に見せないところで、父はこの姿で戦ってきたことを知り、<父だけ夜のおかずが一品多いこと>も、<八つ当たりの感じで飛んできた拳固>をも許そうと思った。」(父の詫び状)

拳骨より前におかずが一品多いと書くのが、子供らしく、グルメの向田さんらしい(そこじゃないだろう! 感心するところは)。

元気の日にはマルを書いて、毎日一枚ずつポストにいれなさいと、これは父が学童疎開する末の妹に葉書を山ほど持たせたときの言葉である。末の妹は一年にあがったばかりでまだ字が書けないのである。初めの日は特大のマルが来たが、みるみるそれは小さくなって、しまいにはバツになった。やがて百日咳を患ったので三ヶ月目に母がつれ戻しに行った。夜遅く見張っていた弟が「帰ってきたよ」と叫ぶと、茶の間で待ちかねていた父ははだしで表へとびだして、防火用水の前でやせ衰えた妹の肩をだき声をあげて泣いた(字のない葉書)

わざわざ「防火用水」と書いてリアルさを演出するのが脚本家らしい(指摘するのが、そこかよ!)。

小学4年のとき、片足、片目が悪く、小さくて勉強もビリでひねくれたIがいた。遠足のときIの母親が大きな風呂敷に大量のゆでたまごを、「これみんなで」と級長の向田さんに押し付けた。これを持って遠足に行くのはと一瞬ひるんだが、いやとは言えなかった。さらに、運動会のかけっこで、皆から大幅に遅れたIが途中で止まってしまった。皆が困ったなと思ったとき、何かというと口うるさく注意するので、学校でもっとも人気のない女教師が飛び出してきて、Iと一緒にゴールする。そして、参加賞をもらうところまで連れていく。
「私にとって愛は、ぬくもりです。小さな勇気であり、やむにやまれぬ自然の衝動です。「神は細部に宿りたもう」ということばがあると聞きましたが、私にとっての愛のイメージは、このとおり、「小さな部分」なのです。」
この話(「ゆでたまご」)、いい話なのだが、現在ではちょっと差別的と取られるおそれがあり、残念だ。



向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929(昭和4)年東京生れ。
実践女子大学卒業。秘書、「映画ストーリー」編集者を経て、脚本・エッセイ・小説家。
1952年「映画ストーリーズ」編集部へ
1962年「森繁の重役読本」脚本
「七人の孫」(1964年)「時間ですよ」(1970年)「寺内貫太郎一家」(1974年)「阿修羅のごとく」(1979年)などTVドラマ脚本
1975年 乳がん
1980年 短編連作小説「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で直木賞受賞
1981年8月22日台湾の飛行機事故で死亡(享年51歳)
向田邦子さんのお墓には森繁久彌さんの挽歌「花ひらき はな香る 花こぼれ なほ薫る」
が刻まれている。
その他、『父の詫び状』『無名仮名人名簿』『霊長類ヒト科動物図鑑』『眠る盃』『思い出トランプ』『あ・うん』『家族熱』『女の人差し指

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