森絵都著『できない相談』(ちくま文庫も29-1、2023年3月10日筑摩書房発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
夫の部屋の掃除はしない。マッサージ店で指名をしない。“ワンちゃん”呼びはしたくない。バリウム検査で作法を貫く。結婚指輪はどこかに消えた。くだらないような気もするし、ちいさい事とわかってもいる。「だけどコレだけは譲れない」、そんな何かが誰にもきっと一つはあるはず――。こだわりを許して生きていくのは、なかなか案外悪くなさそう。38篇の物語に文庫版限定の2篇を追加収録!
212頁で40篇、1篇平均約5頁の掌篇小説集。というより私には、星新一のひねりの効いたショートショートを思い出させる。
「webちくま」で2016年から3年にわたって、レジスタンスをテーマに、原稿用紙5枚の短篇を書き続けた。一冊の本『できない相談 piece of resistance』にまとめ、さらに2篇を追加して単行本化したものだ。
創作の背景が語られるインタビューが面白い。
最初の「2LDKの攻防」は、一度文句を言われて以降、頑なに夫の書斎を掃除しない妻と、妻の下着を畳まない夫の話で、ほぼ森家の話。
38番目の「電球を替えるのはあなた」は、トイレの電球が切れているのに、お互いに相手がやるべきと思い、決して取り換えようとしない夫婦の話で、森家の話に近い。
最期の「噂の真相」は、森さんの母親が血相を変えて〝あなた、離婚したの?〟って電話してきた話だ。
タイトルの「できない相談 piece of resistance」とは、「人が何かにこだわっていじましく守っている姿って、微笑ましくもある」、「本人は真剣なのにどこか滑稽味がにじみ出る」ということ。
東京ドームの片隅で:コンサート会場で終了前に出て混雑を避ける彼女を許せなくて
時が流してくれないもの:犬の里親希望者が「ワンちゃん」と言うのが許せなくて
スモールトーク:絶え間なく話しかける美容師が許せないが
……
本書は2019年に筑摩書房より単行本として刊行されたものに「島田祐一」「噂の真相」を書き下ろし、文庫化したもの。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
数ページの掌篇小説は、ポイントはほぼ1か所。40篇のうち、私が「そうなんだよ」と思ったり、「なるほど」と感心したのは20篇ほどで、「かもね」と思ったのが10篇、通り抜けたのが10篇と言った感じ。かなりな高確率だと思う。
本全体の筋はないので、通勤途中など切れ切れでも楽しめるので、四つ星にすべきだったかも。
一方で、「できない相談」というテーマで統一して40篇を書き上げたのは、さすが上手の森さんだ。