東京に住んで30数年、職場移転でまさかの横須賀住まいになった。
先発隊として山の上にある10階建ての新しい職場に行ったとき、窓の外の溢れる緑、絵のような富士山や眼下の東京湾ににんまりした。しかし、夜になり、まったく明かりが見えない真っ暗な光景に「ああここは田舎なんだ」と唖然とした。
社宅の最寄り駅も、改札口はあるのだが、みな線路をまたいで直接ホームにあがるような寂れた駅で、駅前にはよろずやが一軒あるだけだった。電車も単線で20分に一本。駅に行けばすぐ電車が来るものと思っていた私には、家に時刻表を貼っておいて、時間を見て駅に行く生活になかなかなじめなかった。
それでも10分も歩けばハイキングコースがあり、季節がくれば、筍掘り、みかん狩りなどが楽しめる。散歩や子供を遊ばせるのによい海岸も歩いて数分の距離にある。これらの環境は自然に親しむ楽しみを教えてくれた。広々としたスイカ畑の一角を借りて野菜つくりも始めた。一方で、デパートや美術館などへ行くのは不便でおっくうになった。まさに、「自然が近くなると文化が遠くなる」である。
十分ほど車で行くと、三浦海岸や、油壺マリンパークがあり、夏の土日には東京から子どもたちを連れた親戚が入れ代わり立ち代わりやってきて、大忙しだった。海辺の別荘を持つのが夢だったが、自宅となると、潮風や干した魚網のにおいなど悩まされることも多かった。
横須賀商店街には、かってのような猥雑さはなくなったが独特の雰囲気を持つ「どぶ板通り」がある。また、横須賀には猿島、記念艦三笠、ペリー公園など歴史を感じさせる場所も多い。
不便もあったが、都会では味わえなかった18年の横須賀生活は夫婦と成長期の子供にとって貴重な宝物になった。
今、横須賀は過疎化が進展しているという。東京、横浜から適当な距離にあり、リゾート地とも言える横須賀の素晴らしさをもっと色々な人に知って欲しい。