hiyamizu's blog

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江国香織『抱擁、あるいはライスには塩を 上下』を読む

2014年06月03日 | 読書2

江国香織著『抱擁、あるいはライスには塩を 上下』(集英社文庫、2014年1月発行)を読んだ。

東京・神谷町にある大きな洋館に暮らす柳島家。3世代、約50年にわたる浮世離れした、風変りな大家族の歴史を描く。

子供4人、2人は父か母が違う。祖母はロシア人。小中高へは行かず自宅学習。金持ち一家が優雅で独自の価値観を持つ生活をし、呪縛がきついが、常識から自由でもある愛のあり方へ挑戦する。

柳島一族や、かかわる人々が入れ替わり、それぞれ一人称で23章を語る構成であり、時代順がバラバラで、1960年から2006年の間を行ったり来たりする。
4年にわたり女性誌『SPUR』に連載された文庫本上下で600頁を超える大作。

ロシアの血を引く一家は、折に触れ抱擁を交わすとともに「かわいそうなアレクセイエフ」「みじめなニジンスキー」とある種の合言葉を交わして他とは異なる家族としての絆を確認してきた。
また、別の合言葉、大人になって好きなことができるようになったという意味の「ライスには塩を」は自由万歳を表す。
野崎歓氏の解説によれば、「抱擁、あるいはライスには塩を」というタイトルは、一家の信条「愛、あるいは自由」を表しているという。
「不倫」だの「三角関係」だのといった捉え方を、いかにもデリケートさを欠いた、心貧しいものと思わせてしまうところがこの一家にはある。


初出:「SPUR」2005年3月号~2009年6月号、2010年11月集英社より刊行


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

時代から孤立し、あたかも現代日本の中で小さな独立国家のように振る舞う裕福な一家。男は東大、女はお茶の水という有能な家族の歴史を、時代、場所、語り手を変えて描き重ねている。個性豊かな家族が、優雅で豊かな暮らしをする中で、それぞれに問題、秘密を抱えて生きる。
魅力的で憧れを呼ぶ貴族的生活、頑固に想いを貫く生き様。これらを多相的に見事に描き切っている。文章もわかりやすく、良く雰囲気を醸し出している。

しかし、話は面白いのだが、章ごとに語り手が変わり、しかも時間順がでたらめ(?)なので、話が分かりにくい。謎、秘密をたどりながら読むミステリー的要素もあるのだが、なんとなく先が読めてしまい、ミステリーとしては中途半端。


祖父・柳島竹次郎:呉服問屋から貿易会社を作り、さらに財をなす、
祖母・絹:ロシア革命の亡命貴族で竹次郎の妻、
母・菊乃:長女、23歳で家出し8年後に帰ってきて、幼馴染の豊彦と結婚。
父・豊彦:会社の番頭役・新沢の息子で、菊乃の入り婿となり、今は会社の社長。
叔母・百合:繊細で出戻り。
叔父・桐之輔:各国を放浪し、自由気ままに過ごす。甥姪を可愛がる。会社で専務

長女・望(のぞみ):岸部明彦と菊乃の子供、中国へ留学し、薬剤師となり、外国に住む。
長男・光一:大柄でハーフ顔、大学で涼子と恋人になる。
次女・陸子:大学へ進学しなかったが、小説家になる。
次男・卯月:豊彦と麻美の子で、柳島家に引き取られる。
麻美:竹次郎の秘書で、豊彦の愛人で、卯月の母



江國香織(えくに・かおり)小説家、児童文学作家、翻訳家、詩人。
1964年東京生まれ。父はエッセイストの江國滋。
目白学園女子短大卒。アテネ・フランセを経て、デラウェア大学に留学。
1987年「草之丞の話」で小さな童話大賞
1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞受賞。
1992年「こうばしい日々」で産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞、「きらきらひかる」で紫式部文学賞
1999年「ぼくの小鳥ちゃん」で路傍の石文学賞
2002年「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」で山本周五郎賞
2004年本書「号泣する準備はできていた」で直木賞
2007年「がらくた」で島清(しませ)恋愛文学賞
2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞
2012年『犬とハモニカ』で川端康成文学賞 を受賞。
その他、『ウエハースの椅子』『金平糖の降るところ
約25冊の長編小説、10冊のエッセイ本、12冊の短編集、12冊の絵本、4冊の詩集、約75冊の童話を翻訳
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