hiyamizu's blog

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長嶋有『猛スピードで母は』を読む

2011年12月12日 | 読書2
長嶋有著『猛スピードで母は』文春文庫、2005年2月文藝春秋発行、を読んだ。

裏表紙にはこうある。
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小6の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。解説・井坂洋子


サイドカーに犬
小四の姉、薫の視点できままな父とかっこ良い愛人の洋子さんが見つめられる。
父と母は喧嘩ばかりしていて、ある日母は家を出て行く。残された父と姉薫と弟の家にすらりと背の高い美人の洋子が晩御飯を作りに来る。その後、夕方になると洋子さんはさっそうと自転車で毎日やってくるようになる。母がきちんと守らしていた生活のルールを洋子さんは気にせず、自制心の強い薫はとまどいながら、洋子さんに惹かれていく。そしてある日・・・。

猛スピードで母は
小学生の慎の視点でおもいっきりのよい母と恋人が見つめられる。
母は離婚して故郷北海道に戻り、幾つかの仕事を変わりながら、慎を育てている。母はキビキビと働き、辛さも見せず、何かあると捨て身であたる。母の今度の恋人は慎一といい、今度は慎も親しくできそうだったのだが、・・・。

初出は、「サイドカーに犬」が「文學界」2001年6月号、「猛スピードで母は」は「文學界」2001年11月号。単行本は2002年2月。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

たいした筋立てはなく、感動的な出来事もとくになく、軽快に、サラリと読んでしまう。しかし、読後感はさわやかで、しみじみと、心が静になる。

大人はいろいろな事情を抱えているが、その内面には立ち入らず、子供の視点でのみ語られる。そして、子供が大人の世界を外から垣間見て、大人の辛さ、我慢を感じとり、新しい世界、経験をすることで自分も自立へと育っていく。

「猛スピードで母は」の結末で、母親がシビックで憧れのワーゲンの車列を猛スピードで追い抜いていくシーンは爽快だ。
描かれている女性達は不器用で良い結果は得られないのだが、かっこ良い。長嶋有さんは素敵な女性を描き出し、子供の経験、気持ちを見事に現す。

犬歯がぐらぐら抜けそうだった。舌でさわると血と歯の味がする。・・・「下の歯なら上に、上の歯なら床下に投げる」・・・

すっかり忘れていたあの血の味、ちょっとうれしく屋根に投げたあの日を思い出した。



長嶋有(ながしま・ゆう)
1972年埼玉県草加市生れ。北海道育ち。東洋大学第2文学部国文学科卒業。
シャチハタ勤務後、
2001年「サイドカーに犬」で文学界新人賞受賞、芥川賞候補
2002年「猛スピードで母は」で芥川賞受賞
2007年『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞受賞
その他、『ジャージの二人』、エッセイ『安全な妄想』など
ネット・コラムニスト「ブルボン小林」としても活動




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