hiyamizu's blog

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恩田陸『蜜蜂と遠雷』を読む

2017年08月29日 | 読書2

 

恩田陸著『蜜蜂と遠雷』(2016年9月20日幻冬舎発行)を読んだ。

 

幻冬舎の宣伝は以下。

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

 

 本書は、国際ピアノコンクールの最初から最後までを語る話で、目次に従い、エントリー、第一次予選、第二次予選、第三次予選、本選と進んでいき、各演奏のありさまと、神に愛された若者たちが成長していくさまを描く。

 

 本作品は直木賞を受賞後、さらに本屋大賞も受賞。

 

 

初出:「星星峡」2009年4月号~2013年11月号、「ポンツーン」2014年1月号~2016年5月号の連載を大幅加筆・修正

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 507ページのほとんどをクラシック音楽の演奏を文字で表現し、成功しているのは驚異的だ。作者・恩田さんの筆力には驚かされる。もちろん、聞いている人の反応、感想などの間接的表現で補っているのだが。

 

 幻冬舎の特設サイトに「構想から12年、取材11年、執筆7年」とあった。また、ウィキペディアによれば、3年に1回、開催される浜松国際ピアノコンクールへ4回共、毎日、会場の座席で午前9時から夕方までピアノ演奏を聴き続けたという。ご苦労さまです。

 

 

 

 クラシック好きな人なら、色々な曲が登場するたびに、「そうそう!」とか、より楽しく読めるのだろう。クラシックに馴染みのない私でも、曲のしつこい説明はないし、話の筋とは直接的には関連はしないので、スイスイ読める。しかし、微妙な演奏法の違いなどの説明があるのに、洋服の外から女性のナイスボディを想像しているような感は否めない。

 

 

恩田陸の略歴と既読本リスト

 

 

 

登場人物

芳ヶ江(よしがえ):日本の地名。芳ヶ江国際ピアノコンクールは、90人が演奏し、二次には24人、3次には12人が進む。審査員は13名。コンクール出場者はコンテスタントという。

 

嵯峨三枝子:芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員。8歳年下の作曲家と暮らす。ナサニエルは元夫。

アラン・シモン:芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員。

セルゲイ・スミノフ:芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員。

オリガ・スルツカヤ:審査委員長。名ピアニストで教師。70歳近い。赤毛のロシア美女。

菱沼忠明:作曲家。大文豪と大政治家が祖父。

 

風間塵(じん):ホフマンが推薦状を遺した。16歳。父が養蜂家で「蜜蜂王子」とあだ名される。音楽の神様の愛されていると称される。

ユウジ・フォン・ホフマン:伝説的巨匠ピアニスト。今年2月に亡くなる。

 

栄伝亜夜(えいでん・あや):天才少女ピアニストだったが、13歳で母を亡くし、引退。20歳。

浜崎:有名私立音大の学長

浜崎奏(かなで):次女。亜夜と同じ大学の先輩。ヴァイオリン。長女は晴歌(はるか)

 

高島明石:楽器店店員。28歳。最高年齢の出場者。雅美の取材対象。妻は満智子で息子が明人。

仁科雅美:TV記者。高島明石を取材。

 

マサル・カルロス・アナトール:出場者。ジュリアードの王子様。ペルーの日系三世。188cm

ナサニエル・シルヴァーバーグ:ジュリアード音楽院教授。三枝子の元夫。数少ないホフマンの弟子の一人。

 

アレクセイ・ザカ―エフ:出場者

ジェニファ・チャン:出場者。女ラン・ランと呼ばれている。

田久保寛:ステージマネージャー

浅野耕太郎:調律師

 

 

以下、蛇足。

 

 

 演奏法に関して、一部、手垢のついた(?)表現があった。

例えば、日本人の美意識として、(p235)

説明はしない――感じさせる。

至って単純なことなのだが、それを表す言葉として見つけたのが「余白」だったのだ。

 

P239

いったいどうしてそんなに早く造ることができるのかってね。そうしたら彼は別に造っているわけじゃない、と答えたそうだ。ただ、木の中に埋まっている仏様を掘り出しているだけだ、と。

これは、夏目漱石の「夢十夜」に出てくる運慶の話だが、ミケランジェロも大理石の中に埋まっている像を取り出しているだけという話がある。これらはかなり知られている話なのではないだろうか。

 

ミケランジェロについて脱線すると、作った像がまったくモデル当人に似ていないとの批判に彼は、

「1000年もたてば、彼らの顔がどうだったかなど、誰も気にしなくなる」と答えたといわれる。

 

 

文芸業界とクラシックピアノの世界は似ている。

コンクールの乱立と新人賞の乱立。食べていけるのは一握り。読ませたい人・演奏をきかせたい人はうじゃうじゃなのに、どちらも斜陽産業で、読む人・聴く人の数はジリ貧。普段は地味にこもって何時間もキーを叩く。元手のかかり方はえらく違う。

 

「練習を一日休むと本人に分かり、二日休みと批評家に分かり、三日休むと客に分かる」という言葉がある。

 

「最近のハリウッド映画はエンターテインメントではなく、アトラクションである」と言った映画監督がいる。

 

 

コメント
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