hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

本谷有希子『嵐のピクニック』を読む

2017年08月20日 | 読書2

 

 

 本谷有希子著『嵐のピクニック』(講談社文庫も48-4、2015年5月15日講談社発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

弾いている私の手首の下に尖った鉛筆が近づく――。優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気「アウトサイド」、カーテンの膨らみで広がる妄想「私は名前で呼んでる」、ボディビルにのめりこむ主婦の隠された想い「哀しみのウェイトトレーニー」他。キュートでブラック、奇想天外。初の短篇集にして大江健三郎受賞作。

 

 187ページで13篇、平均14ページの掌編集。

 

 

「アウトサイド」

 中学生の頃、幼稚園の時から習っていたピアノ、まったくやる気がないので、引受けてくれるピアノ教室がなくなった。どんな子にも根気よく優しく教えてくれるという評判のピアノの先生の家に通い始めた。だんだんと大胆に弾けないことをアピールする私に、先生の顔は少しずつ曇るようになった。そして、先生は筆箱から一本の鉛筆を取り出し、「あっちゃんは鍵盤を触るとき、手首がどうしても下がってしまうからね」と言って・・・。

 

「私は名前で呼んでる」

カーテンが膨らんでいるのがどうしても気になって、会議の間中、そわそわしていた。・・・
点が三つ集まるとそれが二つの目と口にしか思えなくなって、なんでも人の顔に見えてしまう【シミュラクラ現象】の起る率が人よりずっと高いのだ。

 

「パプリカ次郎」

 パプリカ次郎が10歳のとき、おじいちゃんの手伝いで、屋台の売り子をしていた。突然、屋台を次々と壊しながら奴らがやってきて、人々が逃げ惑う。おじいちゃんは「あいつらはいつも、ああやってわざと追われてるんだ」と言って動こうとしなかった。

「人間袋とじ」

「しもやけを利用して足をくっつけてみようと思うの」
朝ご飯を食べたあと、彼女が言い出した。

 お互いの足の小指と薬指に彫ったそれぞれのイニシャルをくっつけようとしている。

「哀しみのウェイトトレーニー」

 新しい自分を見つけようとジムに通い、ボディビルダーになるためのトレーニングを始める主婦。

「マゴッチギャオの夜、いつも通り」

 動物園の猿のマゴッチギャオの所へ、人間に育てられていたチンパンジーのゴードンがやってきた。夜になると花火を投げ込む奴らがいるのだが、ゴードンは怯えて、逃げられない。

「亡霊病」

「タイフーン」

「Q&A」

「彼女たち」

 一緒に暮らしている恋人から決闘すると言われ、どうしてもというので河原に向かう。土手には同じように泣きべそをかいた男の人が彼女に連れられてあるいてきた。そして何組もの男女が。彼女たちはよだれを垂らし、唇からルージュが湧き出していた。

 

「How to burden the girl

 19人の悪の手下たちの頭を吹き飛ばしたばかりの彼女の目からは、血の涙が流れている。

 

「ダウンズ&アップス」

「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」

 お客が試着室に入ったきり、出て来なくなってしまい、閉店時間を過ぎた。


「『奇妙な味』は文学たりうるか――本谷有希子の冒険」大江健三郎

大江健三郎による「大江健三郎賞選評」がさいごに追加されている。

この一冊には、「奇妙な味」の短編が発想と形式の見本帳というほどにも、繰り出されるが、それを愉快に楽しんで、――ああ、面白かった、ではすまない。もひとつの深い層をさぐる心で、むしろ自分の永年の小説観(エンターテインメントと「純文学」を区分けするやり方)を洗い直すつもりで、書き抜きもしながら読み直そう。こう思い立ったわけなのです。

(相変わらず、何を言っているのかわかりにくい。昔、放送大学での講義を聞いたことがあるが、話は明快だった。なぜ書く時だけわかりにくくなるのだろう?)

 

 

2012年6月講談社より単行本として刊行。

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

 さまざまな奇妙な味の話が並ぶ。そこに優れた作家の芽が垣間見えると大江健三郎は言うのだが、私はそんな“芽”を読みたいとも思わないし、ましてや読む義務もない。文章は分かりやすくて、おそらく上手いのだろうが、ただ、ただ、変な話を並べるだけでは、人を読む気にさせることはできない。

 

 しかし、この本で大江健三郎賞、『自分を好きになる方法』で三島由紀夫賞と純文学の2大賞?を受賞し、続けざまに『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞したのだから、健さんの目は確かだったのだろう。

 

 でも、負け惜しみで言うと、「おもろい芥川賞受賞作品ってないの?」

 

 

本谷有希子(もとや・ゆきこ)

1979(昭和54)年、石川県白山市生れ。2000(平成12)年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。

2002年より小説家としても活動を開始。

2006年『生きてるだけで、愛。』が芥川賞候補。

2007年『遭難、』で鶴屋南北戯曲賞を最年少で受賞。

2009年『幸せ最高ありがとうマジで!』で岸田國士戯曲賞を受賞。

2011年『ぬるい毒』で野間文芸新人賞

2013年本書『嵐のピクニック』で大江健三郎賞受賞、シンガーソングライターで映画監督の御徒町凧と入籍。

2014年『自分を好きになる方法』で三島由紀夫賞受賞

異類婚姻譚で芥川賞受賞

他の作品に、『江利子と絶対』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『生きてるだけで、愛。』『あの子の考えることは変』『自分を好きになる方法』などがある。

 

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