hiyamizu's blog

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酒井順子『子のない人生』を読む

2016年08月17日 | 読書2

 

酒井順子著『子のない人生』(2016年2月29日角川書店発行)を読んだ。

 

「はじめに」に酒井さんはこう書く。

私が四十代になって、やっとわかったこと。それは、女性の人生の方向性には、「結婚しているか、いないか」よりも、「子供がいるか、いないか」という要因の方が深くかかわる、ということでした。

離婚して再び独身になった友人もたくさんいますが、子ナシで独身になった人と、子持ちで独身になった人の気分は異なります。負け犬と勝ち犬にグループ分けするとしたら、子持ち独身者は勝ち犬グループの方が合うでしょうし、子ナシ独身者は負け犬グループの方がしっくり来るのです。

子ナシの既婚者、すなわち「こんな私は負け犬なのでしょうか?」と聞いてきた人達も、本当は負け犬グループに属した方が、気がラクなのでしょう。子供のお弁当作りやサッカーの送迎についての話ができない人は、負け犬仲間と過ごした方がのびのびできること、間違いなし。

 

「子供嫌い」

しかしおそらく、子供好きアピールが功を奏するのは、二十代前半まで。三十代が見えてきた女性が子供好きアピールをすると、「子供へのがっつき」、すなわち男性からすると「ちょっと付き合ったらすぐ結婚とか言い出しそうで重い」といった印象につながりがちなのでした。

 

「一人前」

 子供を持ったばかりで、その日常性と多幸感で興奮している男女は、子ナシ族の前でも、

「子供を持って初めて本当にわかったことがたくさんあったの! 人間として成長できたと思う」

などと言うわけですが、我々は、「やはり私は、人間として劣っているわけですね」などと思いながら・・・

 

「トートーメー」

40代後半で独身の女友達は、「ま、ボーイフレンドはいてもいいけど、結婚はね――」とか、「茶飲み友達が欲しい」などとほとんど恬淡(てんたん)の域に入っているのです。・・・関心はすでに自分の老後や死、墓のことに移っています。

 

 

本書への書評『「正しさ」の根深さ』で能町みね子は言う。

 “人は子供を持つのが「正しい」。” この、絶対的真理のような強い圧力を持つ固定観念の前に、子供の無い女性は常に屈服させられ、罪悪感と焦燥感を押しつけられながら生きている、と私は思っています。

・・・終わりのほうに、『徒然草』からの一節(第190段の冒頭 妻(め)というものこそ、をのこの持つまじきものなれ)があります。それはやけくそで開き直った発言のようにも見えますが、私のような人間にとって一つの救いにもなりえる言葉です。

 

 

参考:本書刊行記念の著者×首相夫人・安倍昭恵さんとの対談

 

 

初出:「本の旅人」2014年1月号~2015年12月号連載に加筆訂正

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

多くの人が既に思っていることであり、驚きはないので★★★(三つ星)にしたが、このテーマに関心のある人に対しては、★★★★(四つ星)と言いたい。

 

エッセイ集の多くは、その人なりの考え方では一貫していても各エッセイのテーマがバラバラな場合が多く、よほど透徹した思想を持つ人のエッセイ集でなければ読みにくい物が多い。このエッセイは全編が「子供なし女性」で統一されていて解りやすい。

また、酒井さんの論理、記述は明快であり、全体として、エッセイ集ではあるが肉付けすれば社会科学の論文にもなりうるほど明快だ。しかも、内容も具体的で巧みに人の心理を捉えていて、共感しやすい。

 

 

酒井順子の略歴と既読本リスト

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