hiyamizu's blog

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井上ひさし『東慶寺花だより』を読む

2013年09月21日 | 読書2
井上ひさし著『東慶寺花だより』(2010年11月文藝春秋発行)を読んだ。(文春文庫2013年5月発売)

文藝春秋の担当者からの一言 

江戸時代、女たちが不幸な結婚から逃れるための「駆け込み寺」であった鎌倉の東慶寺。その門前に建つ御用宿の居候で、戯作者志望の青年、中村信次郎の目を通し、救いを求めて寺に身を寄せるさまざまな女たちの物語が描かれます。ただ虐げられるばかりではない。怒り、抵抗し、許し、受け入れる。名もなき人々の弱さと強さを優しい視線で見つめた井上文学の到達点とも言うべき、静かな感動に満ちた連作短篇集です。


江戸時代、離婚したい妻(or妾)は江戸から十三里ほど離れた鎌倉の東慶寺「縁切り寺」に駆け込むと、門前の3つの御用宿の一つで事情聴取されて調書がつくられる。その後、夫と夫方、妻方の関係者が呼び出され、「相対熟談」という話し合いの場がもたれる。まとまらなかった場合に、妻は入山、断髪し、生臭ものや五辛を断った24カ月を無事寺で過ごすと、夫は離縁状を書かなくてはならないし、その後は再婚自由となる。

入山の時に、六十両収めると上臈格となりお茶や手習いと優雅に暮らす。それ以下の金だと御茶間格でお針台でひたすら縫い物仕事をする。一文銭も積めなかったときは御半下格で、炊事、洗濯、清掃、畑仕事などあらゆる雑用をする。
(当時としては世界最先端のシステムが出来上がっていたようである)

お金への離縁状例(三行半)
離別一札之事       (りべついっさつのこと)
お金儀、この度不縁仕り候、  (おきんぎ、このたびふえんつかまつりそうろう)
後日何方へ縁付き申され候共、 (ごじつうすかたええんづきもうされそうろうとも) 
一切構無御座候、       (いっさいかまえござなくそうろう)
仍如件            (よってくだんのごとし)
鎌倉十四カ村の内、長谷村
山元屋重蔵 印

文化七年五月七日
東慶寺御用宿 柏屋源兵衛殿

御用宿のひとつ、柏屋(主は源兵衛、番頭は利平、娘は8歳のお美代)に居候している主人公の信次郎は、蔵前の医者・西沢佳庵(かあん)先生のもとで修行した見習い医者で、版元から滑稽本を1冊出しただけの駆け出しの作家で、新作を書こうと苦闘している。

東慶寺へ逃げ込んでくる女性たちのさまざまな事情や、たくらみなどが、信次郎の目から15話語られる。

井上ひさしの遺作シリーズの一つ。巻末の参考文献のリスト(死後に残された「東慶寺の本棚」と呼ばれる本棚の本)は約70冊ある。

初出:「オール読物」1998年4月号~2008年5月号(著者は2000年に死去)



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

なにしろ縁切り寺だ。離婚という人生の濃い縮図が次々展開されるので、面白くないわけがない。

その上、オランダ渡りの砂糖輸入店、砂鉄を加工する「鉄練り」職人など珍しい職業や、すし屋や落語家など当時徐々に広がりつつあった職業を紹介しつつ、江戸の庶民を生き生きと描いていく。



井上ひさし
1938年山形県生まれ、上智大学外国語学部フランス語科卒
浅草フランス座文芸部兼進行係などをへて、戯曲「日本人のへそ」NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」
1972年「手鎖心中」で直木賞受賞
1981年「吉里吉里人」で日本SF大賞、翌年読売文学賞小説賞受賞
2000年死去







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