hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

スティーブン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』を読む

2011年11月20日 | 読書2
スティーブン・ミルハウザー著、柴田元幸訳『ナイフ投げ師The Knife Thrower 』2008年1月白水社発行を読んだ。

静かに空想の世界を精緻に描き出し、どんどん深めていく、魔法のような12の短篇集。

ナイフ投げ師
熱狂的支持の一方、下卑た見世物師との噂もあるナイフ投げ師ヘンシュが町でただ一度だけ公演を行う。ナイフ投げの技は徐々に危険度を増し、「師による血のしるし」を頂くためにより危険な技に移っていく。そして最後の出し物「最後のしるし」となり、会場に緊張が走り、・・・。
本作「ナイフ投げ師」(The Knife Thrower)はOヘンリー賞受賞。

空飛ぶ絨毯
父さんが近くでもよく見かけるようになった空飛ぶ絨毯を買ってきてくれた。僕はさっそく絨毯に乗り窓から外へ飛んでみる。家々の屋根や川などが見えてくる。

新自動人形劇場
私たちの市には無数の自動人形劇場がある。しかしなのといっても名匠は、自動人形(からくり人形)の魔力に取り憑かれたハインリッヒ・グラウムだ。自動人形には機械的熟練、解剖学的完全無垢の動作はもちろん、神秘的要素、精神的次元の高さが要求される。彼は若くして神業に域に達したが、36歳から10年間の沈黙に入る。そして復活した名匠の作品は人々を驚かす。

その他、「ある訪問」 、「夜の姉妹団」、「出口」、「月の光」、「協会の夢」、「気球飛行、一八七〇年」、「パラダイス・パーク」、「カスパー・ハウザーは語る」、「私たちの町の地下室の下」



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

訳者の柴田さんが「あとがき」で
ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に嚙まれることに似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻ることは不可能に近い。


と述べている。私も、確かに不思議で深いオタクの世界だと思う(柴田さんも含め)。記述の精緻ぶりには感心するが、私はここまで潜り込む気にもなれないし、入り込めない。



スティーブン・ミルハウザー Steven Millhauser
1943年ニューヨーク生れ。コロンビア大学卒。
1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー
1998年本書『ナイフ投げ師』でOヘンリー賞受賞
1996年『マーティン・ドレスラーの夢』でピューリッツァー賞受賞。

柴田元幸(しばた もとゆき)
1954年東京生まれ。東京大学教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースター、ミルハウザー、ダイベックの主要作品、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』など多数。著書に『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『生半可な学者』は講談社エッセイ賞を受賞。





以下、私のメモ

「ある訪問」
大学生の頃の親友アルバートとは9年間は音信不通だった。突然の誘いの手紙を受け、新居を構えた奥深い村に向かう。紹介された妻アリスは椅子に座っていたが、大きな・・・。

「夜の姉妹団」
深夜、 少女たちが人目のつかない場所で夜の秘密の集会を開いているという。少女の自殺、とびかう様々な噂のなか、ある医師が自分の娘を追跡するが、・・・。

「出口」
ハーターは図書館で知り合った人妻マーサと終わりを覚悟したときマーサの夫が入って来る。そして翌日二人の男がハーターを訪ねて来て、・・・。

「月の光」
15歳になった夏、僕は月明かりの町を歩き出す。クラスの女の子4人が男の子のような格好でボール遊びをしていて、僕も加わる。終わってから誘われてソーニャの家の中を通って玄関で別れる。月光のなか夜道を家に戻る。

「協会の夢」
古くなり、かつての魅力をなくした百貨店を「協会」が買収し、新規開店した。新装百貨店は19階建てで、本物のように驚かされる売り場が数々ある。小川や滝は郊外の大土地所有者に相当売れた。さらに百貨店は日々劇的に変化していく。

「気球飛行、一八七〇年」
1870年、プロイセン軍に包囲されたフランスに降り立ってレジスタンスを組織すべく気球で空に登る。

「パラダイス・パーク」
1912年に開園し、1924年に焼失した伝説の遊園地パラダイス・パークは、ある種のどぎつさ、過剰さによって空間の限界を乗り越えようとしていて、前代未聞の方向へと進んでいく。

「カスパー・ハウザーは語る」
野生児、カスパー・ハウザーは、一見非の打ち所がない若い紳士であるが、ほんの数年前まで、火すら知らず、光を怖れる獣のようだった。棒のてっぺんに光が見え魅せられて手を伸ばすと棒が私に噛み付いた。それはロウソクというものだった。やがて、生きていて動くものと、風などで動かされるものを区別できるようになった。

「私たちの町の地下室の下」
私たちの町の地下室の下、はるかずっとしたには、くねくねとよじれ、交差しあう通路の迷宮が広がっている。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする