hiyamizu's blog

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レイモンド・カーヴァー「必要になったら電話をかけて」を読む

2011年11月08日 | 読書2
レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳「必要になったら電話をかけて」村上春樹翻訳ライブラリー2008年7月中央公論新社発行、を読んだ。

2008年8月に読んだ本の再読だ。ただし、新書版化されている。図書館で村上春樹翻訳シリーズがズラッと並ぶ中で目についてさっと取って家に帰って読み始めるとすぐに既に読んだ本だとわかった。よくあることだ。どうも題名などが私の好みであるらしい。

村上春樹さんは敬愛するレイモンド・カーヴァーの全著作を14年かけて翻訳した。この本は、カーヴァーの死の10年後、発見された5編の短編の翻訳を全集から収録したものだ。

薪割り
アルコール依存症回復施設に入っているあいだに奥さんは別の男と家を出て行ってしまう。彼は旅に出て、気の良さそうだが、知りたがりの夫婦の家の部屋を借りる。何日か経って、冬に備え薪用の山のような材木が運ばれてくる。彼は頼んで薪割りをさせてもらう。すべての薪を割ってしまって、彼はその家を出る。

どれを見たい?
この家を出ると夫婦は東部と西部に別れるのだ。出ていく家をきっちり掃除していると、隣でレストランを営む大家さんがやってきて出発の前日の夕食に誘われた。夕食では温かい会話が続く。翌朝には・・・。


夢を見るとその内容を夫に話して聞かせる妻。隣家には可愛いさかりの子供二人と暮らす奥さん。そして、隣家で悲劇が起こる。

破壊者たち
妻は旧友夫妻と何かというと会いたがる。そして、2組の夫婦は触れられない話題を気にしながら会話し、夫は落ち着かない。かって彼らは、妻の元夫と4人組でさまざななことを楽しむ仲間だったのだ。

必要になったら電話をかけて
それぞれ愛人のいる夫婦が一夏の間自宅を離れ別の家を借りて暮らしてみることにした。

いずれの話も、とくに何と言うことはない淡々とした話なのだが、アルコール依存症、離婚などの棘が刺さったままでの、かみ合っているようで、すれ違う男と女の会話。そして、その会話からその奥が覗けてしまう。

序文では、本編発見のいきさつなどをでカヴァーの奥さんである詩人のテス・ギャラガーが語る。巻末には26ページに及ぶ村上さんの解題(著者や著作の由来、内容などの解説)と、20ページに渡るレイモンド・カーヴァーの年譜がついている。



レイモンド・カーヴァー Raymond Caver
1938年オレゴン州生まれ。製材所勤務、病院の守衛、教科書編集などの職を転々とするかたわら執筆を始める。
1977年『頼むから静にしてくれ』が全米図書賞候補
1983年『大聖堂』が全米批評家賞・ピュリッツァー賞の候補
1988年肺がんで死去



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

前回には筋を追うのに集中していたのが、3年ぶりに読み返すと、雰囲気、会話の向う側、文章などにも注意が行くようになる。これらの作品は未発表の半分習作のようだが、とくに村上さんの解題を読むと、私にもカーヴァーらしさが解ったような気がした。

村上さんの解題は、本文よりもお勧めだ。良い点も悪い点も率直に語る村上さんの息遣いが聞こえるようだ。
各編をこまかく分析、批評していて、作家として、小説のつくり方からの批評が面白い。カーヴァー自身が未発表にとどめたこれらの作品のどういう点が「ゆるい」のか、具体的に指摘しているものもある。
自身の小説とはまったく似ていないカーヴァーに入れ込んで全集の翻訳までした理由の一つをこう述べている。
読んでいると、光景がいきいきと目の前に立ち上がって浮かんでくるし、抑制された不思議な静けさが漂っている。匂いがあり、温もりがあり、肌触りがあり、息づかいがある。世界を見つめる一対のたしかな目があり、それを文章に的確に移し換えていく熟練した技量がある。
 












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