hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

道尾秀介『光媒の花』を読む

2010年08月27日 | 読書2

道尾秀介著『光媒の花』2010年3月、集英社発行、を読んだ。
ごく普通に見えるが、心に闇を抱えて生きる人たちの6つの連作短編集で、山本周五郎賞を受賞し、直木賞の有力候補になった作品だ。

第1章 隠れ鬼
認知症の母とひっそり暮らす判子屋の店主の封印された過去、30年に一度という笹が花を咲かせたあの日。
第2章 虫送り
こっそりと川の土手に虫捕りに行く兄と妹は、ホームレス殺害がバレることに怯える。もう一人の昆虫学者になるのが夢だったというホームレスが言う。「死んでいい人間なんて、この世にいないんだよ」
第3章 冬に蝶
今はホームレスとなった彼は、昔を思い出す。少年は虫取りに通う河原で少女サチに会うようになり、悲惨な状況にある彼女を絶対に助けると言ったのだが。
第4章 春の蝶
ファミリーレストランで働く一人暮らしの女幸(さち)の住むアパートの隣には、離婚した両親の原因となったと思い込み耳が聴こえなくなった少女がいた。
第5章 風媒花
小さな運送会社に勤めるドライバーの亮は、仲の良い小学校教師の姉を病院へ見舞う。姉は亮が母を避けているのをなんとかしたいと思っている。
第6章 遠い光
自信を失った新米女性教師は、孤独な教え子朝代に拒否され、なにもかもうまく行かず絶望する。朝代の起こした事件の処理に飛びまわるうちに、景色のなかに光を見るようになる。

主役たちに深いつながりはないが、前の作品の脇役が次の作品の主役になったりする。一匹の白い蝶が物語をつないでいく。



初出:「小説すばる」2007年4月号~2009年3月号



道尾秀介の略歴と既読本リスト



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

あらたにす」の「著者に聞」のコーナーで、著者がこの本について語っている。


前半は、いつもの道尾作品で、子供の頃の悲惨な体験で一生をだめにするといった、暗くいやな話だ。しかし、後半はその中から希望の光が見えてくる。

「虫媒花」は虫に花粉を運ばせるために匂いや色などの工夫を凝らす花で、「風媒花」はただじっと風を待ち、風に花粉を運ばせる花だ。人は、虫や風に頼らず、光によって自分の花を咲かせることができる。そして、人は、存在するだけで他人に光をもたらすことができるとして、著者は「光媒の花」と造語した。


コメント
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