hiyamizu's blog

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加賀乙彦「不幸な国の幸福論」を読む

2010年03月05日 | 読書2

加賀乙彦著「不幸な国の幸福論」集英社新書0522C、2009年12月発行を読んだ。

裏表紙にはこうある。
経済は破綻し格差は拡大する一方、将来への希望を持つことが難しい日本にあって、「幸せ」は遠のくばかりと感じている人は多い。しかし、実は日本人は自ら不幸の種まきをし、幸福に背を向ける国民性を有しているのではないか―。
精神科医、心理学者でもある作家が「幸せになれない日本人」の秘密を解き明かし、幸福になるための発想の転換法を伝授する。追い求めている間は決して手にいれることのできない「幸福」の真の意味を問う、不幸な時代に必読の書。


前半では、人目を気にしすぎる日本人の不幸、経済発展だけを追い求めた日本の問題を指摘する。後半ではどのように考え、行動すべきかについて、著者の考えが披露される。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)



著者の考え方には賛同できる。日本人は、狭い集団の中に閉じこもり、その中に同化することに気を使うあまり、集団外に無関心となりがちだ。世界が狭いので、一度駄目だと思うとそのまま一気に落ち込んでしまう。騙されたと思って、ちょっとだけでも足を踏み出し、手を伸ばしてみると、今まで属していた世界がすべてでないことに気づき、世界が違って見える。あなたを必要としている新しい世界で、新しい自分になろう。

私は、1年以上前から地域の老人のコミュニティーハウスのようなものに出入している。先日、ある講座を受けていて、メンバーの年齢の話になった。88歳を筆頭に、後期高齢者ばかりの中で、私が67歳と言うと、一斉に「若い!」と声があがった。最近はどこに行っても図抜けた年寄りだったのに。思わず、「その言葉、久しぶり!」と叫んでしまった。



加賀 乙彦(かが おとひこ)
1929年、東京生まれ。東京大学医学部医学科卒業。東京拘置所医務技官を務めた後、精神医学および犯罪学研究のためフランス留学。帰国後、東京医科歯科大学助教授、上智大学教授。日本芸術院会員。『小説家が読むドストエフスキー』『悪魔のささやき』『宣告』『永遠の都』『死刑囚の記録』『フランドルの冬』など著書多数。



以下、いくつか抜粋する。

第1章 幸福を阻む考え方・生き方(「考えない」習性が生み出す不幸、
他者を意識しすぎる不幸)。

・・・視覚を中心とする情報の洪水のなかで生きている現代人は、どうしても外見にとらわれ、「見られる自分」に対する意識を強めてしまう。・・・問題に直面したときに、それをどう解決していくかという内省力、しっかりと悩み抜く力に欠けているという現代人特有の問題が潜んでいる。

地べたに座ってものを食べたり、電車のなかで化粧したりする若者たちは、傍若無人で一見、人の目などまるで気にしていないように見えます。しかし、彼らが気にしないのは自分とは無関係な存在だと思っている第三者。自分の属する集団のなかでは、仲間からどう思われているかを互いに過剰なほど意識しあい、空気を読み合い、仲間うちで浮いてしまうことのないよう気をつかっているのだと思います。

第2章 「不幸増幅装置」ニッポンをつくったもの(経済最優先で奪われた「安心」と「つながり」、
流され続けた日本人)。

第3章 幸福は「しなやか」な生に宿る(不幸を幸福に変える心の技術、
幸せを追求する人生から、幸福を生み・担う生き方へ)。


生きがいは意外と簡単に持ちうる。すばらしい、特別なものが見つからなければ生きがいを感じられないのではない。
「自分の悩みでいっぱいいっぱいで他人のことなど考えている余裕がないときこそ、ささやかなことでいいから人のために体を動かしてみるのです。」

人のために何かをするということ。それこそが、「私は必要とされている」「私には生きる意味があるのだ」と実感できる最も簡単な、そして誰にでも可能な方法です。

人間には、生活の主となっている場のなかだけで物事をとらえ、考える傾向があります。そして、職場や学校といった一つの場に依存する率の高い人ほど、この「場の心理学」に影響されやすい。・・・こうゆう人は何かトラブルが生じると脆い。・・・一方、逆境に強い人はというと、・・・さまざまな生活環境、生活スタイル、価値観の人たちと触れ合ってきています。

世界と自分自身をしっかり見つめて、本当に大切で必要なものとそれほど必要でもないもの、・・・、努力すればなんとかなることと努力してもどうにもならないこととを見極めていく。そのうえで、断念すべきことは潔く思い切り、自分なりの目標や夢に向かっていく。そういう広い意味での「あきらめ力」を磨くことが、幸せな人生につながっていくのだと思います。

第4章 幸せに生きるための「老い」と「死」(人生八十五年時代の「豊かな老い」の過ごし方、死を思うことは、よく生きること)。

「豊かな老い」の過ごし方では、著者は、「老い」を受け入れる/「初めてのこと」に挑戦し、脳を刺激する/待つこと、ゆっくり歩くことを楽しむ/などを勧める。

細胞のなかには、生きるための遺伝子情報と死ぬための情報がペアで入っています。私たちの体内では今この瞬間も、生きるために害となる細胞や役目を終えた細胞が猛烈な勢いいで死んでいる。・・・死んだ細胞の数だけ、新しい細胞が細胞分裂の形でうまれています。言うなれば、無数の細胞の死が、あなたや私の生を支えてくれているのです。




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