ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~洗い流せば、すむ~

2012-09-24 | 散華の如く~天下出世の蝶~
ささっと、涙を拭いて、城外門口を見ると、
ガタイのいい虚無僧(こむそう)と、それより細いのが、衛兵と問答を起こしていた。
托鉢(乞食)?…違う。殿への御目通りを願っている、彼らは…。
遠くて、お顔がよく見えない。もっと近くに、もっと傍で、そのお顔を拝見したい。
衛兵に言伝して、広間に二人の虚無僧をお通しした。
殿もお呼びして、そのお顔を確認した。やはり、
帰蝶「森様…お…お帰りなさいませ」
可成様の隣に、私の弟が座っていた。
新吾「姉上、お久しゅうございます」
帰蝶「よく…、無事で」
尾張に嫁いで十年余り。十年ぶりの弟は、ボロボロの汚れた衣で身を包み、頬はこけていた。
山中潜伏、身を隠しながらここ尾張まで、さぞ辛かったであろうと、労いの声を掛けたが、
「ただ今、沐浴、の、支度させて、おります…、お疲れに、なったで、ござい、ましょう…」
言葉が喉に詰まって、文章に成らなかった。
涙を堪え、思いをせき止めるのが、精一杯。
森「…他に誰もおりません。姉君に戻られては?」
そう言われて、私は、
帰蝶「新吾ぉ…」姉に戻った。
ダム湖で必死にせき止めた涙が、一気に放水。
弟の許に駈け寄って、弟のこけた頬を掴んだ。
「こんなに、やせてしまって…」
私より、うんと小さかった五歳は面影を残しつつ、もう十五。
私より、うんと背が伸びて、逞しくなって、男になっていた。
兄に命狙われ、追われ、殺されかけた新吾は、義理の兄に救われた。
父が出家させてまで護ろうとした弟の命は、可成様が守ってくれた。
生きて、弟に触れられるとは思っていなかった。だから…、
弟を逃がさないように、抱き寄せた。
新吾「あ、姉上…汚れます…」
身なりの汚さに恐縮する弟を叱責し、余計に強く、しっかり抱き締めた。
帰蝶「洗えば、すむであろうが」