ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~一つの不安、一つの笑み~

2012-09-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
狙われた鮎の未来は、喉に囚われるしかないのか…。
まるで、易者が「あなたの未来は…」そう、勝手に決められているようで、怖かった。
不用意に湧き上がる恐怖心から、私は、無意識に、す…、お腹に手を当てていた。
ぐらり…、時おり吹く風が船と心を煽る。
新吾「姉上、腹が痛むのですか?」
弟が、私の顔を覗き込む。体格も立派、風格も父の影が出て、男らしくなった。
しかし、顔付き表情は、まだまだ若い。
若いからこそ、新吾の…弟の処遇と、彼の未来に一層の不安が募った。
帰蝶「いや…」首を一度横に振って、目を閉じ「…夜風を利いているだけじゃ」
ふふ…と鼻で笑う風が、涼しい顔で通り抜け、素知らぬ顔で鵜匠が、ささ…と筮竹を束ね、屋形船の隣を悠々と通り過ぎていく。篝火も遠くなり、皆も着席。
ようやく船の揺らぎが安定した。
私の重い体も動くようになり、可成様の許で、彼の盃に酒を注いだ。
帰蝶「我が弟のために、忝く存じます」今回の件、その礼を述べた。
可成様は、しばし盃の波紋を見つめ、その波が穏やかになるのを待ち、意外な事を申された。
森「彼を、私に預けては下さいませぬか?」
帰蝶「新吾を?」
唐突な申し入れだった。しかし、新吾とは暗黙の了解があったらしく、
新吾「私からも、何卒、何卒、宜しくお願い致します」
殿に、中途半端な坊主頭を、深々と下げていた。
険しい山中、寝食を共にして何かしらの情が芽生えたか、それとも、潜伏の真意を察したか。
信長「拒む理由が無かろうが…のう?」
帰蝶「むしろ、有り難く存じます」
新吾の教育と、護衛も兼ねるという事で、しかし、
“何かの時”、可成様にご迷惑を掛けする事に成るやも…。
「しかし、これ以上の…」
森「では、お預かり致します」私の言葉を遮り、
心配には及びませぬと、一つ、笑って、
「戴きます」
目を閉じ、酒を、一つ、口にされた。